第3話 業界からのの洗礼?
現場三日目。
「今日は1日汲み取りな」
ヒデさんが言う。
(……来た)
浄化槽の引き抜きは”清掃”。
生し尿の引き抜きは”汲み取り”。
と呼び分けるらしい。
向かった先は、昔ながらの一軒家だった。
「ここ」
裏手に回る。
見慣れない蓋。
(これが……)
「開けるぞ」
ガコン
(やばい)
来る前から分かっていた。
でも。
「……っ!」
比じゃなかった。
(無理無理無理無理)
思わず顔を背ける。
浄化槽とは違う。
もっと直接的な臭い。
逃げ場がない。
「離れすぎ」
「す、すみません!」
言われて戻る。
(いや無理だって)
覗く。
(……うわ)
水気が少ない。
紙が多い。
見た目からして“重い”。
「吸いにくいからな」
ヒデさんが淡々と言う。
「やってみるか」
(え)
「ホース持て」
「……はい」
「その間にバケツで水持ってくる」
持つ。
重い。
それはもう分かってる。
差し込む。
(……いけ)
吸う。
……吸わない。
(あれ?)
音だけが空回る。
「今水入れて崩す」
「はい?」
(崩す?)
ヒデさんはバケツの水を勢いよく流し込み
鉄の棒みたいなやつでかき混ぜる。
(うわ・・・臭いが・・・)
「よし、吸ってみろ」
力を入れる。
ぐっと押す。
ズブッ
(うわっ)
感触。
そして――
ボコッ
遅れて吸い始める。
(来た……!)
でも。
安定しない。
止まる。
「紙が詰まる」
短い説明。
「音が変わるまで待ってろ」
「は、はい!」
ホースの中の紙が吸い込まれ音が変わる。
「よし、吸っていいぞ」
だが、少し吸うとまた止まる。
(難しい……!)
単純な作業じゃない。
場所。
水の量。
バキュームの感覚。
全部違う。
その時。
ピチャッ
(え)
何かが、腕に当たる。
見る。
(……付いてる)
終わった。
(終わった終わった終わった)
臭いが一気に近づく。
「気にすんな」
ヒデさん。
「最初はそんなもんだ」
(いや気にするでしょ)
でも。
作業は止まらない。
続ける。
水を入れる。
混ぜる。
吸い込む。
少しずつ。
吸えるようになる。
やっと終わる。
「……はぁ」
思わず声が漏れる。
体力より、精神がきつい。
これを丸1日・・・。
帰りの車。
「どうだ」
ヒデさん。
「……きついです」
正直に言う。
「だろうな」
それだけ。
「でもな」
一拍。
「これが基本だ」
(これが……)
「逃げるなよ」
短い言葉。
(……)
服を見る。
まだ少し残ってる。
(取れるかな、これ)
でも。
(やるしかないか)
会社に戻る。
「おかえりー」
スミちゃん。
「うわ、洗ってこいそれ」
「やっぱ臭います?」
「そりゃな」
笑われる。
(だよね)
水で流す。
完全には落ちない。
(マジか……)
その臭いが、今日一日を思い出させる。
外に出る。
夕方。
(今日、きつかったな)
でも。
(逃げなかった)
それだけが、少しだけ残った。
「……明日もあるんだよな」
ため息。
それでも。
足は止まらなかった。
――黄昏バキューマーズ。




