第17話 うるさい人ほど、いないと困る
「ちょっとアンタたち!!」
朝一番。
事務所に響く声。
(出た)
「なんで昨日の伝票、あの順番なの!?」
「いや、なんとなく……」
「なんとなくで並べるな!」
スミちゃんが怒られている。
「だって見やすいかなって」
「誰が見るのよそれ!」
「俺」
「アンタは見なくていいの!」
(理不尽)
横でハラちゃんが笑いをこらえている。
「アンタも笑ってんじゃないわよ!」
「す、すみません!」
「声出てるのよ!」
(この人……)
「彩乃ちゃん」
「はい!」
「これ、今日の配車ね」
紙を渡される。
「えっと……」
びっしり書かれている。
時間。
場所。
順番。
(細かっ)
「昨日のうちに全部組んどいたから」
「これでスムーズに回るはず」
「はず、じゃないわ」
「回るのよ」
(強い)
「昔はね、よく揉めたのよ」
「この人たちが文句ばっか言うから」
「いや、無茶振り多かったんすよ」
和也。
「現場知らないくせにって言われたわねぇ」
「実際そうだったろ」
ヒデさんがぼそっと言う。
「うるさいわね!」
即ツッコミ。
「でもね」
一拍。
「悔しかったから全部覚えたのよ」
「距離も、時間も、作業の重さも」
「で、どう組めば楽になるか」
紙をトントンと叩く。
「今は文句出ないでしょ?」
「……まぁな」
「出ても聞かないけどね」
(強すぎる)
「電話も出るからね、あたし」
そのタイミングで鳴る。
「はい、中畑清掃でーす!」
声が変わる。
明るい。
「はい、いつもお世話になってます~!」
(別人)
「ええ、大丈夫ですよ」
「今日中に伺えます」
チラッと配車表を見る。
「〇時くらいでどうですか?」
(もう決めた)
「はい、ありがとうございます~!」
ガチャッ
「ハラちゃん」
「はい!」
「一件追加」
「え、マジすか」
「マジよ」
「どこっすか」
「ここ」
「うわ遠っ」
「帰り道でしょ」
「……まぁ」
「文句ある?」
「ないっす!」
(すごい)
完璧に回してる。
「あとね」
「お金のことはあたしやらないからね」
「え?」
「そこは彩乃ちゃん」
(私!?)
「ちゃんとお母さんから教わりなさいよ」
「はい……」
「数字はね、誤魔化し効かないから」
一瞬だけ、真面目な顔。
「そこ間違えたら全部崩れるわよ」
(重い)
「まぁでも」
すぐ戻る。
「現場はあたしたちで回すから」
「安心しなさい」
ニッと笑う。
「ね、スミちゃん」
「はいはい」
「ちゃんとやりなさいよ?」
「やってますよ!」
「嘘つけ」
ハラちゃん。
「昨日ホース踏んで転んでたじゃないすか」
「それは事故!」
「毎回事故じゃないすか」
「うるさい!」
「アンタたちほんと飽きないわね」
ため息。
でも。
少しだけ、笑っている。
(この人がいるから)
回ってる。
たぶん。
ずっと前から。
母の時も。
その前も。
表には出ないけど。
(支えてる人)
「ほら、行くよ!」
「はい!」
今日も一日が始まる。
「いってらっしゃい!」
「中畑清掃!今日も絶好調!」
うるさい声と一緒に。
でも。
(いないと困るんだろうな)
きっと。
――黄昏バキューマーズ。




