第2章1回 斯波家
伊達家からの追放を機に新たに第2章が始まります。そして、ようやく菜奈との関係に動きが…
宗秀と別れて、俺たちはゆっくりと斯波領内へと歩みを進めた。その間も抜け穴から忍びたちによって情報が届けられた。
母上は、俺が事情を全て把握している事を恐れて、最上家に俺の暗殺を懇願したようだが、その文は全て父上によって握りつぶされ、折檻されているとのこと。まぁ、そんなことすれば、現代ならDVと騒がれるところだが、犯罪者ならいざ知らず、もはや民間人となった俺を殺すことは、伊達家の恥となると、父上は家臣らに説明したようだ。
母上は、完全に孤立した形となった。彦太郎は、父上によって新たな傅役が与えられ、厳しく鍛えられているという。因みに片倉は、父上から睨まれて以降、家老から外され、家臣団から蔑まれ、落ちるところまで落ちたようだ。
そんな情報を聞いているうちに、5日は経過し、俺たちは遂に坑道の出口にたどり着いた。
俺たちが坑道から出ると、そこには伊賀衆が見慣れない陣羽織を着込んだ武将のそばに控えていた。伊賀衆総勢、300名。他の連中は、既に南部晴政殿のもとにいるか、調略・地図作製・情報収集のために各地を飛び回っている。全体では、600人はいると聞いている。
織田信長と争った天正伊賀の乱では、総勢3500名伊賀者が戦闘に参加したというのだから、まだまだ居るということだ。単純に金と土地の問題でそれ以上は、俺自身で養えなかったというのが、理由だ。
黒葉佩衆は姿は見えないが、気配だけでも結構な数がいる。こちらも全体では、300程度はいると佐助から聞いている。その大半を護衛という名目で、つれてきたから気配が多いのは当然なのだが。
そうこうしていると、見知らぬ陣羽織を身にまとった斯波家家臣と思われる武将が騎乗したまま近づいてきた。顎髭が毛むくじゃらで清潔感があるとは言えない。骨格はゴリラのようにでかく、猛将の風格はあるが、斯波家と言えば、名門氏族でありながらあっさり南部家に滅ぼされた弱小大名である。ゲームやってた時も、弱すぎて使わなかったんだよな。
そのゴリラ男は、俺たちのそばまで来て馬を降りた。失礼甚だしい。ただ、俺が今はまだ牢人であること、加えて、とりあえず馬から降りたことから考えて、良しとするしかないのだ。
とりあえず、今だけはな。
「なんだ?南部のサルどもが迎えにいけと命令するんで、どんな奴が来るかと思えば、青臭い餓鬼じゃねえか。」
なんだろう。この人、従属してるくせに主家である南部家を侮辱するって時代的にどうなの?俺が南部家の人間なら殺してやるのに。まぁ、側近たちが本気で殺気こもった視線を向けてるので、俺は冷静に対応することにした。
「出迎えありがとうございます。蒼次郎と申します。斯波家の家臣団の方ですね?お名前をうかがってもよろしいですか?」
「…斯波家が家老、猪去詮義だ。」
「猪去殿ですね、覚えておきます。では城まで案内してもらってもよろしいですか?」
「ああ、ついてきな。」
そういうと、ゴリラは、そそくさとその場を立ち去った。よし、南部家の家臣になったら、いや次期当主になったら、まずこいつを切腹させてやる。っていうか、斯波いらない。そういえば、南部家一門の九戸家は、家督争いで豊臣によって滅ぼされたけど、有能で、戦では一族そろって猛将ぶりを発揮していた。九戸家を斯波家の後に据えよう。勿論、領地は今の斯波家よりは減らすけど。
…いや、九戸城に押し込んでおけばいいか。戸沢とか浪岡とか浅利とか弱小大名をすりつぶしてから考えよう。まあ、まずは次期当主として認められなければなんだけど。
領内を歩いていて本当に感じるのだけど、斯波家は、豊かとはいえない。農地がまばらで、土も栄養があるようには思えない。まぁ、こいつ等には、なんと言われようと農法は教えんけど。それにそもそも、一代で名門氏族を滅亡に追い込んだ奴だからな。内政が滞っていても仕方ない。
舗装もされていない道に悪戦苦闘していると、斯波家の居城である高水寺城が見えてきた。この城は元々、平地に築かれた城で防御的要素は全くない。後に南部信直によって改修されるのだが、今のままだと簡単に攻め落とされるだろう。それも改革中に伊達家領内の城を見慣れてるからだろうか、随分小さく、みすぼらしく見える。
薄暗い城に入ると、その足で大広間に招かれた。菜奈は、別室に控えさせようと思ったが、構わないと言われ、つれていくことにした。まあ、つれていきたくなかった訳は別にあるのだが。そういう悪い予想は残念なことに的中してしまうものである。
大広間も米沢城の半分以下であった。当たり前だが、城が小さいと、部屋も小さいわけだ。家臣も数名しかいない。家臣団なんて呼べるものではない。そもそもこいつ、大名じゃないだろこれ。それにどいつらも弱そうだ。まともなのは、残念なことにあの猪だけみたいだ。
そりゃ、こんな能無し集団の中では、家老になれるだろうよ。上座には一応、斯波詮真が座っているが、俺は、南部家の賓客なので、立場で言えば今は同格のようで、頭は下げてない。俺が、南部家の家臣団に入れば、俺が上座に座るのだが。とりあえずは、城主を上座に座らせるのが、いいと考えた。
「斯波家が当主、斯波詮真である。」
なんとも頼りなさそうな男だ。彼のような人間が、正直当たり前なのだが、この戦乱の世では、天才や逸材がゴロゴロと乱立してるので、彼のような存在は、違う意味で目立つわけだ。
「お初にお目にかかります、蒼次郎と申しまする。本日は、猪去詮義殿を出迎えさせていただきありがとうございます。」
「いえいえ、狭いところで申し訳ないが、晴政殿は、数名の家臣と護衛を連れて、零石御所に滞在中とのことだ。近日中には、到着なさるだろう。それまでは、こちらで休まれると良い。」
「お心遣いありがとうございます。」
俺は、正直、有り難く思った。この城に長居はしたくない。狭いし、なんか臭いし、薄暗いし、気分が沈みがちになる。それに清純な菜奈をこんな不潔な空間に長居させたくない。因みに、男女間の関係には発展していないし、そんな度胸もない俺は、伊達家で夜に軒下で膝枕とかしてもらってた。アイドルにそんなことしてもらえるなんて、“零”様様だ。侍女を正室にはできないが、側室にする分には何の問題もない。もうすぐ、もうすぐだ。俺としては、今すぐにでも、晴政殿にお会いしたいのだけど。
その時だった。
上座側の襖が蹴破られた。俺と俺の家臣達は、刀を抜き、槍を構え、佐助と丹波は、菜奈をかばって、腰刀を構えた。だが、斯波家の家臣団は、いつものことなのだろうか?襖のほうを見て呆れかえって、ため息を零している。
あの猪でさえ、頭を抱えている。
詮真殿は、面倒そうにゆっくりと立ち上がると、蹴破られた襖を見据え…
「五郎丸、客人がおるのだぞ。失礼であろうが!!」
入ってきたのは、豪華な着物を着た少年、豚のように太り、綺羅びやかな太刀を片手に持っている。武士とは到底思えない。桶狭間以前の織田信長と言えば、分かるだろうか?傾奇者である。だが、彼の場合、痩せてたし、才能も、頭脳もあったが、こいつの場合は愚鈍な豚だ。それ以上にやつの目は、なんか寒気がするほどキモチワルイ。
俺は、冷静をなんとか保って、尋ねた。
「詮真殿、この者は?」
詮真殿は、我々に頭を下げ、
「失礼をした、儂の愚息だ。まだ、元服前の餓鬼でな。
少し甘やかしすぎての。大目に見てやってくれぬか。」
「まぁ、そういうことでしたら。」
そのデブは、俺のほうへドスドスと歩いてきたと思ったら、俺を素通りした。なんと!?例え、浪人であろうと、俺は斯波家から賓客として迎えられ、南部家の客将として迎えられる予定の浪人だ。たとえ、斯波家の嫡男とはいえ、やって良いことと悪いことはある。
その豚は、俺のことなど眼中にも無いようで、丹波と佐助の後ろに隠れている菜々に目を留めると、
「お前、可愛いな。喜べ、おれの女にしてやるよ。」
こいつ今なんて言った?菜奈を自分の女にするって、言ったか?言ったよな。よし、殺そう。
「よし、殺そう。佐助、丹波手伝え。」
俺の後ろにいた他の家臣たちが、俺を座らせると宥めてきた。皆既に刀を収め、槍も置いている。
「「まあまあ、傲慢な糞餓鬼のいってることですから、
ここは大目に見ましょう。どのみち蒼次郎様の女中を我々の前で無理強いにはできぬのですから。」」
「若が申し訳ありませぬが、成敗だけはお許しを。」
「我らが今後、厳しく教育いたしますので、どうか今回ばばかりは。」
「今回ばかりは、どうかお見逃し頂きたく」
斯波家の家臣一同、浪人に対して総土下座である。あの猪も無言で頭を下げていた。斯波詮真殿も上座に座ったまま頭だけ下げていた。俺を自分より格下のただの客人だと認識していると思われるこの豚は、自分の家の家臣達が総じて土下座し、自分の父親でさえ謝罪しているこの現状に驚きを隠せないでいた。
「皆、何をしている?」
状況を正しく理解できていないこの豚はそういいながら、菜奈に手を伸ばした。…が、佐助と丹波を前に触れることなど許されるわけもなく、どこから出したのか、縄で簀巻きにされ、詮真殿の前に投げ飛ばされた。
信綱は、その簀巻き豚を掴むと、斯波殿の目の前に叩きつけた。
「詮真殿、この者の教育は今後厳しくお願い致します。今後、同様なことが起きれば、次は私の手で成敗させていただく。」
「無論そのつもりだ、猪去!」
「はっ!」
「この大馬鹿者を、奥へ連れて行け。」
「御意!」
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その日は、豪勢な食事を振る舞ってもらった。勿論、豚の食事は抜き。食べたのかもしれないが、俺は簀巻き以来、見ていない。
数日後、俺たちは大広間にいた。早朝に晴政殿が到着されたとのことで、早急に朝餉を済ませた後、お会いすることになった。無論この場には、斯波殿以外の家臣は、いない。
「殿がお見えになります。」
斯波家の小姓がそう言い、襖が開かれた…
本田忠勝と再度会うには一体、何話になるのだろう。夢自体はすでに完結していて、次の話に入っているから、早く進めたいのだが、時間がない。(;´д`)トホホ




