第二十三話 魔王様、うっかりコラボ配信を了承する
勇者の料理配信炎上から二日後。
魔王城通信局は、珍しく穏やかだった。
障害なし。
爆発なし。
魔王の深夜ゲリラ配信もなし。
通信局員たちは逆に不安になっていた。
「……静かすぎる」
「絶対あとで来る」
「今のうちに寝るか……?」
完全に現場猫の思考だった。
悠真は管理卓でログを確認しながら、小さく息を吐く。
「まあ、平和なのはいいことだ」
その時。
魔王が勢いよく扉を開けた。
「大変!!」
「来たな」
通信局員全員が反射的に立ち上がる。
「何やったんですか!?」
「まだ何もしてない!」
「“まだ”って言ったぞ」
魔王は魔導端末を掲げた。
「勇者軍から連絡来た!」
通信局が静まり返る。
「……宣戦布告か?」
レヴィアが剣に手をかける。
「違う!」
魔王は満面の笑みで言った。
「コラボ配信のお誘い!」
「なんで!?」
通信局が崩壊した。
「戦争中ですよね!?」
「世界観どうなってるんですか!?」
魔王は得意げだった。
「“料理対決しましょう”だって」
「平和か」
悠真は頭を抱えた。
だが。
通信局員たちは別の意味で青ざめていた。
「待ってください……」
「魔王軍と勇者軍が同時配信……?」
「同時接続どうなる!?」
「回線死ぬぞ!!」
そこだった。
問題は。
魔王軍八十万。
勇者軍七十万。
合わせたら異世界最大規模だ。
悠真は嫌な汗をかく。
「……ちなみに」
「うん?」
「もう了承しました?」
魔王が目を逸らした。
「……勢いで」
「早いんだよ!!」
通信局員たちが崩れ落ちる。
「また事後報告だ!」
「先にインフラへ相談して!」
「営業が勝手に案件取るタイプだ!」
その時。
管理水晶が光る。
『勇者軍より接続試験要求』
「もう準備始まってる!?」
通信局が騒然となる。
悠真は即座にログ確認。
接続経路。
帯域。
配信同期。
そして――
「……あー」
「どうした」
「向こう、かなり本気です」
接続試験の時点で、専用回線を複数用意している。
配信専用帯域。
コメント分離。
負荷分散。
「運用が雑すぎる」
その言葉に、通信局員たちがピリッと反応する。
「敵ながら有能……!」
「こっちは魔王様がコメント欄でBANされてたのに……」
「やめて傷つく」
魔王が地味にへこんでいた。
その時。
通信局員が叫ぶ。
「勇者軍側からメッセージ来ました!」
「なんだ!?」
通信局員が読み上げる。
『そちらの回線、同接百五十万耐えられます?』
沈黙。
通信局が静まり返る。
悠真は真顔で答えた。
「無理ですね」
「即答!?」
魔王が青ざめる。
「えっダメなの!?」
「今のままだと確実に落ちます」
「世界規模障害になるかも……」
「そんなに!?」
悠真は黒板へ向かった。
【必要対策】
・配信専用回線追加
・コメント鯖分離
・帯域制限
・負荷試験
通信局員たちが震える。
「大工事だ……」
「間に合うのか……?」
その時。
魔王が小さく手を挙げた。
「ちなみに配信タイトルもう決めてる」
「嫌な予感」
魔王が誇らしげに言った。
『勇者と魔王、ついに和解!?』
「釣りサムネやめろ!!」
通信局が悲鳴に包まれる。
「絶対誤解される!」
「世界中がざわつく!」
「外交問題!!」
だが。
その瞬間。
管理水晶が再び光る。
『勇者軍返信』
通信局員が震える声で読み上げる。
『そのタイトル、ウチも使います』
沈黙。
そして悠真は静かに呟いた。
「……こいつら、絶対戦争向いてない」
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