IFエンド【美羽監禁エンド】 選択肢「凜ちゃんに助けを求めない」
私は、凜ちゃんに助けを求めなかった。
美羽のことを信頼していたから。
今、凜ちゃんに助けを求めることは美羽を裏切ることになる。
それは、自分の危機よりもずっと私にとって耐えがたいことだった。
凜ちゃんの足音が、廊下の向こうへ消えていった。
「これで静かになったね」
美羽は保健室のカーテンを閉め、私の枕を整えた。
吸入薬は枕元。水は手を伸ばせば届く位置。毛布は胸の少し下まで、苦しくならないように掛けられている。
「寒くない?」
「大丈夫だよ」
「苦しくなったら、すぐ言って」
「うん」
「我慢したら怒るからね」
「美羽は厳しいねえ」
「ひよりが言うことを聞かないからでしょ」
美羽はベッドの横へ椅子を運び、私の手首へ指を当てた。
しばらく脈を数えたあと、今度は額へ手を置く。
「熱はなさそう」
「ありがとう。いつも心配かけてごめんね」
「……作るよ」
美羽は私の手を握った。
「私が、ひよりの病気を治す薬を作る」
「すごいねえ」
「すごくないよ。作らなきゃ意味がないから」
「どうやって作るの?」
「まず、病気の原因を調べて、それから薬が効かなくなる仕組みを――」
美羽の言葉が止まった。
「それから?」
「新しい薬を探す」
「何を調べればいいの?」
「……いろいろ」
「便利な答えだねえ」
いつものようにからかうと、美羽は笑わなかった。
「まあ、無理だよね」
「どうして?」
「私、勉強ができるだけだから」
美羽は俯いた。
「テストなら正解がある。覚えて、考えて、一番正しいものを選べばいい。でも、ひよりの病気には正解がない」
「これから見つければいいよ」
「簡単に言わないで」
声が少し強くなる。
けれど、すぐに力が抜けた。
「結局、何もできない。勉強ができるだけで、大事なときには役に立たない」
「美羽は、今もいろいろしてくれてるよ」
「毛布を掛けたり、水を置いたりすること?」
「うん」
「そんなの、誰にでもできるよ」
「でも、今してくれてるのは美羽だよ」
美羽は何も答えなかった。
私の手を握ったまま、俯いている。
「少し寝て」
「美羽は帰らないの?」
「帰らないよ」
「ずっといる?」
「ずっといる」
その答えを聞くと、急に眠くなった。
美羽が髪を撫でてくれる。
優しく、同じ場所を何度も。
目を閉じてしばらくすると、すぐ近くで小さな声がした。
「ごめんね」
「……何が?」
美羽の手が止まる。
「自分に向き合えなくて、ごめん」
眠くて、言葉の意味がよく分からなかった。
美羽が自分に向き合うことと、私に謝ることが、どうつながるのだろう。
「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なの?」
「分からないけど」
「分からないのに言わないでよ」
美羽の声が震えていた。
私は目を開け、椅子に座る美羽へ腕を伸ばした。
「おいで」
「病人が何してるの」
「美羽を抱きしめるの」
「意味分かってないくせに」
「うん。でも、美羽が泣きそうなのは分かるよ」
美羽はしばらく動かなかった。
やがて、諦めたようにベッドへ顔を寄せる。
私はその頭を胸元へ抱き寄せた。
「大丈夫だよ」
「だから、何が」
「美羽がここにいてもいいってこと」
美羽は何も言わなかった。
ただ、私の寝間着を強く握った。
薬を作れるかも分からない。
自分に向き合うという言葉の意味も分からない。
それでも、美羽の身体が震えなくなるまで、私はそのまま抱きしめていた。




