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狂気の聖女と冷徹な公爵令嬢の密約と断罪  作者: Vou
第一章 王都の繁栄と辺境の動乱

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第十三話 王太子ユリウスと聖女エリシア

 聖女によって死の淵から救い出され、聖女の守護結界による王都の活気を目の当たりにしてもなお、王太子ユリウスは聖教会に対する不信を拭うことができていなかった。そこに何か詐欺のような胡散臭さがあるような気がしてならなかったのだ。

 そこには自らの戦場での失態に対する苛立ちと、王政府の不甲斐なさへの悔しさも混じっていたのかもしれなかった。


 しかし、聖女エリシアに命を救われたのは事実であり、その礼をすべきだという気持ちもユリウスは強くあった。

 そこで、弟の第二王子レオンハルトと婚約者クローデリアの勧めもあり、エリシアを王城に招いて、会食でもてなすことになった。


 クローデリアの馬車がエリシアを大聖堂で迎え、一緒に王城へ向かった。

 馬車に乗ったエリシアは不機嫌そうにしていた。


「エリシア、緊張しているの?」


 クローデリアが尋ねると、エリシアは頷いた。


「まさか王城に招かれるなんて思ってもみなかったわ。お礼なんていらないのに。そもそも聖教会はそうとうな金額を請求したっていうし……正直に言うと、行きたくないわ」


「そうよね……。でもユリウス様はとてもよい方よ。今回だけ、ね。王城が嫌だったらもう二度と来なくてもいいから」


 エリシアは不満そうに肩をすくめた。



 王城に馬車が到着すると、日も落ちかけ、夕暮れになっていた。エリシアはいよいよ何も話さなくなった。

 王宮の門兵が扉を開けると、広間にユリウスとレオンハルトの兄弟が待っていて、エリシアを歓迎した。


 二人の王子を見たエリシアの顔がひどくこわばり、足が止まった。

 クローデリアは思わず笑ってしまった。


「そこまで固まらなくてもいいじゃない、エリシア」


 しかし、エリシアは固まったままだった。クローデリアには、その様子が少し異様にも思えた。

 二人の王子も戸惑っているようだった。


「聖女エリシアは平民の出自とお伺いします。なかなかこうした雰囲気には慣れていらっしゃらないかもしれないですね」


 レオンハルトがその妙な間を取り繕った。


「ああ、これは気がつかなくて申し訳ない。エリシア様、どうか気楽に構えてください」


 ユリウスが本当に申し訳なさそうにそう言った。


 クローデリアはエリシアの手を取った。


「エリシア、私もいるから大丈夫よ。さあ、行きましょう」


 そのままクローデリアはエリシアの手を引き、会食の間に向かって歩いていった。



 そうしてぎこちない会食が始まった。

 エリシアの前にユリウスが座り、その隣にレオンハルトが、そしてエリシアの隣にクローデリアが席を取った。


 エリシアは給仕の運んでくる豪勢な料理に目を見張っていたが、なかなか手をつけようとしなかった。

 もしかしたら食器の使い方がわからないのではないかとクローデリアは気づいた。


「俺は食事のマナーとか気にしないんです。そんなものは食事をまずくする、くだらないものですよ。やりやすいように食べてください」


 ユリウスも気づいたのか、エリシアに声をかけた。王太子らしからぬ発言ではあったが、ユリウスなりに、何とかエリシアが気を遣わないで済むように努めているようだった。


 ユリウスは前菜として出された魚をナイフで切り分けもせず、フォークで一気にすくいあげて口に放り込んだ。クローデリアとレオンハルトは目を丸くしてその様子を見た。クローデリアはおかしくなって笑った。


「そうよ、エリシア。私たちだけしかいないのだし、好きなように食べたらいいのよ」


 クローデリアが促すと、エリシアは覚悟を決めたようにフォークを魚に刺し、口元に持っていってかじった。


「おいしい……」


 エリシアが呟いた。


「そうでしょう? 俺が最も信頼する料理長の料理ですから」


 そう言ってユリウスは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「こんなにおいしいもの、生まれて初めて食べました」


 エリシアはその日初めて笑顔を見せた。


 そこからも、会食中、ユリウスが必死にエリシアを楽しませようと、冗談を交えながら、話をした。

 その甲斐もあり、エリシアも少しずつ心を開き、笑顔になることが増えていった。


 クローデリアはその様子を微笑ましく横から見ていた。

 もともとそれほど口数が多いほうではないレオンハルトも、ユリウスとエリシアの会話の邪魔をせずに終始黙っていた。


 ユリウスは次第に上機嫌になっていった。

 聖女の素朴さに好感を持ったようだった。これまでに平民の出自の者と触れ合う機会がなく、新鮮さもあったのかもしれなかった。

 それにエリシアにはどこか神秘的な美しさがあり、男心を捉えやすいのかもしれない、とクローデリアは考えていた。


「正直を言うと、俺は聖教会が好きじゃないんです。信仰なんかより、金儲けばかりに熱心な感じがして、差別的なところもありますし」


 ユリウスが唐突にそう切り出すと、エリシアが申し訳なさそうに萎縮した。


「……もしそうお感じになっているのでしたら申し訳ありません」


「いえ、エリシア様、あなたが謝ることではありません。むしろ、あなたはそんなことをするような方ではないと感じました。言い方が悪いかもしれませんが……あなたは聖教会に利用されているのかもしれません」


 ユリウスは強い言い方をしたが、エリシアは表情を変えずに答えた。


「実を言いますと、私も聖教会が大嫌いですの」


 そう言って、二人は顔を見合わせて笑った。



 結果、ユリウスとエリシアは打ち解け、会食は成功と言ってよかった。クローデリアも安堵したのだが、何か違和感とともに、とても大事なことを見落としているような気がしていた。

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