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狂気の聖女と冷徹な公爵令嬢の密約と断罪  作者: Vou
第二章 聖教会の隆盛と失われた英雄

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第十八話 終戦と失われたもの

 前回の防衛戦とは打って変わり、今回の防衛戦は、あっけなく決着がついた。

 敵国の軍勢が二倍の大軍であったことが最も大きい要因の一つかと思われたが、その影響は皆無と言ってよく、王国の聖女の加護があったことが、早期決着の最も大きな要因だった。


 王都で聖女の加護を受けた王国騎士団や兵士たちは、敵国の想像を上回るほどの強さだったのだ。

 敵の大軍にまったく圧倒されることなく、王都からの軍は進撃を続け、敵を蹴散らしていった。

 特に大将の王太子ユリウスの勢いは凄まじく、敵陣深くにまで一気に突撃していき、敵将の首をいくつも取ったという。

 将を失い、統率を失った敵軍はあっけなく敗走していった。王国と聖女の力は敵軍に強烈な印象を与え、今後侵攻しようとする意志を挫くに十分だと思われた。


 王国側の犠牲は少なく、多くの兵士たちが無事に王都に凱旋した。

 しかし、圧勝した軍とは思えないほど、兵士たちの表情は沈痛なもので、彼らを迎えた王都の人々も、悲痛さを押し殺すように嗚咽を漏らしていた。


 いかに聖女の加護があったとはいえ、犠牲がゼロで抑えられたわけではなかった。数の上でもわずかながら犠牲は出ており、その犠牲が数以上に、あまりに大きなものだった。


 ——王太子ユリウスが敵軍の大将と刺し違えた。


 王都に戻ったユリウスはすでに息をしていなかった。


 ユリウスはまさにその命と引き換えに、敵軍を永遠に王国から斥けたかのようだった。



 ユリウスの遺体はまっすぐ大聖堂に運ばれた。その魂を鎮め、葬儀に供するためであった。



 国王フリードリヒを始め、王族の関係者らも大聖堂の礼拝堂に集まって、ユリウスの遺体を迎えた。クローデリアもレオンハルトとともに参列していた。

 クローデリアも古くからよく知っていたユリウスの死は、衝撃的で悲しいものであったが、婚約者のエリシアの心中を心配する気持ちも強かった。


 遺体が到着すると間もなく、礼拝堂の奥から聖女エリシアが姿を見せた。


 エリシアの顔は、悲嘆にくれる婚約者の顔ではなかった。

 それはまるで、すべての感情を失った死人のようだった。


 エリシアはユリウスの亡骸に近づき、その前でひざまづいた。


 そして驚くべき行動に出た。


 エリシアは鎮魂の祈りを捧げるのではなく、蘇生を試みたのだ。


 エリシアが「診断(ダイアグノーシス)」を行い、「治癒(キュア)」を施すと、ユリウスの胸にあった大きな槍傷が瞬時に消えてきれいになった。

 しかしもちろんそれでユリウスが目を覚ますわけではなかった。エリシアは構わず「治癒」を続けた。次第に魔力(マナ)の放出量も多くなっているようだった。エリシアは魔力の続く限り、それを続けるかのように見えた。

 クローデリアも、他の者たちも、ただその哀れな婚約者の必死の治療を見つめ続けていた。中には本当に奇跡が起こることを信じている者もいたかもしれない。

 それでも、いくら多くの魔力を注ぎ、「治癒」を続けたところで、ユリウスの目は固く閉ざされ、二度と開くことはなかった。

 すると、エリシアは「治癒」とは違う詠唱を行い、別の魔法を試したようだった。ユリウスの身体が淡く光るが、それでもユリウスは目を覚さなかった。


 それを最後に、エリシアは立ち上がり、ユリウスの遺体に背を向けたかと思うと、礼拝堂の奥に去って行った。

 鎮魂の祈りは捧げられなかった。


 クローデリアにはわかった。エリシアはユリウスの魂が天に召されるのを決して許さないのだと。たとえ生きた身体を持たずとも、その魂は地上に留まり、エリシアとともにいてほしいと願っているのだと。



 その後、エリシアと入れ替わるようにグレゴール大司教が登場し、エリシアの不手際を詫びた。しかし参列していた誰もが、エリシアの気持ちが痛いほど理解できていたため、誰も責める者はいなかった。


 エリシアに代わって、大司教自ら、ユリウスに鎮魂の祈りを捧げた。


 クローデリアは、その様子を眺めながら、大司教の祈りではかえってユリウスには受け入れられないのではないかと考えていた。


 グレゴールの祈りが終わると、王族の近親者一人一人がユリウスの前で、最後の別れを告げた。


 クローデリアの前のレオンハルトは涙をこらえ、悲痛そうに「王国は僕に任せてくれ」と言った。


 クローデリアもユリウスの遺体を見た。

 エリシアによって()()されたユリウスの遺体は美しく、今にも蘇りそうだった。


「目を開けてください、ユリウス殿下……」


 ついクローデリアはそんな言葉をかけてしまった。



 ユリウスの遺体を収めた棺が閉じられ、ユリウスの遺体は王家の墓地に移動され、埋葬された。王都中の人々がその英雄の追悼のために祈り、王国を守ってくれたことを感謝した。


 そうして、王国の未来を背負うはずだった若い王子の人生はあっけなく終わったのだった。



 ユリウスの葬儀が終わり、クローデリアは「聖女の間」の前に立っていた。


「……エリシア、大丈夫?」


 クローデリアが部屋に向かって声をかけた。

 しばらく何の返答もなかったが、やがて「一人にさせて」とだけ返ってきた。


 クローデリアがため息をつき、帰ろうとすると、すれ違いに、セラフィナがやってきた。


「偽聖女のせいで、婚約した途端に将来有望な王太子が亡くなってしまったわね」


 セラフィナは大声でそう喚き、勝ち誇ったように笑った。


「聖女どころか疫病神じゃない」


 クローデリアはあまりのことに驚いた。

 英雄が王国のために死んで誰もが追悼する日に、その婚約者に向かって暴言を吐き、高笑いするセラフィナは、悪魔にしか見えなかった。

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