第19話 外の景色、もう一度
「彩乃ちゃん、電話」
篠塚さん。
「江川さんって方から」
(江川……?)
一瞬、考える。
(……あ)
「もしもし」
「久しぶり」
その声で、思い出す。
「美咲さん」
「管理士、受かった?」
「はい、なんとか」
「よかった」
少し笑う声。
「ねえ」
「時間あるとき、来ない?」
「え?」
「うちの会社」
一拍。
「見てほしい」
(会社……)
「ちょっと遠いけど」
「車で一時間くらい」
「話したいこともあるし」
(…話)
「……行きます」
気づいたら、そう答えていた。
後日。
車を走らせる。
(ちょっとした遠出だな)
見慣れない景色。
ナビに従って進む。
そして。
「……でか」
思わず声が出た。
広い敷地。
並ぶ車両。
大きな建物。
(想像と違う)
「おーい」
手を振る美咲。
「遠かったでしょ」
「いや……それより」
「大きいですね」
「まあね」
さらっと言う。
「一応、いろいろやってるから」
(いろいろってレベルじゃない)
中に入る。
「まずは事務所」
人が多い。
電話が鳴っている。
パソコンの音。
(うちと全然違う)
「で、こっち」
外へ。
車両。
タンク。
見たことない機械。
「これ、高圧」
「え、でか……」
「強力タイプ」
「で、これがダンパー」
「ダンパー?」
「強力吸引車」
説明される。
「公共の側溝とかやる」
「あと、詰まりとか緊急対応」
(スケール違う)
「24時間で回してる」
「え、夜も?」
「うん」
「シフト組んで」
(そんなことまで……)
「うちも元は汲み取り屋だけど」
「そこから広げた」
一拍。
「父の代で」
(やっぱり)
「すごいですね」
「すごいんだよ」
あっさり言う。
「でもさ…」
少しだけ、トーンが変わる。
「私はすごくないから」
(……)
「現場知らないし」
「いきなり上に立ったし」
「なめられてるよ」
笑ってる。
でも。
(本音だ)
「普段は気づかないふりしてるけど」
一拍。
「悔しいよ」
静かに言う。
「だから現場出始めた」
「反対されたけど」
(……)
あの講習のときと同じ目。
「でもね」
続ける。
「母に言われたの」
「現場も大事」
「人も大事」
「でも」
一拍。
「経営者は会社を守るのが一番だって」
(……)
「会社がなくなったら」
「社員、全員困るから」
重い言葉。
風が吹く。
広い敷地。
たくさんの人。
(守るって……)
規模が違う。
でも。
(同じだ)
会社。
人。
生活。
全部、繋がってる。
「彩乃は?」
「え?」
「どうするの」
急な問い。
「これから」
(これから……)
少し考える。
現場。
会社。
篠塚さん。
ヒデさん。
和也。
「……両方、やりたいです」
「現場も」
「会社も」
自然に出た言葉。
「いいじゃん」
即答。
「それできたら強いよ」
笑う。
「また来なよ」
「はい」
帰り道。
夕焼け。
少し前と、同じ色。
でも。
(見え方が違う)
外には、外のやり方がある。
でも。
(繋がってる)
自分のやること。
少しだけ。
見えた気がした。
――黄昏バキューマーズ。




