第九話 魔王軍、だいたい命名規則が壊れていた
翌日。
通信局は朝から妙な空気だった。
「……落ちてない」
「本当に?」
「夜間負荷も安定しているぞ……」
通信局員たちが何度も管理水晶を確認している。
まるで、“平和すぎて逆に怖い”みたいな顔だった。
俺はコーヒー代わりの謎の黒い飲み物を飲みながら、設定一覧を眺めていた。
そして。
「……なんだこれ」
嫌な汗が出た。
レヴィアが聞く。
「問題か?」
「問題しかないです」
設定名。
中継塔名。
サーバー名。
全部が滅茶苦茶だった。
【闇の塔】
【真・闇の塔】
【新・真・闇の塔】
【闇の塔2_FINAL】
「終わってる!!」
通信局員たちがビクッとする。
「な、何がです!?」
「命名規則!!」
「めいめい……?」
「名前の付け方です!」
俺は黒板に書き出した。
【北部中継塔】
【北部中継塔・改】
【北部中継塔・改・改】
【北部中継塔・最新版】
【北部中継塔・最新版・本当】
「怖い怖い怖い!!」
絶対事故る。
しかも。
もっと恐ろしいものを見つけた。
【絶対消すな】
【絶対絶対消すな】
【消したら終わる】
【たぶん不要】
「“たぶん不要”が一番怖いんですよ!!」
通信局員たちがざわつく。
「でも前任者が……」
「消して爆発したことあるので……」
「命懸けのコメント文化やめろ」
すると魔王が後ろから覗き込んできた。
「別に分かればよくない?」
「分からないから問題なんです」
「余は分かるよ?」
「属人化って言うんですよそれ」
「ぞく……?」
「“その人しか分からない”状態です」
沈黙。
そして通信局員たちが一斉に魔王を見た。
「……だいたい魔王様しか分かってないな」
「ですね」
「毎回聞きに行ってるし」
魔王が気まずそうに視線を逸らした。
「じゃ、じゃあ統一する?」
「します」
俺は黒板へ向かった。
【命名ルール】
・場所
・役割
・番号
・用途
「例えば」
【north-relay-01】
「おお……」
「分かりやすい……」
「未来文明だ……」
「普通です!!」
なんで毎回ここまで驚かれるのか。
すると若い通信局員が手を挙げた。
「質問です!」
「はい」
「“final”は使っちゃダメですか?」
「やめましょう」
「“final_final”も?」
「なおさらダメです」
「“完全版”は?」
「その時点で完全じゃないんですよ」
通信局員たちが衝撃を受けていた。
文化が違いすぎる。
その時だった。
突然、警報が鳴る。
『警告』
『接続先不明』
『中継塔識別不能』
「は?」
管理画面を見る。
塔名が並んでいる。
【dark_tower】
【darktower】
【dark-tower-new】
【really_dark_tower】
「ふざけてるのか!?」
通信局員が青ざめる。
「ど、どれが南部ですか!?」
「知らん!!」
「誰が作った!?」
ゆっくり全員の視線が集まる。
魔王だった。
「…………」
「魔王様」
レヴィアが低い声を出す。
「説明を」
魔王が小さく言った。
「……途中で分からなくなった」
「自分でもか!!」
通信局が悲鳴に包まれる。
「終わった!」
「南部どこだ!?」
「全部闇じゃねぇか!!」
だが。
俺はある一点に気づいた。
「……待って」
「ん?」
「これ、接続順が法則になってる」
設定を辿る。
接続方向。
負荷。
魔力波長。
そして。
「これだ」
俺は一つを指差した。
【really_dark_tower】
「南部です」
「なんで分かる!?」
「一番負荷高いから」
物流集中地域。
だから通信量が多い。
つまりここ。
通信局員たちが歓声を上げる。
「すげぇ!」
「見抜いた!」
「探偵!?」
「インフラ屋です」
その時。
魔王が小さく呟いた。
「……実は“really”付けた時、ちょっと分かりやすくしたつもりだった」
「努力の方向だけは分かります」
すると突然、通信局の奥から絶叫。
「大変です!!」
またか。
通信局員が飛び込んでくる。
「勇者軍が新動画出しました!」
「タイトルは!?」
「『魔王軍インフラ担当、また徹夜へ』です!」
空気が凍る。
俺はゆっくり聞いた。
「……なんで知ってる?」
沈黙。
そしてレヴィアが低く呟いた。
「……やはり内通者がいるな」
通信局の空気が、一気に冷えた。




