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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: 関沢賢吉


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 「海はな、1日たりとも全く同じ状況がない。波も風も天気も必ず違う。それを計算で辿り着く。これほど楽しい事はない。海は良いぞ。次は藤二も行こう」


 分かったよ友さん。その話もう5回目。津多さんもうんざりしてる。確かに六分儀を一緒に作った。それは事実。でも、どう使うのか、どう役に立つのか、何回聞いても理解出来ない。諦めた。オランダ人とアメリカ人に聞いて、ようやく分かった。その上での結論は使える人が使えば良い道具。俺にとってはその認識。昭和のパソコン、ワープロと一緒。そしてどうにもならない船酔い。俺は何度誘われても行かないよ。


 みんなアメリカにかぶれてる。「おーう、藤二」って声かけては握手からのハグ。そして公使館があるからか、それが違和感ないのがなんかイヤ。勝様まで同じことして来た日には殴りたくなった。俺への説明をしてなかったことなんか、きっと微塵も覚えてない。挙句、船酔いは無かったことにしてる。なんて都合のいい記憶力。「海を舟で超えた。この偉業を誇るために、海舟と名を改めよう」なんて言って、本当に勝海舟になっちゃった。そんなくだらん理由で改名しちゃうの?この人実は、相当ナルシスト?だんだん腹立って来たから、現実に戻してやろう。


 「名前はどうでも良いですから、勝様こちらへ」と誘い込んだのは、調所に設けた秘密の倉庫。そこにあるのは各国からせしめた、商人からせしめた大量の金。銀は細かく両替してる。


 一気に目を覚ましたようだ。帳簿の写しを渡した。これを知ったのは勝様が初めて。多分箕作様と友さんは、俺が何かをしてることは勘付いてる。でも、何も言わない。小舟で海の上で二人きり。



 「お前、あれほどの金、どうしたんだ?この帳簿はなんだ?」


 「裏帳簿です」


 「何のために?どうやって?」


 関税、土地賃借料、試作販売の利益、商売の権利の譲渡、倉庫貸しの全てを説明。


 「何故幕府に納めん?」


 「国際法も理解しない。幕府内の常識だけに固執。自分たちの道理しか認めない。本来取るべき、取れるものが何かすら理解しようとも知ろうともしない方々のために、なぜこちらが知で稼いだ金を納める必要があるのですか?」


 「では何のために溜め込んでいるんだ?」


 「日本のためです。以前お伝えしたでしょう?日本のためになら働くと。再度言いますが、幕府は知らないから取っていない、取って当然の金を私が預かっているだけ。不当な利益でもなければ、私的にも使ってもおりません」


 「…………」


 「内田様とお話しになられましたか?威張る相手がいなければ、最後は泣き落としですよ?詳しくは内田様にお聞き下さい。ただ、自分の権威が通じる相手にしか威張れないんですよ、守旧派は。勝様、天下三分の計です」


 「三国志演義か?」


 「はい。守旧派と攘夷派、そして我々革新派です。アメリカに行かれて、向こうから日本を見た時に、如何にくだらないことに疲弊されていたかと思いませんでしたか?」


 「それは否定出来ん。出来んが」


 「覚悟をお決め下さい、と以前お伝えしました。まだそのお返事を聞いておりませんが」


 「いや、しかし、そんな」


 「では勝様、一つお願いしたいことがございます」


 「なんだ?」


 「江戸で杉先生に、統計を学んで下さい。統計を学んだ上で、勝様がお作りになっている貸借対照表をご覧下さい。違った見え方が出来るようになるはずです」


 誤魔化せた。これで江戸に帰れば勝様は俺の行為を黙認したことになる。共犯関係の成立。後で文句は言わせない。しかも帳簿も持たせてある。もう逃がさない。浮かれてなければもう少し引っ張るつもりだったけど。変にかぶれるから悪い。自分が蒔いた種だと反省してもらおう。


 調所はアメリカで仕入れて来た新しい本、情報、技術で盛り上がってる。幕府は来年再度渡米して、今度は公使を送りたいなんて偉そうなことを言ってるらしいけど、ここの人らを甘く見過ぎ。一度作れた蒸気船に興味はない。もう話はSLに移ってる。友さんなら航海士くらいはするかもしれないけど。


 みんなが夢中になってるとこで、こっそり箕作様と友さんを呼び出し。2人に隠し財産の帳簿と説明と在処を共有。勝様も知ってると伝えた。友さんは頭を抱えて、箕作様は船酔いよりもげっそりしてる。そのリアクションで初めて、事が思ってたよりも重大だということを知った。



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