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黄昏バキューマーズ ~汲み取り屋の娘が社長になります。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第16話 外の景色

 講習、三日目。


(まだ三日目か……)


 すでに長い。


 眠い。


 でも。


 少しだけ、変わったことがある。


「おつかれ」


 隣の席。


 あの女性。


「おつかれさまです」


 自然に言葉が出る。


「今日のやつ、長くない?」


「長いです」


 小さく笑う。


 それだけで、少し楽になる。


 講義が始まる。


 相変わらず眠い。


 でも。


 少しだけ、意識が違う。


(あとで話せるし)


 そんな理由で起きていられる自分に、少し驚く。


 休憩時間。


「ねえ」


「はい?」


「名前、聞いてなかった」


「あ、彩乃です」


「私は美咲」


(美咲さん)


「現場やってるんだよね?」


「はい」


「一人で回ったりも?」


「最近やっと……」


「すご」


(すご……?)


 少しだけ、くすぐったい。


「私さ」


 一拍。


「会社、継いだばっかなんだよね」


(やっぱり)


「経営の方で」


「ほとんど現場出てない」


「……そうなんですね」


「正直、分かんないこと多くてさ」


 少しだけ笑う。


「怖いんだよね」


(怖い)


「何が起きてるか分かんないまま判断するの」


(……)


「だから来た」


 まっすぐな目。


「知っとかないとダメだなって」


 言葉が重い。


「彩乃さんは?」


「私は……」


 少し考える。


「逆です」


「え?」


「現場しかやってないです」


「経営のこと、全然分かってない」


「でも」


 一拍。


「最近、ちょっとだけ」


「この仕事、嫌じゃなくなってきてて」


 言いながら、自分で少し驚く。


「いいじゃん」


 即答。


「それ、一番強いよ」


(強い?)


「だってさ」


「現場分かる人が上に立つのって、強いじゃん」


(……)


「逆に私、それないから」


 軽く言う。


 でも。


(羨ましいのは、こっちかも)


 ふと思う。


 講習後半。


「ねえ」


「はい?」


「現場ってさ」


「やっぱり、いい?」


 同じ質問。


 少し考える。


 臭い。


 汚れ。


 大変。


 でも。


「……見えるんです」


「え?」


「お客さんの顔とか」


「安心した感じとか」


 一拍。


「それが分かるのは、いいなって」


 美咲が少しだけ笑う。


「いいな、それ」


 その言葉が、素直に嬉しかった。


 最終日。


「終わった……」


「長かったね」


 外に出る。


 少しだけ、開放感。


「時間ある?」


「はい」


「ご飯行こ」


 近くの定食屋。


「お疲れさま」


「お疲れさまです」


 少しの沈黙。


「さ」


 美咲が言う。


「最後に一個だけ」


「はい?」


「うちさ、昔ピンチだったときあって」


(ピンチ)


「そのとき言われたの」


 一拍。


「“困ってる人って、困ってる顔してない”って」


(……)


「だから」


「気づいたやつが拾えって」


 静かな声。


「それで、なんとか乗り切った」


 その言葉が、胸に残る。


「名前、ちゃんと聞いたし」


「今度は仕事で会うかもね」


「ですね」


 名刺を渡す。


 受け取る。


「頑張ろ」


「はい」


 別れる。


 帰り道。


 空を見る。


 夕焼け。


 少しだけ、違って見えた。


(外にも、同じ人がいる)


 違う場所で。


 違うやり方で。


 でも。


(同じように悩んでる)


 足を止める。


 そして。


 また歩き出す。


 少しだけ。


 前を向いて。


――黄昏バキューマーズ。

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