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side ハリス
俺はこの国で何回驚かされるんだ。デーモントージ。もしかしたらこの国と国交を結ぶことすら禁忌だったのかもしれない。
タフネゴシエーター。頑固なわけではない。ただの権利を主張するだけのバカでもない。自分の利益だけを求める愚か者でもない。だが、必ずトージの求めるところに着地させられてる。そんな気分だ。もうサタンになったのか?
アイツが支配しているこのヨコハマ、色々とおかしい。ついこの前まで木造帆船だったんだぞ。それがなんだ。そっから蒸気船まで完成させるスピード異常だろ。しかも作業者皆が楽しそうに作り上げる。ヨコハマがおかしいのか?この国がおかしいのか?サタンがおかしくさせてるのか?サタンの呪いなのか?
リューキュー、カラフトまでも、こちらが好意で、ある意味興味本位で同乗させた航海士も震えてた。戻って来て最初の言葉が「アイツらイカレてる。俺らでも慎重になる夜の航海も、余裕綽々で楽しんでた」だった。
大体がこのヨコハマの発展スピードだって尋常じゃない。ただの荒地だったんだぞ。それをなんだ。あっという間に外交都市にしようとしてる。しかも公使館同士を一区画に並ばせて、これでは他国の目もあるし出し抜こうにもそうは行かない。そのくせ、わざわざBBQ台なんか用意してくれて。
アメリカに向けて出発していく時のヤツらのテンション、まるでバイキングだ。一人ゾンビみたいな奴もいたけど。あれはサタンの仕業か?サタンの逆鱗に触れてああなったのか?なぜかサタンはヨコハマに残ったが。あんなサタンがアメリカを目指さなくて良かったかもしれん。我が国家もサタンに侵略されたら大変なことになったに違いない。
仮に他国とは言え、街が発展していく姿は、見ているだけでも楽しい。続々と人が増え、貿易品が増え、俺の知らなかった他国のものにも触れられる。それはラッキーだった。そんな平穏な気持ちを弄ぶのは、決まってサタンだ。
「ちょっと公使だけにさ、日本の最新鋭の兵器見て欲しい。感想聞かせて」なんてハイキングに行くようなテンションで誘って来るから、つい行ってしまった。これが間違いだった。これなのか、ペリーが見たとんでもない大砲は。あの射程距離、あの精度、普通に世界の最先端じゃないか?どこだって馬鹿じゃない。最新鋭を売るはずがない。にもかかわらず、この国に存在してる。なぜだ?こんなもんを海岸線に並べられたら、どこの国だって近づけない。そう思ってるのは他の国も同じようだった。良かった。どの国も驚いていた。イギリスですら驚いていた。あれなら無敵艦隊だって葬れる。どこの国だって欲しがるが、その返答こそ見事。どこの国だって自国の最新鋭など出すはずがない。何も言えない。
なぜ、鎖国というくだらない政策、まともな外交などしてこなかったこんな僻地の国で、まともな交渉が出来るのか。しかも実に獰猛な、狡猾な交渉。アメリカに限らずどの国も、油断してたら一気に喰われたに違いない。あっという間にサタンのペース。
丸腰のくせに武力による威圧外交が出来ず、少しでもこちらに有利になるよう交渉しようとすれば上を行かれる。恐るべしサタン。俺はもしかしたらBBQ台を喜んだ時点で負けたのか?BBQの火を見てると何故だか落ち着く。これもサタンの力なのか?俺はサタンに魅せられてるのか?
また何やら巨大な建物を建て始めた。この景色の変わりようを写真に収めて、ビフォーアフターを見せても、誰も信用しないだろうな。
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商人さんたちに倉庫と商社のオークションの話をしたら、代表者たちが飛んできた。デカすぎる話だから、共同体を作る。だからオークションはやめてくれ。倉庫の利用料としていくら、共同体として権利をこれだけ払うから、って。くそ、オークションなら釣り上がるのに、先手を打たれたか。仕方ない。オークションだと後先考えずに勢いで高値付けるケースもあるからね。それが狙いだったけど。ま、こっちは何分元手なし。倉庫を建設して家賃収入と関税。そして一時金で共同出資金を受け取れる。じゃあ共同体認めるから、守旧派の件はよろしくね、ってお願いだけしといた。儲けさせてあげてる間はこっちの顔も立ててくれるだろう。
倉庫のついでに、寄宿舎も作ってる。江戸が一年生だとしたら、二年生から横浜に拠点を移してもらう。希望者だけ。大学でよくあるキャンパス移動のイメージ。先んじて用意しておけば慌てなくて済む。その後のことは、また様子を見ながら考えよう。
倉庫と寄宿舎の形が見えてきた頃、咸臨丸とアメリカ軍艦が帰って来た。途中で引き返して来たのかとちょっとだけ疑ったが、違った。2ヶ月を想定してた片道が一月半で航行出来たらしい。勝様はずっと寝たきり、友さんずっとハイテンション、福沢さんは写真撮った、幕府の人らは固まってたけど、調所の人たちは普通に会話出来て瓦版にも乗ったぞ。何ならインタビューまで受けて来た。英語めっちゃ通じてた、とハイテンション。それぞれが本屋に行って街中散策して楽しかった、って喜んでる。
まるで修学旅行で初めてテーマパークに行きました、みたいな感じの落武者に見える人たち。良いからまずは帰って汚れ落として来な。だいぶ臭いよ。だいぶ汚いよ。相当焼けたね。
勝様はグロッキーだから、とりあえず落ち着いたらまた来てねって伝えて、江戸に帰らせた。調所のテンション高い人たちには、さっさと日常に戻ってもらう必要がある。それぞれにレポート提出してもらおう。帰宅したら修学旅行は終わりです。さっさと落ち着いて下さいね。
幕府の人たちも勝様も、横浜から江戸までの距離でも船はイヤだって言って、歩きを選択。体力大丈夫なの?神奈川宿まで歩いて、そこで数泊するって。そうね、横浜は宿はないからね。わざと置いてない。機密たっぷりだから。おかえり、そしてお疲れ様!




