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黄昏バキューマーズ ~汲み取り屋の娘が社長になります。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第11話 見えない価値

今日は和也と同行。


一軒目。



「で、いくら?」


開口一番、それだった。


「は?」


思わず声が出る。


「いやだから、いくらかかるのって」


目の前の男性は、腕を組んだまま言う。


(説明、まだしてないんだけど)


「まず状態を――」


「いいから値段」


被せられる。


(……こういう人、いるんだ)


「見ないと正確には――」


「大体でいいよ」


雑だ。


「安くできるんでしょ?」


その一言。


空気が、少し変わる。


「……見ますね」


和也が静かに入る。


蓋を開ける。


覗く。


(……悪い)


明らかに状態が良くない。


汚泥が乾いて固まっている。


臭いも強い。


「どう?」


また値段の話。


「状態よくないですね」


和也が淡々と言う。


「で、いくら」


(それしかないのか)


「さすがに清掃しなさすぎで・・・」


「放っておくと、もっとかかります」


一瞬、沈黙。


「脅してる?」


低い声。


空気が張る。


「違います」


和也は変わらない。


「事実です」


言い切る。


「今ならまだ軽く済みます」


「でも、詰まったら」


一拍。


「生活に影響出ます」


静かだけど、重い。


男性は少しだけ視線を外す。


「じゃあそっちの言う値段でやれよ」


(断りたいわ、こっちから)


「わかりました、始めます」


和也は無表情で答える。





作業後。


お金を預かるため玄関へ。


「玄関に乗るな、汚いんだから」


「ほらよ」


お金をこちらに向かって投げる。


(いい加減にしろよ)


感情を抑えてお金を拾い集める。



「いいか、お前らがやってる仕事はな」


「最低の人間がやることなんだぞ」



(なんでこんなことを言われなきゃ)


涙があふれる。


怒りなのか悲しみなのかわからない。



「早く領収書よこせ」


人差し指と親指でつまむように受け取る。


汚いものを触るように。


「……あ、ありがとうございました」


完全に涙声。



「いくぞ」


和也に手を引かれる。




帰り道。


「偉いよ」


「よく耐えたな」


和也が静かに声をかける。


「泣いちゃったけどな」


いつもより優しい話し方。


「逃げなかったのは立派だ」



「さっきの人、いつもああなの?」


彩乃が聞く。


「いや、初めて行った」


和也が答える。


「他から断られてうちに頼んだんだろ」


「え」


「あの調子だぞ?」


「客選んでもいいだろ、俺たちだって」


確かにそれくらい辛かった。


悲しかった。


悔しかった。



「初めてだよ」


「あそこまでひでぇ事言う客は」


少しだけ視線を前に向ける。


「……もしお前がいなかったら」


(……)


「ブチ切れてトラブったかもしれねぇ」


「駄目だよ~」


「ホントよく耐えた!さすが次期社長!」


「やめてよ~」




夕焼け。


あの色。


「なあ」


和也が言う。


「さっきのあいつ」


「あれでも今、安心してるはずだよ」


「え?」


「不安だから依頼してくるわけで」


「気にしてなかったらお金かけない」


少しの間。


「生活の安心、それがうちの商品だ」


その言葉で、全部繋がる。


(ああ)


値段の話しかしなかったあの人も。


不安だったんだ。


分からないから。


見えないから。


「……そうだね」


小さく頷く。


夕焼けが沈む。


曖昧な境界。



悪く言う人もいる。


でも。


感謝してくれる人もいる。


見えないだけで


ちゃんと、意味がある。


私は、それを少しだけ分かり始めていた。


――黄昏バキューマーズ。

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