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9回 大浦為信という男

「ただの、蒼次郎よ。これは、論功行賞ではない。」


晴政様は、我慢の限界かのようにそう絞り出した。でもそれは、怒っているというよりか、笑いを我慢していたように見える。


「儂が言ったのは、物や所領の話よ。是迄そなたが言っておったのは、以前から我らの中である程度決まっていた話よ。それが詳細まで決まったに過ぎぬ。何かないのか、こう欲しい物とか?」



「ならば、我らが住める程度の屋敷を頂きたい。」


「いや…そうではなくてな。」


「蒼次郎様、おそらく晴政様がおっしゃりたいのは、刀とか馬とか土地とかの話をしてるんですよ。」


「へぇ〜。なら、2000石程度の土地をください」


「蒼次郎様…先程と変わっておりませぬ。」


「ならば、名のある刀を二振りと槍を頂きたい。出来れば、鎧も同じ数お願いしたい。」


「その理由を聞いても?」


「私のバカな家臣達は、自分の物を使うと言って聞かず、伊達を去る際に頂いた武具を持参しなかった。ただ、先程の戦闘の際に確認したら、どれもボロボロだったので。新しいものをあげたいのです。どうせ、小奴らは戦闘で存分に扱き使っていきたいですので、先んじて投資をしておくのです。」


「何か、希望はあるか?例えば鎧に関してだが。」


「佐助、こいつ等の鎧の案を預けてあったな。俺を持ってきてくれ。」


「そうおっしゃるかと思いまして、持参しております。」


「ありがとう。」


こう見えても俺は、絵画のコンクールで全国的に注目されたこともある。まぁ、当時は今以上に武道にしか興味がなかったから、適当に流していたが。


勘兵衛の鎧は、見たことなかったから、本多忠勝のパクリだ。まぁ、いいっしょ。こっちのほうが先に生まれて、先んじて動いているんだし。まだ、この世界での本多忠勝は、2歳だ。


次に嘉明だが、こいつの鎧は見たことあるから、そのまま書いた。兜に丸い円が施された甲冑…にしようと思ったけど、ダサいので、福島正則の甲冑をこちらも先んじて拝借しといた。大水牛甲冑である。兜は、作ってもらってから、零に強度を高めて軽くしてもらおう。


清興は、そのままの甲冑。別に格好悪くないし、というより彼にはその甲冑でないと勿体無い。本当の史実で関ヶ原で散った彼の勇姿は、あの甲冑あってこそ。


刀と槍は、別に何も書かなかった。これについては、自分達で自分に合う物を見つけていくべきだからな。


「随分と上手く絵を書くのだな。これほど綺麗に書いてくれれば、職人らも作りやすかろう。ならば、所領に関してだが…。」


「晴政様。」


「どうした、高信?」


「津軽郡には、まだ余っている土地があります。合わせれば、3000石程度にはなるかと。」


「ならば、序に南部家についても教えてやるのだ。」


「畏まりました。では、蒼次郎殿。これから、よろしく頼む。」


「こちらこそ、お願いします。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「蒼次郎様~。朝ですよ。」


バタバタと廊下を早歩きながら俺に声をかけているのは、この声音からして菜奈だろうな。花巻城での攻城戦の後、俺たちは石川高信殿に連れられて、津軽郡に入った。ここ数日は、食事と睡眠、風呂以外は郡内の様子を見て回った。俺の提案書に従って見事に成し遂げられている。農民たちの顔も幸福感にあふれている。俺が望んだ光景がそこには広がっていた。


「起きてるじゃないですか!早くお布団から出てください。皆さんはもう朝餉を済まされましたよ?」


菜奈は、随分と元気になった。4年前に助け出した当初は、人間不信で閉じこもっていたが、黒葉佩衆の女性たちや農業改革で知り合った女性たちに手伝ってもらい徐々に回復していった。最近では、朝が苦手な子供を起こしに来る母親のような存在に…


「蒼次郎様!!」


そう言って、菜々は俺の掛け布団をひっぺがえした。こういうところは、本当に母親みたいだな。


「わかったよ。そんなに怒るなって。皴ができちゃうぞ(笑)?」


「心配して頂けるのでしたら、急いでください。」


俺は、半ば無理やり部屋から出ると、庭に佐助と丹波が控えていた。黒葉佩衆も伊賀衆も俺の指示で毎日忙しく動き回っている。俺は、彼らに泥水をすするような環境にはおかず、それぞれに屋敷や自宅を用意している。平成に生まれた人間として、人種差別は嫌だからという理由なのだが、差別されるのが当たり前のように彼らにとっては、俺は救世主に見えるのだそうだ。そのため毎日喜々として働いてくれている。ここ数日は、国人衆への挨拶周りや地図の作成に多くの人手を割いていたようだ。ただ、二人には別の特別な仕事を頼んでいたのだが…


「首尾は?」


「幾つかの国人衆や他の家臣の方に声をかけておりました。彼らあてに送られた密書も確保してあります。」


「当事者たちは?」


「国人衆は、石川様につくように説き伏せておきました。」


「条件は?」


「所領の安堵」


「それならいいな。別に新しい土地がほしいってわけでもないなら、好きにするといい。朝飯を食べたら、石川殿に目通りしたい。話を通しておいてくれ。」


「「承知」」


正直に言えば、大浦為信の引き抜きに関して悩む点があった。なにせ、謀略家とはいえ、優秀なのには間違いない。ただ、家老たちに目をかけてもらったことで、その信頼を失うほうが勿体ないので、潰すことを選んだ。彼一人いなくなっても問題ない。そもそも、石川家が残っていれば、大浦家を根絶やしにしようと大した問題にならない。



「蒼次郎殿、私に用があると佐助殿と丹波殿から聞き及んだが、どのような内容で?」


「石川様は、家臣の大浦為信殿のことをどのように見えおられますか?」


「唐突に何だね?」


「参考までにお聞かせ願いたい」


「野心家といったところですかな。」


「野心家ですか?」


「ああ。彼は、かつてこの津軽郡を治めていた浪岡家の家老だったのだが、浪岡家が不利とみると、さっさとこちらに寝返り、浪岡家の根絶に尽くしたのよ。戦国の世を生きる上で、主の切り替えは仕方のないことではあるが、奴はやりすぎたのよ。」


「やりすぎた?」


「自分との繋がりを持つ者を根こそぎ殺戮し尽くしたのだ。何か漏れては困ることがあったのだろう。」


浪岡家だったんだ。それは知らなった。主君を裏切った経験があるんだ。なら、謀反を起こしても何ら不思議はないわけか。


「しかし、なぜそのようなことを?」


「丹波、例の文を」


「はい。石川様、こちらをご覧ください。」


「これは?」


「大浦為信殿が、領内の国人衆や他の家臣の方々当てに出された密書であります。」


「密書?どんなものかね?」


「謀反」


「ま…まさか。」


「お読みいただけば、お分かりになるかと。」


それから、石川様は、何通もの密書を読み進めていった。最初は半信半疑であったが、それぞれに大浦家の実印が押されてることが決定打となった。


「危険視はしていたが、まさか謀反を起こそうとしていたとは…」


「おそらくこれは下準備の段階かと。」


「どういうことかね。」


「石川様には、亀九郎様という御子息がおられます。」


「本当に詳しいのだな。君には隠し事はしないほうが身のためだな」


「別にそんな…。話を戻しますが、仮に私が伊達家を継ぎ、南部家に来ていなかったらその子はどうなったでしょう。晴政様には男子が居られんからな。その子が養子として南部家を継いでいたでしょう?その時こそ、大浦為信にとって絶好の機会となります。」


「何故だ?」


「石川家には、跡取りがいなくなるのでは?」


「次男がいるが…まぁ、まだ3歳だが。」


「そうですか…。でも、幼いという理由で、動くやも知れません。家中を纏め、あなたを暗殺すればその時点で石川家は、終わり。大浦家の独立がなされます。」


「それは…あり得る話だ。なんということだ、一門衆である儂の家臣が謀反を企てておるとは…。晴政様にお話したらなんと言われるか。」


「奇跡的にまだ、これは初手に過ぎず、国人衆の説得には私が先んじて、すでに成功しました。」


「彼らは何と?」


「所領を安堵いただければ、石川様につくと。」


「…それはよかった。では、やつにつく家臣はどうなのだ?」


「それは申し訳ないですが、家臣の方々には会えませんでしたので、分かりませぬが。」


「心配することはない。儂に心から従っているわけではないる家臣など数えるほどしかおらん。殆どが浪岡家の家臣だったものばかりだからな。」


「どうでしょう。この際、晴政様に打ち明けてみては?」


「そ…それは。」


「私からも、進言いたしますよ。これは解決できる問題です。今なら反乱を起こす前に集結させられます。事前に解決できれば、晴政殿もそれほど問題にはしないのでは?そのような輩を見せしめとし、南部家の方針を家臣たちに示すべきです。」


「そうかもしれぬな。だが、そうなるとそなたも覚悟を決めてもらわねばならぬぞ。」


「覚悟とは?」


「儂は、長いこと南部家にお仕えしてきたが、蒼次郎殿のように人の心情を容易く見抜く御方には会ったことがない。儂は現時点を以てそなたを南部家の第24代当主となれるように、最大限の支援をさせてもらう。信愛殿にもこの事は、私からうまく話しておく。明日、皆で晴政様にお目通り願おう。」


「わ…わかりました。」


「本日は早く寝ることだな。明日は、そなたにとっても人生の転機となるのだからな。」


そういって、石川殿は立ち上がり、笑いながら部屋を出ていった。それも高らかに笑いながら。それに引き換え、俺は、急に南部家の嫡男候補に挙げられ、予定が大きく狂ってしまい、呆然と外を眺めることしかできなかった。



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