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黄昏バキューマーズ 〜20代の娘がいきなり汲み取り屋の社長になる!。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第22話 守りたいもの

 まだ暗い。


 静かな部屋。


 時計は、5時半。


 そっと起きる。


 音を立てないように。


 横を見る。


 妻と、息子。


 小さな寝息。


(……かわいいな)


 思わず、少しだけ笑う。


 起こさないように、ゆっくり立ち上がる。


 顔を洗う。


 着替える。


 ドアに手をかけて――


 もう一度、振り返る。


(よし)


 静かに外へ出る。




 俺の名前は原高徳。


 中畑清掃のバキュームドライバーだ。


 24歳、勤続6年。


 高校卒業後、初めての就職先として選んだのが中畑清掃だ。


 きっかけは、小学生の時だった。


 ある日、我が家に颯爽と現れたバキュームカー。


「カッコいい!」


 そう思った。


 そして。


 黙々と作業するドライバーさん。


「カッコいい!」


 もうその時には、進路を決めていた。



 実は当時、親には反対された。


 でも。


 高校3年まで言い続けた。


 結果、認めてもらえた。


(あの時、折れなくてよかった)



 ちなみに。


 あの時のドライバーさん。


 ヒデさんだ。


(……言ってないけど)


 なんとなく照れくさい。




 会社に着く。


「おはようございます!」


 元気に挨拶。


「おう」


「おはよー」


 返ってくる声。


 この空気、好きだ。


「ハラ」


「はい!」


 呼ばれる。


「今日も頼むぞ」


「任せてください!」


 振り返る。


「スミさん」


 この人はスミさん。


 俺のパートナーだ。


 口は悪いけど。


 お茶目で優しくて。


 天然ボケ炸裂しまくりで。


 楽しい人だ。


「今日も元気だな」


「元気だけが取り柄っす!」


「他にもあるだろ」


「……なんすか?」


「うるさいとこ」


「それ悪口じゃないすか」


 笑う。


(こういうのがいい)



 出発。


 車に乗る。


「昨日ちゃんと寝たか?」


「寝ましたよ」


「顔眠そうだぞ」


「子供が夜泣きして」


「そうか」


 一瞬だけ、優しい声。


「大変だな」


「でも可愛いんで」


「まぁな」


 少し笑う。



 現場に着く。


「よし、やるぞ」


「はい!」


 ホースを引く。


 吸う。


 動く。


「ハラそこ!」


「はい!」


 声を張る。


 体を動かす。


 きつい。


 でも。


(嫌じゃない)


 むしろ。


(楽しい)



 昼。


 コンビニの袋を開ける。


「またそれか」


「はい」


「弁当作ってもらえよ」


「今はいいんす」


「なんで」


「大変なんで」


 少しだけ、視線を落とす。


「子育てで」


「……そうか」


 スミさんはそれ以上言わない。


(ありがたい)



 午後も回る。


 いつも通り。


 でも。


 頭のどこかにある。


(早く帰りたい)




 仕事が終わる。


「おつかれっす!」


「おう」



 帰る。


 ドアを開ける。


「ただいま」


「おかえり!」


 妻の声。


 そして。


 小さな手。


「……っ」


(やばい)


 一気に力が抜ける。


 抱き上げる。


 軽い。


 あったかい。


(これだ)


 全部、報われる。


 妻が笑う。


 息子が笑う。


(守りたい)


 この時間。


 この場所。


 この人たち。


 やりたい仕事を楽しくやれている。


 大好きな家族と、楽しく暮らしている。


(幸せだな)


 だから。


 思う。


(もっと頑張れる)


 いや。


 違う。


(頑張る)


 この幸せを守るために。


 俺は、明日も働く。


――黄昏バキューマーズ。

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