第14話 一人でできること
朝。
「今日は一人ね」
篠塚さんがさらっと言う。
「……はい」
ついに来た。
一人で点検。
和也と回った一か月。
教わったことは多い。
でも。
(できるかどうかは別)
軽バンに乗り込む。
エンジンをかける。
(よし)
一軒目。
インターホンを押す。
「おはようございます。浄化槽の点検です」
挨拶。
裏へ回る。
(いつも通り)
蓋を開ける。
覗く。
(……)
水は動いている。
臭いも強くない。
(問題なさそう)
水質測定。
汚泥確認。
ブロワーも正常。
(よし)
スムーズに終わる。
(いけるじゃん)
少しだけ気が楽になる。
二軒目、三軒目。
同じように進む。
少しずつ、体も慣れてくる。
(これなら……)
四軒目。
蓋を開ける。
(……あれ)
少しだけ違和感。
水の色が、少し濃い。
エアも弱い。
(気のせい?)
しゃがみ込んで、もう一度見る。
流れ。
音。
(……いや)
なんか、変だ。
「……」
少しだけ、心臓が速くなる。
(どうする)
頭の中で、言葉が浮かぶ。
「蓋開けた瞬間、考えろ」
(考える)
水位。
流入。
ブロワー。
(ブロワー……)
耳を澄ます。
音が弱い。
(あれ?)
本体を確認する。
電源。
そしてフィルター。
(……あ)
吸入口が詰まり気味。
(これか)
フィルターとともに掃除。
シュー……と音が戻る。
エアが勢いよく出る。
(よかった……)
大きなトラブルじゃない。
でも。
(気づかなかったら……)
少しだけ、背筋が冷える。
作業を終えて、玄関へ。
「どうでした?」
奥さんが聞いてくる。
「大きな問題はないです」
一拍。
「ただ、ブロワーのエアが弱くて」
「え、そうなんですか?」
「はい。このままだと処理がうまくいかなくて」
「臭いの原因になる可能性がありました」
「直しておきましたので大丈夫です」
奥さんの表情が、ほっと緩む。
「よかった……」
「最近ちょっと気になってたんです」
(やっぱり)
「これで様子見ていただいて大丈夫です」
「ありがとうございます」
頭を下げられる。
(……)
あの言葉が浮かぶ。
「生活の安心、それがうちの商品だ」
(今の、そうだよね)
トラブルになる前に。
不安を消す。
(これが点検)
軽バンに戻る。
エンジンをかける。
ふっと息を吐く。
(できた……)
完璧じゃない。
でも。
(ちゃんと、見て判断できた)
ほんの少し。
自信になる。
夕方。
最後の現場を終える。
空が赤い。
いつもの色。
でも。
今日は少しだけ違う。
一人で回って。
考えて。
判断して。
誰かの不安を、一つ消した。
(少しは……)
一人前に近づいたかな。
そんなことを思いながら。
車を走らせた。
――黄昏バキューマーズ。




