第十六話 聖教会の要求
「あまりにバカげている」
その日、エリシアとクローデリアは王宮を訪ねたが、ユリウスは不機嫌そうにしており、不穏な雰囲気を感じていた。
「『第二の聖女』のことですか?」
クローデリアが尋ねた。
「ああ、あの噂も聖教会の仕業かもしれんな。俺への牽制かもしれん。エリシアとの関係は損得など抜きのものだというのに、やつらはそれすら政治の道具と捉えているのだろうな」
「ユリウス殿下、いったい何があったのですか?」
エリシアも心配そうにユリウスに聞いた。
「すまない、エリシアは無関係なことはわかっている。しかし、聖教会が無茶苦茶なことを言い出してな……」
王政府の財政は想定以上に逼迫していた。政府の役人や兵士への俸給が支払いきれなくなるほどにまでなっていた。
そこで、王政府は聖教会への借金を申し入れた。同時に、聖女の治癒の費用が高額すぎたことも訴えた。
その申し入れを受けて、グレゴール大司教が王城に訪れた。国王フリードリヒ・ヴァレンティアと直接会談をするためだった。
王宮の評議室で行われた会談で、グレゴール大司教は王政府の借金の申し入れを承諾した。高額と言われた聖女の治療費は適切であったことを説明しつつ、借金については無利子で提供することを約束した。
国王と財務卿が胸を撫で下ろす中、グレゴールは見返りにと、驚くべき要求をした。
王政府議会への参加と聖教会の議決権——しかも議決権の半分は聖教会側に渡すよう要求してきたのだ。
つまり、聖教会は王政府の決定を妨害することが可能となり、それどころか、王政府側の重臣に造反者が出れば、聖教会側に議会を乗っ取られることになる。王政府の中にも熱心な聖女信者は少なくなく、あるいは金に物を言わせて買収される者も出るかもしれなかった。そして何より、王太子ユリウスは聖女エリシアの婚約者なのだ。彼が、聖女を通じて聖教会の言いなりになることも考えられた。
しかし——これに誰よりも強く反発したのが当のユリウスだった。
「『聖女』の力によって、聖教会は絶大な名声と富を得てしまった。それで強欲にも王国の政治まで牛耳ろうとしているのだ」
エリシアが申し訳なさそうな顔をした。
「私のせいですね……」
「エリシアが気に病むことじゃない。多くの人の病や傷を治し、王都を守ることが間違っているわけがないじゃないか。問題は、それを金と権力のために利用している聖教会なんだ」
自分が不機嫌にしていることがエリシアを悲しませていることに気づいたのか、ユリウスは表情を和らげ、微笑みかけた。
「心配するな。財政の問題は聖教会に頼らずとも何とかするさ。エリシアは今までどおりでいいんだ」
聖教会の王政府への介入は拒絶され、王政府はやむをえず緊急の徴税や、王都の有力な商人などに借金の無心に奔走することになった。
これにより、民心は王政府から少しずつ離れ、聖教会への心理的な依存が少しずつ高まっていくのだった。
そんな折、王都に急報がもたらされた。
隣国が再び進軍を始めた。——前回の二倍以上の陣容だと伝えられた。




