3-03
「外れ値の藤二が来ましたよー」
居るの知ってるのに固まるなよ。そんな慌てなくても。
「杉先生、あともう少しだけ前提条件が必要かと。日野の子供対象のデータと仰ってましたが、例えば生存確率や出生数という、私の個性を必要としないデータなのであれば、私は外れ値にはならないかと。先ほど笑い転げていた勝様は、全てにおいて藤二を外せば良いなどと短絡的な判断をしかねないので、杉先生はご承知だとは思いますが念のため」
これくらいのイヤミは許してくれ。
「さ、勝様。今度は『0』の意味を読み解く時間ですよ。2回目の受験者のデータを1回目のデータと比べるだけでも、だいぶ大きなことが読み解けます。回数を重ねていけば、より正確性が上がるかと」
「『0』の意味?無は無だろ?何を言ってるんだ?」
「では、昨年のデータと今年のデータから私が推察したことを今から申しますね。まず薩摩藩。昨年複数人受験者がいたのに今年はいない。ということは、藩の方針が大きく変わったということが読み解ける。藩主の交代などありましたか?次は水戸藩。水戸出身を自称する浪人の方の受験は昨年も今年もありますが、推薦人は江戸の方。藩としての推薦は0。ということは、方針として攘夷。肥後、土佐はそもそも0。言わなくてもわかりますよね?」
ごめん、薩摩藩に限っては前世の知識からも引っ張って来てる。だけどここまで露骨なら、それがなくても推測は可能。
「あとは、昨年合格者を出したのに、今年推薦すらいなかった藩については、3つほど可能性があります。①推薦に足る人材がいない②期待した利益が藩に還元されていないと判断した③藩内情勢の変化、くらいでしょうか。まあこれも回数重ねれば答えは出て来ますよ」
「待て待て待て待て待て。『0』は無なんだぞ。なぜそこまで言い切れる?」
「数としての『0』は、確かに無です。しかし、『0』という数字自体に意味がないわけじゃない。杉先生ならこの意味理解していただけますよね?」
「言いたいことは分かる。だが俺も、今まで『0』の意味など考えたこともなかった。再度データを見直さなければ。こうしてはおれん。では」
あーぁ、行っちゃった。杉先生は調所の中ではだいぶまともな人の方だと思ってたけど、やっぱり変態だったね。勝様ほっぽらかして行っちゃったよ。
「じゃあ勝様、私はこれで。先延ばしにしていた帰省をしようと思いますので。では失礼します」
俺の考えてる明治に至る三国志で難しいところは、物理的距離で敵味方が分かれてないところだ。敵味方が入り乱れてる。藩の傾向だけでの判断は危険。藩主によっても変わるし、藩主が強権的な対応をしてれば反発も強くなるはず。まして表向き味方で、本音は敵ってことは十分に起こりうる。金配って黙らせられるなら、溜め込んでる金もある。そんな単純なら頭はいらない。だからこそ、圧倒的な知で発展させ、味方だけを優遇かつ裏切る気をなくすほどの発展の手伝い。
そうだ、新幹線の駅だと思えば良い。地方出身の有名議員が、強引に地元に誘致するやつ。あれの逆。こちらの味方にだけ駅を作るイメージ。最終的には追従するしかない形を目指せば良い。守旧派なんか恩恵に与れなければ、直ぐに尻尾振る。可能ならば、駅の見返りとして隠居しろって迫れないかな?
いかんいかん、話が飛躍しすぎた。まずは分かりやすく、江戸と横浜を通す機関車か。あんまり環境破壊を推進するようなことはしたくないけど、蒸気船から蒸気機関車なら研究進めてる人もいるし、流れ的にもおかしくない。初物に弱い天才たちも食指を伸ばすはず。何より史実でも通してたはず。いつなのかは知らないけど。結局史実をなぞる事しかできない。何せ凡人ですから。
前に帰省したのはいつだったか。そうだ、元服する、しない騒動のバタバタ帰省だった。あの時も多分理解出来てないまま、家族は「うんうん」言ってたはず。これは一旦、また爺様の所で要相談かもな。ところで爺様、まだ生きてんのかな。
生きてた。俺の記憶と全く変わらない爺様のままだった。「大きくなったな」なんて言われたが、爺様は変わらなすぎだろ。何だこの人、仙人とか妖怪なんじゃないのか?
相変わらずどこまでが機密事項なのか分からん。困ってたら爺様が「安心せい。外山殿から大体のことは聞いておる」。
聞けば、内田様から外山様、そして爺様から父へと話は伝わってるみたい。しかも大事なとこはボカシながらも要点は押さえて。素晴らしい。それなら妙なゴマカシをしなくても大丈夫か。でも俺はまだ外山様と会えてない気がするんだよな。外山様が数独の研究を始めてくれたお陰で、交渉の入口のツールとして最高なのに。お礼を言いたい。
「お前はどんどんどんどん思いもよらぬ方向へと進んで行くのぅ。お前の話を聞くためにも死ぬに死ねんな。奇想天外すぎる。どんな作り話よりも愉快な話だからな」
ほう、俺がこの妖怪を長生きさせる原因だとでも?




