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黄昏バキューマーズ ~汲み取り屋の娘が社長になります。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第2話 何もできない

 現場二日目。


 昨日よりマシ――なんて思っていた自分を殴りたい。


(全然ダメだ)


 やることが分からない。

 タイミングが分からない。

 立ち位置すら分からない。


 とりあえず動く。


「そこ、危ない」


「え」


 足が止まる。


 気づけば、ホースの可動域に入っていた。


(危な)


「考える前に動くな」


 ヒデさんの声。


 低くて、短い。


「……はい」


 正論すぎて何も言えない。




 少し離れて、様子を見る。


 ホースの動き。

 バキュームの音。

 二人の位置。


(昨日よりは、見えてる……?)


 でも。


(何すればいいかは分からない)




 また動こうとして――やめる。


(さっき言われたばっかだろ)


 足が止まる。




「……彩乃」


「はい!」


 呼ばれて、反射で返事をする。


「そこ、もう少し寄れ」


「はい」


 言われた通りに動く。


(これでいいのか?)




 しばらくして。


「今だ」


「え」


「押さえろ」


「は、はい!」


 慌ててホースに手をかける。


 重い。


(やっぱ重い!)


 でも、昨日よりはマシだった。


 少しだけ、踏ん張れる。




「そうだ」


 一言。


 それだけ。


 でも。


(ちょっと嬉しい)




 すぐに終わる。


 私はまた“見てるだけ”に戻る。




(何もできてない)




 焦る。


 でも動けない。




 作業が終わる。


「ありがとうございました」


 お客さんが頭を下げる。




(私は何もしてないのに)




 帰りの車内。


 沈黙。




「……すみません」


 思わず口に出る。




「何がだ」


 ヒデさん。




「全然役に立ってなくて」




 少しの間。




「最初はそんなもんだ」




 それだけ。




(慰め……?)




 分からない。


 でも。




(怒られないのも、なんかきつい)




 会社に戻る。




「おかえり」


 篠塚さん。




「どうだった?」




「……全然ダメでした」




 正直に言う。




「最初から出来る人なんていないよ」




 あっさり言われる。




「でもね」




 少しだけ真剣な顔になる。




「分からないまま動くのが一番危ないから」




(……)




「今日、止まったでしょ」




「はい」




「それでいいの」




 優しい声だった。




(止まってよかった……?)




 外に出る。




 少しだけ、風が冷たい。




(何もできない)




 でも。




(昨日よりは、ちょっとだけ分かる)




 その“ちょっと”が、やけに重かった。




「……明日もあるのか」




 ため息が出る。




 でも。




 帰る足は、昨日より少しだけ軽かった。




――黄昏バキューマーズ。

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