第十一話 魔王軍、ついに「メンテ告知」を覚える
翌朝。
魔王城は妙に平和だった。
通信障害なし。
回線安定。
配信炎上もなし。
通信局員たちは逆に怯えていた。
「……静かすぎる」
「絶対あとでデカいの来るぞ」
「嵐の前だ……」
完全に障害対応職の思考だった。
俺は管理卓で夜間ログを確認していた。
勇者軍側のアクセスは減っている。
どうやら昨日の偽情報配信は効いたらしい。
「北部落ちるって信じたんだな……」
レヴィアが腕を組む。
「実際、偵察部隊が北へ集中していた」
「情報戦って怖いですね」
すると奥から得意げな声。
「余の演技力のおかげでは?」
魔王だった。
通信局員たちが一斉に目を逸らす。
「いや普通に喋りすぎてました」
「“えっそこ弱いの?”とか素で言ってたし」
「危なかった……」
魔王がむくれる。
「でも視聴者増えたよ?」
「敵も増えましたけどね」
その時。
通信局員が青ざめた顔で走ってきた。
「大変です!」
「今度はなんだ」
「南部回線、切ります!」
場が凍る。
「は?」
レヴィアが低い声を出す。
「敵襲か?」
「いえ、定期保守です!」
「紛らわしいな!?」
通信局員は慌てて説明した。
「老朽化した中継術式を交換しないと危なくて……」
「なるほど」
それ自体は普通だ。
むしろ今までやってなかった方が怖い。
「じゃあメンテですね」
「めんて?」
「事前告知します」
沈黙。
嫌な予感。
「……してなかったんですか?」
通信局員たちが目を逸らした。
「だって止める時に止めれば……」
「利用者から苦情来るので……」
「怖くて……」
「無告知停止してたの!?」
レヴィアが小さく呟く。
「以前、“急に城門が開かなくなった”と大騒ぎになったな」
「そりゃなる!!」
俺は頭を抱えた。
この世界、
“利用者に知らせる”
という概念が薄い。
運営視点しかない。
「メンテ告知します」
通信局員たちがざわつく。
「告知……?」
「いつ止まるか先に伝えるんです」
「そんなことしたら怒られない?」
「黙って止める方が怒られます」
すると魔王が手を挙げた。
「質問」
「はい」
「“突然止まるドキドキ感”なくなるよ?」
「インフラにエンタメ性求めるな」
俺は黒板へ書く。
【メンテナンス予定】
日時:
対象:
影響範囲:
終了予定:
「おお……」
「分かりやすい……」
「親切だ……!」
感動の方向がおかしい。
すると若い通信局員が震える声で言った。
「つまり……」
「?」
「利用者が心の準備できる……?」
「そうです」
「革命では?」
「普通です」
俺はため息をついた。
だがその時。
魔王が何かを思いついた顔をした。
「じゃあ配信しよう!」
「何を」
「“南部回線メンテ実況”!」
「誰が見るんですか」
「裏側公開って人気出るよ?」
通信局員たちがざわつく。
「た、たしかに気になる……」
「中継塔の内部とか見たいかも……」
「ダメだこの世界、配信文化に侵食されてる」
だが。
少し考えて俺は止まった。
「……いや」
「ん?」
「案外アリかも」
全員がこちらを見る。
「普段見えない保守作業を見せる」
「インフラ理解してもらう」
「苦情減らす」
通信局員たちが目を見開いた。
「なるほど……!」
「“止まる理由”を説明するのか!」
「異世界人すげぇ……」
「普通の広報です」
すると魔王が机を叩いた。
「よし!」
「嫌な予感」
「タイトル決めた!」
「絶対嫌な予感」
魔王が満面の笑みで言った。
「『【緊急】南部回線、爆発します』」
「煽るなぁぁぁ!!」
通信局が悲鳴に包まれる。
「怖い怖い怖い!」
「利用者逃げる!」
「風評被害!!」
だが魔王は不満そうだった。
「でもその方が再生数――」
「インフラをサムネ商法にするな!!」
その時。
管理水晶が突然点滅した。
『外部アクセス増大』
『勇者軍配信開始』
「またか」
通信局員が引きつった顔で読み上げる。
「タイトルは――」
嫌な予感しかしない。
「『魔王軍、今度は自分で回線を止める』です」
沈黙。
そして魔王が小さく呟いた。
「……向こう、切り抜き上手いな」




