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黄昏バキューマーズ 〜20代の娘がいきなり汲み取り屋の社長になる!。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第28話 届かない言葉

 数日後。


 事務所の机の上。


 紙が並んでいる。


「……こんな感じでどうですか」


 彩乃が差し出す。


 手作りの説明資料。


 “浄化槽点検・清掃の内容”


 “なぜこの金額なのか”


 “やらないとどうなるか”


 簡単な言葉でまとめたもの。


「おぉ」


 ハラちゃんが覗き込む。


「分かりやすいっすね!」


「いいじゃねぇか」


 スミちゃんも頷く。


「これなら俺でも説明できるわ」


 少しだけ、嬉しくなる。


(いけるかも)


「じゃあ今日から使ってみましょう」


 彩乃の声に、少しだけ期待が混ざる。


 現場。


 一軒目。


「こちら、今回の作業内容なんですが――」


 紙を出す。


 お客さんが受け取る。


 見る。


「ふーん」


 反応は、薄い。


「こういう理由でこの金額になっていて――」


 説明を続ける。


 頷く。


 でも。


「まぁ、分かったけど」


 一言。


「やっぱ高いよね」


(……あれ)


 二軒目。


「こういう紙あると分かりやすいね」


 いい反応。


(よし)


 でも。


「でも他のとこ、もっと安いって聞いたよ?」


 結局そこに戻る。


 三軒目。


「へぇ、こんなことやってるんだ」


 興味は持ってくれる。


 でも。


「そこまで必要なの?」


 疑問に変わる。


(あれ……)


 帰りの車。


 沈黙。


「……難しいな」


 和也がぽつり。


「うん……」


 彩乃は俯く。


(伝わってるのに)


(伝わってない)


 会社に戻る。


「どうだった?」


 篠塚さん。


「……微妙です」


 正直に言う。


「そう」


 それだけ。


 分かっていたような顔。


「ゼロじゃないでしょ」


「はい……」


「じゃあ続けな」


 簡単に言う。


 でも。


(結果、出てないのに)


 モヤモヤが残る。


 その時。


「なぁ」


 スミちゃん。


「これさ」


「意味あんのか?」


 ストレート。


 空気が止まる。


「やってることは分かるよ?」


「でもよ」


「客、戻ってきてねぇぞ」


 痛いところ。


「……すぐには」


 彩乃が言う。


「変わらないと思います」


「じゃあいつ変わるんだよ」


 言葉が詰まる。


「その間に減ってったらどうすんだ」


 正論。


 また、ぶつかる。


 でも今回は。


 彩乃に返す言葉がない。


(……悔しい)


(やってるのに)


(なんで)


 夜。


 一人。


 机に向かう。


 資料を見直す。


 直す。


 書き直す。


 でも。


(何が違うの)


 分からない。


 時間だけが過ぎる。


 数日。


 数週間。


 続ける。


 でも。


 変わらない。


 むしろ。


「また切られたわ」


 一件。


「こっちも」


 二件。


 増えていく。


 焦り。


 空気が、悪くなる。


 誰も余裕がない。


 笑いも減る。


 あの漫才みたいなやり取りも。


 少なくなっていく。


(違う)


(こんな会社じゃなかった)


 彩乃の胸が締め付けられる。


 夕方。


 外。


 夕焼け。


 でも。


(綺麗に見えない)


 もう何度目か分からない感情。


 立ち尽くす。


(私のせいだ)


 自分が動いた。


 でも。


 変えられなかった。


 むしろ。


 何もできていない。


 拳を握る。


 悔しい。


 悔しい。


 悔しい。


 でも。


 どうすればいいか。


 分からない。


 夕焼けが沈む。


 境界が消えていく。


 その中で。


 彩乃は、ただ立っていた。


――黄昏バキューマーズ。

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