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黄昏バキューマーズ ~汲み取り屋の娘が社長になります。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第15話 退院、そして講習へ

 母が、退院した。



 少しだけ、安心する。


 まだ完全じゃない。


 でも、思っていたより元気そうだった。


「無理しないでよ」


「分かってるって」


 そう言いながら、台所に立とうとする。


「ほら、そういうとこ!」


「じっとしてる方がダメなのよ」


 振り返らずに言う。


「動かないと弱るから」


(……経験者)


 この人はずっと現場に出てきた人だ。


 一人でも作業していたことがある。


 だから。


「大丈夫」


 その一言に、変な説得力がある。


「来週から講習でしょ?」


「うん、二週間」


「ちょうどいいじゃない」


「え?」


「私も少しずつ慣らすし」


 軽く言う。


「心配しててもしょうがないでしょ」


(……)


 強い。


 でも。


「ちゃんと食べてよ?」


「はいはい」


 少しだけ、笑った。


 翌週。


 駅のホーム。


(人、多い……)


 朝の空気が、重い。


 人。


 人。


 人。


(こんなの毎日?)


 電車が来る。


 押し込まれる。


(無理)


 息が詰まる。


 揺れる。


(これが二週間……)


 少しだけ、後悔する。


 講習会場。


 ドアを開ける。


(……男ばっか)


 見渡す限り、おじさん。


 年齢層、高い。


(場違い感すごい)


 席に座る。


 ちらちら見られる。


(やめてほしい)


「若いのに偉いねえ」


 来た。


「あ、いや……」


「どこの会社?」


(始まった)


 適当に答える。


 さらに話しかけられる。


(めんどくさい)


 やっと講義が始まる。


 少し、ほっとする。


 内容。


 正直。


(眠い)


 知ってる単語も出てくる。


 でも。


 説明が長い。


 単調。


(寝る)


 意識が落ちそうになる。


(ダメだ)


(落ちたら終わりだ)


 最後に考査があると聞いている。


(ここで落ちたら洒落にならない)


 無理やり目を開ける。


 ペンを動かす。


(現場の方がマシかも)


 ふと、思う。


 横を見る。


 少し離れた席。


 同じくらいの年齢の女性。


(珍しい)


 目が合う。


 すぐ逸らされる。


(あっちも気にしてる?)


 また、講義。


 眠い。


 長い。


 休憩時間。


 立ち上がる。


 伸びをする。


「おつかれ」


(え?)


 さっきの女性。


「……おつかれさまです」


「眠くない?」


「めちゃくちゃ眠いです」


 思わず本音。


 少し笑われる。


「だよね」


 それだけで、少し楽になる。


「現場?」


「え?」


「作業着だから」


「あ、はい」


「そっか」


 一拍。


「いいな」


(いいな?)


 少しだけ、引っかかる。


「私、ほとんど出ないから」


(……)


 会話が、続きそうになる。


 でも。


「休憩終わるよー」


 声が飛ぶ。


「また後で」


「はい」


 席に戻る。


(なんだろ)


 少しだけ。


 気になる存在ができていた。


 講義は、まだ続く。


 長い二週間の、始まりだった。


――黄昏バキューマーズ。

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