第十七話 聖女の加護と王国防衛戦
「聖女の間」ではエリシアが寂しそうに座っていた。
クローデリアが部屋に入ってきても、そちらに顔を向けもしなかった。
「ユリウス殿下に『婚約破棄したい』なんて言われちゃった」
エリシアがぽつりと言った。
「何でそんなことを……?」
クローデリアがためらいながらも尋ねた。
「私が、戦争に行かないで、ってお願いしたの。そうしたらね、『俺は戦場に立つことしか王国の民のためにできることがない』って言われて。たとえ、国王になっても、戦場に赴き続けることになるから、もしそれが私を悲しませてしまうのであれば、婚約破棄したいんですって」
「そんな……」
「もちろん、そんな婚約破棄は受け入れられないわ。それなら、私も戦場についていくって言ったんだけど、私が王都を離れたら、誰が王都を守るんだ、って怒られてしまったわ」
クローデリアは何と声をかけてよいかわからなかった。
「……ごめんなさい。クローデリア、あなたも騎士団長のことが……いえ、この話はやめましょう。
私は私のできることをするだけ。戦いに向かう騎士や兵士たちに精一杯の加護を与えて、戦いで傷ついた方々を治癒するわ」
クローデリアは頷いた。
「そうよ。あなたにはその力があるんだから。きっとその加護の力で、ユリウス殿下も他の方々も戦に勝って、無事にご帰還なさるわ」
そして自分はカイのために何かできるのだろうかと、クローデリアは自問するのだった。
王政府は財政の逼迫にもかかわらず、辺境への派兵を決断せざるを得なかった。政府や軍を維持するために、今度こそ聖教会の言いなりにならざるを得ないかもしれないという考えがよぎる者も多かったが、それでも王国が他国の侵略を許すわけにはいかなかった。
戦地に向かう騎士や兵士たちは速やかに準備を済まし、王都の城門前で出陣式を行っていた。
そこに聖女エリシアが現れた。
全軍を率いる馬上の王太子ユリウス、そして騎士団長カイを先頭に、整列した兵士たちの前へ進み出ると、エリシアは詠唱を行った。
「加護」
エリシアが魔法を発動すると、戦士たちの身体が淡い光を放った。周囲の観衆が大きな歓声を上げて、聖女を讃え、兵士に声援を送った。
聖女の加護を受けた兵士たちも漲る力と昂ぶる士気に「おーっ!」と声を上げた。
守護結界が、魔法陣を中心に広範囲に効果を及ぼすのとは異なり、「加護」は対象を絞ることで、より強く、魔法陣なしでも長時間にわたって「強化」の効果を与えることができるのだった。
ユリウスが馬から降り、エリシアの前に跪き、頭を垂れた。婚約者としてだけではなく、護国の聖女への敬意を表していたのだった。
エリシアもまた跪き、「ご武運と、ご無事をお祈りいたします」とだけ言った。
そして二人はお互いの姿をしっかりと目に焼きつけるように、じっと見つめ合った。
王太子ユリウスと聖女エリシアの、お互いに敬意と愛情を示す姿は美しく、人々の心を打った。
しかし、それが二人が生きて面と向かった最後となった。




