第二十二話 主人公、オンコール体制を導入する
深夜二時。
主人公――相沢悠真は、
通信局の机へ突っ伏していた。
「…………」
眠い。
とにかく眠い。
だが。
管理水晶は無慈悲だった。
『ピコン』
『北部回線遅延増加』
「……ぅぅ」
隣では通信局員も死んだ顔をしている。
「寝たい……」
「帰りたい……」
「でも帰ると障害起きる……」
完全に運用保守の呪いだった。
レヴィアが呆れた顔で周囲を見る。
「貴様ら、最近ずっとここにいるな」
「障害対応ってそういう仕事なんですよ……」
「怖い世界だ」
その時。
『ピコン』
『南部接続不安定』
通信局員が泣きそうになる。
「また!?」
「なんで深夜ばっかり……!」
悠真は半目のままログを見る。
「……あー」
「原因分かったのか!?」
「配信です」
「また魔王様か!!」
完全に様式美だった。
だが。
今回は違った。
「……いや」
「え?」
「勇者軍側です」
沈黙。
ログ。
【勇者、初めて料理配信】
同時接続。
七十万。
「対抗してきてる!!」
通信局員が叫ぶ。
しかも。
コメント欄。
【包丁危ない】
【切るな切るな】
【うわぁぁぁ】
「なんで向こうも事故配信になってるんだ……」
悠真は頭を抱えた。
その時。
通信局員の一人が椅子から落ちた。
「無理……眠い……」
「おい大丈夫か」
「三日寝てない……」
通信局が静まり返る。
悠真は周囲を見回した。
死んだ目。
積み上がる障害報告。
冷めた飯。
床で寝てる通信兵。
「……終わってる」
「その顔、怖いぞ」
レヴィアが少し引いていた。
悠真は静かに立ち上がる。
「オンコール体制入れます」
沈黙。
「おん……?」
「当番制です」
通信局員たちが固まる。
「当番……?」
「全員が常駐するのやめます」
「そんなことできるのか!?」
「できます」
「異世界人すげぇ……」
もはや定番だった。
悠真は黒板へ向かう。
【オンコール】
・担当者交代制
・緊急時だけ呼び出し
・休める人は休む
「おお……」
「寝られる……?」
「家帰っていいのか……?」
通信局員たちの目が潤んでいた。
今までずっと全員待機だったらしい。
怖すぎる。
その時。
魔王がひょこっと顔を出した。
「なにしてるの?」
「働き方改革です」
「かっこいい」
「あと魔王様、深夜配信減らしてください」
「えっ」
「夜勤が死ぬので」
魔王が不満そうな顔をする。
「でも深夜の方が伸びるし……」
「配信者の思考になってる」
すると若い通信局員が震える声で言った。
「ちなみに昨日、魔王様の雑談配信で起こされました」
「通知ON勢か……」
「“みんな起きてる?”って来て……」
「地獄だな」
悠真は黒板へさらに書く。
【深夜ルール】
・緊急以外の本番変更禁止
・通知制限
・深夜ゲリラ配信禁止
通信局が静まり返る。
「……ついにそこまで」
「革命だ……」
「夜に寝られる……!」
だが。
その瞬間。
魔王が小さく手を挙げた。
「質問」
「はい」
「“緊急だから配信したい”は?」
「却下です」
「即答!?」
その時だった。
管理水晶が赤く点滅する。
『緊急通知』
『勇者軍配信 炎上中』
通信局員がログを見る。
「うわぁ……」
「どうした」
「勇者、指切りました」
沈黙。
コメント欄。
【痛そう】
【料理やめろ】
【血出てる】
【魔王飯見に戻るわ】
「帰るな!!」
勇者軍側の悲鳴が聞こえてきそうだった。
すると魔王が静かに呟く。
「……勝ったな」
「配信戦争でマウント取るな」




