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黄昏バキューマーズ 〜20代の娘がいきなり汲み取り屋の社長になる!。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第27話 正しさのぶつかり合い

 翌日。


 空気は、昨日のまま。


 重い。


 誰もが、どこかで考えている。


(次はどこが取られる)


「おはようございます!」


 ハラちゃんの声も、少しだけ硬い。


「おう」


 スミちゃんも短い。


 いつもの軽口がない。


(やばいな、これ)


 彩乃は感じていた。


 事務所。


 篠塚さんがスケジュールを見ている。


「今日この辺、定岡と被ってる可能性あるわね」


「マジかよ……」


 誰かが小さく呟く。


「被ったらどうすんだよ」


「どうもしないわよ」


 即答。


「普通にやるだけ」


 正論。


 でも。


「向こう値段下げてきてんだろ?」


「客、そっち行くだろ」


 空気がまたざわつく。


「だからってこっちが下げるのは違うって言ったでしょ」


 篠塚さん。


「でもよ!」


 スミちゃん。


「現実減ってんだぞ!」


 声が強くなる。


「理想だけじゃやってけねぇだろ!」


 ピリッと張る。


 誰も止めない。


「理想じゃないわよ」


 篠塚さんも引かない。


「経営よ」


 その一言で、空気が変わる。


「安くしたらどうなるか分かってる?」


「回らなくなるのよ」


「仕事が増えても、利益が減る」


「意味ないでしょ?」


 正しい。


 全部、正しい。


「でもな」


 スミちゃんが低く言う。


「その前に客いなくなったら終わりだろ」


 それも、正しい。


 ぶつかる。


 正しさ同士が。


 彩乃の胸が苦しくなる。


(どっちも正しいじゃん)


(じゃあどうすればいいの)


 答えが出ない。


 その時。


「……あの」


 自分の声。


 気づいたら出ていた。


 全員の視線が集まる。


「説明、ちゃんとしたらどうですか」


 静かに言う。


「値段じゃなくて」


「何をやってるか」


「なんでこの金額なのか」


 言いながら、不安になる。


(これでいいの?)


 少しの沈黙。


「……してるわよ」


 篠塚さん。


「それでも伝わらないって昨日言ったでしょ」


「でも」


 引けない。


「もっとちゃんとやれば」


「伝わるかもしれないじゃないですか」


 空気が少し変わる。


「例えば……」


「紙にするとか」


「見える形にするとか」


 言葉を探しながら。


「説明って、その場だけじゃなくて」


「残る形の方がいいと思うんです」


 沈黙。


 誰もすぐには否定しない。


「……悪くねぇな」


 スミちゃんがぼそっと言う。


「俺ら説明下手だし」


「紙あれば楽かもな」


 ハラちゃんも頷く。


「確かに……」


 少しだけ、空気が緩む。


 でも。


「簡単に言うけどね」


 篠塚さん。


「それ、誰が作るの?」


(あ)


「時間も手間もかかるのよ」


「その分、仕事減るわけじゃない」


 現実。


 突きつけられる。


「……私、やります」


 気づいたら言っていた。


 自分でも驚く。


「え?」


「空いてる時間で」


「やってみます」


 不安。


 でも。


(何もしないよりいい)


 篠塚さんがじっと見る。


 少しの間。


「……やってみな」


 一言。


 許可。


 小さな一歩。


 でも。


 それが。


 この先、どうなるかは。


 まだ誰も知らない。


 外。


 昼の光。


 昨日より明るいはずなのに。


(全然明るく感じない)


 でも。


 止まってはいられない。


 彩乃は、初めて“動いた”。


 それが正しいのか。


 間違いなのか。


 まだ分からないまま。


――黄昏バキューマーズ。

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