第十四話 王太子ユリウスの婚約
エリシアとの会食を経て、ユリウスが驚くべき行動を取り始めた。
以前まであれほど毛嫌いしていた聖教会の大聖堂に足繁く通うようになったのだった。
そのことは彼をよく知る王侯貴族だけでなく、王都の民の耳目を集めることとなった。王政府と聖教会の関係はそれほど良好でないことが知られていたのだが、王太子の態度の軟化により、関係改善の兆しとも見られた。
しかし実際のところは、ユリウスの聖教会に対する嫌悪は変わらず、ただ聖女エリシアに面会することだけが大聖堂通いの理由だった。
グレゴール大司教が挨拶をしてもそれを無視し、ただ「エリシアに会わせてもらおう」としかユリウスは言わなかった。
一方の聖女エリシアも、たびたび王城で姿を見せるようになった。もちろん、ユリウスとの面会がその訪問の目的であった。
守護結界により王都の傷病者が減り、辺境での戦争も終結したため、治療の仕事もほとんどなく、エリシアは自由な時間を多く持つことができたのだった。
昼も夜も問わず、二人の逢瀬は繰り返され、お互いが自分の人生になくてはならない存在だと認識するのに、長い時間を要することもなかった。二人にとって初めての恋であったが、これ以上の気持ちになる人と出会うことはないと確信があった。
やがて二人は婚約を発表し、王都中、そして王国中でその報せは歓迎された。
王太子と聖女の婚約は王国を明るく照らし、繁栄を約束するものだと人々は信じた。
その婚約発表の直前に、クローデリアはエリシアからユリウスとの婚約のことを聞かされていた。
「まさか王太子と婚約するなんて夢にも思わなかったわ」
エリシアは本当に幸せそうに、クローデリアに言った。
「本当におめでとう、エリシア」
クローデリアも心から祝福した。
「人を愛することがこんなにすてきなことだなんて知らなかったわ。
王族や貴族なんて、聖教会と同じくらい嫌いだったのに、自分が信じられないわ。本当は今も嫌いなんだけれど、ユリウス様だけは違うみたい。あの人は身分なんか関係なく、私を人として見てくれているの」
どこかいつも暗い影に覆われていたようなあのエリシアが、こんなに目を輝かせるようになるなんて、愛って本当に不思議だわ、とクローデリアは思った。
「私たち義姉妹になるのね。あなたとは不思議な縁があるみたい」
「私がお姉さんね」
エリシアはそう言って笑った。
「私ではなくて、エリシア王妃様になるのね」
クローデリアはエリシアとしたいつかの会話を思い返していた。
「私は王妃には興味はないのだけれど、ただユリウス殿下と一緒にいたいだけ。実務はクローデリアに任せるからよろしくね」
「だめよ。私たち二人で、王国を良くしていくのよ」
そんな話をしながら、二人は笑い合った。
しかしそのとき、クローデリアはグレゴール大司教との告解室での会話をふと思い出していた。
図らずも実現した王太子ユリウスと聖女エリシアの婚約だが、本当にそれは偶然だったのだろうか。
幸福に包まれた王太子と聖女の裏で、大司教はほくそ笑んでいるのではないか。
自分でも気づかぬうちにグレゴールの思惑どおりに動いてしまったのではないか。
そのクローデリアの疑義を裏付けるかのように、聖教会は王国で絶大な力を持つことになっていった。
王政府は先の辺境の防衛戦の戦費と、兵士の治療費がかさんだことにより、ひどく疲弊していた。
その一方で、聖教会は聖女の力と名声により、治療によって稼いだ金品に加え、熱心な聖女信者からの多額の寄進を受けていた。そしてついには聖女が王家に嫁ぐことが決まり、王政府への発言力も増していたのだった。
聖女を恐怖で操り、貧しい平民を見殺しにし、権力と金に絶対の価値を見出す聖教会が、王太子と聖女の恋心を利用することで王国を支配しようとしていた。
ここまで第一章「王都の繁栄と辺境の動乱」をお読みいただき、ありがとうございます!
もし少しでも「続きが気になる!」と思っていただけたら、
①ブクマ登録 ②★評価 ③一言感想
のいずれか一つでも、めちゃくちゃ励みになります。今後ともぜひお楽しみいただければと思います!




