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黄昏バキューマーズ ~汲み取り屋の娘が社長になります。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第18話 その席の重さ

「スミさーん!」


 朝から元気な声。


「今日の一件目、ここじゃないっすか?」


「え?」


 配車表を覗く。


「……あ」


 スミちゃん、固まる。


「やっちゃった?」


 ハラちゃんがニヤニヤする。


「いや、これは……」


「完全に逆方向っすね」


「うるさい!」


「これじゃ時間ギリギリじゃないすか」


「……まぁ、行けるでしょ」


「行けないでしょ」


(大丈夫なの……?)


「ま、なんとかなるって」


 軽い。


 その時。


「なんとかならないわよ」


 声。


 振り返る。


 篠塚さん。


 いつも通りの顔。


 でも。


(……違う)


「それ、誰が決めたの?」


 静か。


「えっと……俺です」


 スミちゃん。


「確認した?」


「いや……なんとなく」


 一瞬、沈黙。


「なんとなくで変えるなって言ったわよね」


 低い。


 空気が、変わる。


「すみません……」


「すみませんじゃないのよ」


 淡々と。


「これ、間に合わなかったらどうなる?」


「……お客さんに迷惑かかります」


「だけ?」


「……」


「営業止まるかもしれないのよ?」


 一言。


 重い。


「その一件で、どれだけ困る人が出るか分かる?」


 誰も答えない。


「仕事ってね」


 一拍。


「自分たちだけで終わらないのよ」


 視線が、全員に向く。


「アンタたちの“なんとなく”で」


「誰かの生活が止まるの」


(……)


 胸に刺さる。


「舐めてんじゃないわよ」


 初めて聞く声。


 強い。


 でも。


 怒鳴ってない。


 だからこそ。


 怖い。


「……やり直すわよ」


 配車表を取り上げる。


「ハラちゃん」


「は、はい!」


「このルートだと無理」


「はい……」


「こっち回って」


「はい!」


「スミちゃん」


「……はい」


「次からは確認」


「……はい」


 それだけ。


 でも。


 完全に、空気が締まる。


(すごい……)


 あっという間に組み直される。


 無駄がない。


 迷いもない。


「はい、これで回る」


 紙を渡す。


「文句ある?」


「……ないっす」


「よし」


 いつもの顔に戻る。


「じゃ、行ってらっしゃい」


「いってきます……」


 少しだけ、しょんぼりしたスミちゃん。


 その後ろ姿を見ながら。


(……違う)


 さっきの光景。


 頭の中で、繰り返される。


(あれって……)


 ただ怒ったんじゃない。


(守ってる)


 現場を。


 お客さんを。


 会社を。


 そして。


(人を)


 あの席。


 電話を取って。


 予定を組んで。


 全体を見て。


 一番前には出ないけど。


(全部見てる)


 ふと、思う。


(これ……)


(社長がやることじゃない?)


 現場じゃない。


 でも。


 全部に関わる場所。


 責任が集まる場所。


(いずれ……)


 自分が、やる。


 その時。


(こんな風に、見れるかな)


 全体を。


 人を。


 仕事を。


「なにボーっとしてんの」


「え?」


 篠塚さん。


「行きなさいよ」


「あ、はい!」


「現場も大事だからね」


 ニッと笑う。


「全部繋がってんだから」


(……)


 その一言で。


 ストンと落ちる。


 走り出す。


 現場へ。


 でも。


 少しだけ。


 見える景色が、変わっていた。


――黄昏バキューマーズ。

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