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とてもじゃないけど日野に帰ってる余裕は無くなった。分かってる。自分のせい。でも、全体利益を考えたらこうする方が絶対に良い。俺が動くことで天才たちの歩みが進むなら、絶対的にそちらを優先する方が最適解。
いつの間にか「江戸一番の船大工」の看板に掛け替えた木工職人のオッチャンのとこに行き、中型船3隻を発注。「急いで作るから待っとけ。1ヶ月で用意してやる」って意気込んだ。そんな早く作れるの?
あとは各種打ち合わせ。友さんは2つ返事でOK。もうこの人、一言「海」って言えば何でもしてくれるんじゃない?冷静沈着なキャラ崩れつつあるよ?そして造船費用は「実験」の一言で勝様が予算くれた。「幕府として金を出すから、船は幕府所有」って言われたけど、何の問題もない。でも来年以降も修学旅行として使えるかもしれないから、優先使用権だけ頂戴って言っておいた。
どうせまだドッグは江戸にない。作る気があるのかないのかも知らない。むしろ、横浜を俺らが勝手に港湾都市化したせいで、江戸に必要ないでしょって考えててもおかしくない。本当、セキュリティ意識が低いね。もし今いる5カ国が一斉に日本を攻撃して来たら江戸は火の海なのに。怯えまくってたくせに警戒心ゼロ。何ともアンバランス。
ってことでこっち側から見れば、鍵を預かってる状態のレンタカーみたいになってるってことに気付いてないんだろうな。ザル。
オランダに人貸してってお願いしたら、どんどん話が広がっちゃって他の国からも「ズブの素人が自信満々に琉球目指すだと?面白そうだ。俺らにも何かさせろ」って言い始める。みんな海の男たち、ヒマなのね。それだけに留まらず、賭けを始めやがった。ダメダメダメ。賭けは胴元が損しない仕組みなんだから、俺が胴元やる。
第一レーン、友さん艦長でズブの素人の学生たち。第二レーン、高杉さん艦長でオランダ乗組員操縦。第三レーン、西さん艦長で同じくオランダ乗組員操縦。なお、他の国には救出兼レースの見届け人として、監視役をお願いします。賭けの対象は、何隻自力で琉球までゴールするかとその順位。艦長命令無視してゴールしちゃった場合は、ゴール出来なかった判定。7日間だけは素人艦長の指示を守ってね。ただし、意見する分にはOKだよってお願いしといた。結局出航までお祭り騒ぎは続いちゃった。イギリスとフランスなんて、どちらからともなく「相手が行くなら」って公使まで行っちゃった。いくら娯楽に飢えてる環境下でも、公使館を公使が空けちゃってもいいの?
どんだけかかったとしても往復2ヶ月もかからないだろう。そして、本当の勉強は帰りの航路。2人で計算と実務やってもらって、友さんの元で航海術を学んだ人たちを扱えるのか。プライドをへし折って欲しい。何も成してない人の肥大化したプライドほど、扱いづらいことこの上ない。帰りの航路は護衛艦も付けないよ。頑張れ!
生徒がいないから、ここぞとばかりに勝様のための統計学の補習。俺はその間に、前回同様、受験者のデータ化。そんなことをしながら2人の講義の状況を聞いてた。
「勝様、以前言ったではありませんか。全体の偏りを見る時に、明らかな異常なものは一番最初に排除しておくべき、と」
「いや、しかしな、出ているものを使わないというのは、座りが悪いと言うか気持ち悪いと言うか。杉殿はこの『外れ値』というのをどう判断しているんだ?」
「確かに私も始めは勝様と同じことを考えました」
「この『外れ値』をどう捉えたら良いか、具体的に説明できるか?」
「私が思い浮かべるのは、藤二です」
「藤二?」
「はい。例えば、江戸は大きすぎますが、アイツの出身の日野、日野の子供全員を対象にしてデータを作ったとしましょう。そのデータから日野の傾向を作ったとします。隣の府中でも同じことをした場合、ほとんどがそう変わらないデータになるはず。でも日野にアイツがいるせいで、日野だけが統計結果がおかしくなる。それは各藩と見比べたとしても異常な結果になりかねない。統計の邪魔でしかないんです。曲がりなりにも洋書調所は才の集まり。その中においてもアイツは異質。でもアイツの属性である「子供」というところに入れてしまうと、最早異質ではなく異常になってしまう。だから、統計の結果に影響を及ぼす外れ値は、除外しなければなりません」
「ハッハッハッハッハッハハハハハ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。杉殿、真面目な顔してそんな笑わさんでくれ。あっはっはっは」
勝様笑いすぎ。杉先生、言ってること何も間違ってない。間違ってないけど、なんかイヤ。




