閑話~佐助の里帰り~
この里に来るのはいつぶりだろう。
6年前に葛西の兵から蒼次郎様を救ったことで伊達家に雇っていただいて流浪の生活に別れを告げた。伊達家が都合の悪い地ならこの里に帰ってくるつもりでいたが、蒼次郎様がなんとなく弟のように感じてしまって、帰れなくなってしまった。ただ、今思えば、帰らなくてよかったとしみじみ思っている。俺ほどの逸材の下から去るなんて今から考えれば、愚策でしかない。あの子の下でなら忍びも表に出ることができる。
「動くな!!」
この声、間違いない。親父の声だ。まぁ、本当の親ではないのだが…。俺は、赤ん坊の頃に伊賀上野城の城下の森の入口に捨てられていたらしい。それをこの声の主、百地丹波に拾われ、忍びとして育てられた。しかし、流浪の生活に耐えられなくなった俺は、仲間たちの暮らしが、楽になる場所を探しに旅に出て今に至る。
「親父!俺だ、佐助だ!」
そうすると、脇差を逆手に二刀構えた、忍び装束のおっさんが茂みから現れ、俺に近づいてきた。俺は、刀を地に置き、その場に胡坐をかき座った。
「久しぶりにございます。百地殿。」
「…確かにその装束にその額の傷、佐助のようだな。何しに来た、今更。」
「我らを重用して下さる方を見出しましたので、御報告に参りました。」
「重用?」
「我らに屋敷や農地、家名を与えてくださると主から仰せつかっております。」
「忍びに屋敷を与えると?我らを認めてくださると?何かの間違いか、佐助。」
「いえ、我が殿は、忍びの有用性に気付いておいでです。」
「そなたの仕える方とは?」
「伊達家嫡男、伊達蒼次郎様です。」
「柏山明国を討ち取ったという神童か?」
「聞き及んでおりましたか?」
「その方が、我らを迎えてくださると?」
「はい。それも将来の重臣候補としてです。平に平に、お聞きくださるように、お願いいたします。これで我らも、表の舞台に出ることができるのです。泥水をすすらずとも、生きていけるのです。仲間たちのこともどうか考えていただきたい。皆のために私は、このお話をお持ちしたのです。どうか…どうか!!」
俺は、額を地面に押し付けて頼んだ。
今言ったことに偽りはない。蒼次郎様に忠誠を誓ったことに偽りはないが、いずれ仲間たちを向かえいれることも常に考えてきた。蒼次郎様から申されるとは思わなかったが、これで仲間たちも良い暮らしができる。それ以上に、蒼次郎様にこれまでの御恩をお返しできる。あのお方は、いずれ天下を統べるお方。そのお方の御傍でお仕えることこそ、忍びとしての俺の夢だ。
「蒼次郎殿は、どのようなお方だ?」
「心優しい方でありますが、自分に何が足りず何が必要かよくわかっておいでです。私は、流浪の生活を通してあの方ほどの方には出会ったことがない。あの方こそ、この戦乱の世を収め、天下を統べる方と思っております。」
「他人に興味を示さなかったお前が、それほど気にいったか…。」
「だが、私だけでは、結論は出せん。とりあえず、里に戻るぞ。久方ぶりの帰郷だろう。
皆に顔を見せてやれ。」
「はい。」
親父の顔を見れば、この交渉が上手くいった確証が持てる。蒼次郎様、我が一党を連れ、すぐに戻ります。殿の側近は、この佐助こそが相応しいんだ!!
佐助さんって年齢の割に子供っぽいんだよね。




