第七話 魔王軍、ついに「権限管理」を知る
通信局の空気が変わり始めていた。
以前は、
「誰か何とかしろ!」
「分からん!」
「気合いだ!」
で回っていた。
今は違う。
「変更履歴を書きました!」
「バックアップ完了!」
「第六塔、更新申請出します!」
文明が一歩進んでいた。
いや、ようやく現代に片足突っ込んだくらいだが。
「……すごいな」
レヴィアが感心したように呟く。
「たった数日でここまで変わるとは」
「みんな元々優秀なんですよ」
俺は管理水晶を見ながら答えた。
「運用思想がなかっただけで」
実際、技術力は高い。
魔導回線なんて現代地球でも無理だ。
問題は全部、“管理”だった。
すると通信局員の一人が嬉しそうに走ってきた。
「見てください!」
「ん?」
「新人でも第三区画を触れるようになりました!」
「おお」
「昨日までは“勘”でした!」
「昨日までがおかしい」
その時だった。
突然、警報が鳴る。
『警告』
『権限エラー』
『中央設定ファイル変更検知』
全員が固まる。
「なに!?」
「誰だ!?」
通信局員たちが慌てて管理画面を開く。
すると設定項目が勝手に書き換わっていた。
【全帯域:配信優先】
「おい」
空気が凍る。
全員がゆっくり振り返る。
そこには――
魔王。
ものすごく気まずそうな顔をしていた。
「…………」
「魔王様」
レヴィアの声が低い。
「説明を」
魔王が冷や汗を流す。
「いやその……」
「はい」
「昨日、深夜に映画配信見てたら止まって……」
「はい」
「優先した方が快適かなって……」
「本番環境を触るなぁぁぁ!!」
通信局に絶叫が響いた。
魔王がビクッと肩を跳ねさせる。
「だ、だって管理権限あったし……」
「だから危ないんですよ!!」
俺は頭を抱えた。
今まで最大の問題。
それは――“全員が全部触れる”ことだった。
「権限管理します」
その瞬間。
通信局員たちがざわつく。
「権限……?」
「触れる人を分けるんです」
「そんなことできるのか!?」
「できます」
「また未来技術だ……」
違う。
普通だ。
だがこの世界では革命らしい。
俺は黒板に書く。
【権限レベル】
・閲覧のみ
・一般変更
・管理者
・魔王
「おお……」
「整理されてる……」
「分かりやすい……!」
感動ポイントが毎回低い。
すると魔王が手を挙げた。
「質問」
「はい」
「余は全部触れないの?」
「触れます」
「よかった!」
「ただし申請制です」
「えっ」
魔王が固まる。
「し、申請……?」
「変更理由を書いてもらいます」
「王なのに!?」
「王だからです」
「ぐっ……」
レヴィアが深く頷いた。
「正論だ」
通信局員たちも頷いている。
完全に包囲網だった。
「あと本番環境は基本触りません」
「でも試したい時あるじゃん?」
「検証環境作ります」
「けんしょう……?」
「壊してもいい場所です」
沈黙。
次の瞬間。
「「「天才だ!!」」」
「だから普通ですって!!」
なんで毎回ここまで驚かれるのか。
すると若い通信局員が震える声で言った。
「つまり……」
「?」
「本番を爆破しなくていい……?」
「最初からするな」
だが彼らの目は本気だった。
どうやら今までは、“試す=本番”だったらしい。
怖すぎる。
その時。
魔王が小さく手を挙げた。
「ちなみに」
「なんです」
「余、昨日も設定触った」
「どこを」
「結界制御」
「何故」
「なんか遅かったから」
「インフラを感覚で調整するな!!」
俺は即座にログを確認した。
そして固まる。
「……あれ?」
「どうした」
レヴィアが覗き込む。
「結界応答速度、上がってる」
「え?」
通信局員たちも集まる。
「ほんとだ……」
「負荷減ってるぞ」
「なんで?」
全員が魔王を見る。
魔王は気まずそうに言った。
「……ちょっと処理順変えた」
沈黙。
俺はゆっくり聞いた。
「魔王様」
「はい」
「もしかして、技術的には普通に天才です?」
「え、うん」
「運用だけ壊滅的なんですね?」
「よく言われる」
通信局員たちが一斉に頷いた。
ものすごい勢いで頷いた。
するとその瞬間。
警報が鳴る。
『緊急通知』
『勇者軍配信開始』
『タイトル:魔王軍回線、本日停止予定』
空気が凍る。
「……煽ってるな」
レヴィアが低く呟く。
だが俺が気になったのは別だった。
「配信?」
通信局員が答える。
「勇者軍、最近めちゃくちゃ配信強いんです」
「人気も向こうが上で……」
「切り抜き文化が強いので……」
「異世界でもあるんだそれ」
すると魔王が机を叩いた。
「よし!」
「なんです」
「余も配信する!」
「やめろ」
「『絶対落ちない魔王城回線』ってタイトルで!」
「フラグ立てるな!!」




