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「右から合格、不合格、要相談、判断がつかないと並べてある。藤二の意見を聞かせて欲しい」
「その前に、要相談と判断がつかないをわざわざ分けた理由を、そして4つに分けた根拠を教えてください。あと、私の意見はあくまでも私の意見ですよ?決めるのは杉先生です。そこは約束して下さい」
「分かった。俺の合否基準は、作文の分量が少なく、異端と言われたことが無い人間。これは、能力の有無ではなく、今回求めている人材ではないと考えた。合格はその逆。要相談は作文の分量が多いのに、異端と言われたことがない人間。判断がつかないのは、そもそも作文を書きすぎていて書き終えておらず、異端かどうかも書けていない人間。この四つに分けた」
「杉先生、素晴らしいです。それがデータですよ。杉先生が悩んでいる統計の基礎となるデータ、そしてそこからの導き、見事です。
その上で私の基準で言うならば、その杉先生が判断がつかないに置いた人こそ、合格です。不合格は杉先生と同じ。要相談は杉先生基準で同じ人と杉先生の合格とした人です」
「しかしな、問いが出されているのに回答しない、というのが合格になるのはどうも解せん。そこをどう考えたのか教えてくれ」
「杉先生、横浜の方々を想像したら答えは出るじゃないですか。杉先生も一緒でしょ?どこまでも貪欲に自分の知りたいことを探求し、自分の考えをいくらでも語れる。それこそが変態の変態たる所以。何の役に立つのかなど微塵も興味ない。そういう感覚だからこそ、いうまでもなく本当の異端。自身で『自分は異端だ』と言うよりも、雄弁に語っているのではないでしょうか」
「なるほど。作文で熱意、二択で変態性と単純に考えていたが、その先があったわけか」
「そうです、そうです。データがあっても、そのデータをどう判断するか、どう活用するか、というのが統計学なのだと私なりの統計学の捉え方です」
詳しい統計学なんか学んでないから、ハッタリに近いけど。
そこからは杉先生が気付いた分析を語り出した。残っている人の推薦者は調所にいたことある人の割合が高いとか、調所から地元に帰って行った藩の人も見受けられるとか、どうやってここの情報を知ったのか分からない人がいるとか。良いじゃん、それが偏りと分析ですよ。あとは、要相談をどう判断するかの相談とか。困ったら友さんを想像してみて下さい。友さんはきっと、言葉少ないけど異端扱いはされてた人ですよ。そういう変態を捨てるのは勿体ない。損失です。声が大きい人だけが得をする、そんなのを認めてはダメです。追加で面接したら良いじゃん。大した人数じゃないんだし。
「杉先生、失敗したって良いんです。引き受けられるだけ引き受けても良い。絞っても良い。そこは杉先生の判断。その反省を、次に活かせばそれで良いんですよ。少なくとも知を得られるだけ、生徒に損はありません。結果的にそれを活かせるかどうかはその人次第。杉先生に責任はないんです。
あともう一つ付け加えると、同じことを繰り返すと、より傾向、偏りが見えてくると思います。世間にデータがないから統計学がいまいち掴めない。私もデータという言葉をどう訳したらしっくりくるか、いまいち掴めてない。ですが漠然と、『データとはこういうもの』というイメージだけはあります。そのデータを取るために、調所を活用したって良いんです。完成品が具体的にあるわけではない。ですが、統計を理解できれば、きっと役に立つはずです」
「藤二、俺はデータという言葉で困ってるって言ったか?」
「いえ。ですが私も杉先生が抱えてる統計の本を読みました。私はそこが困りました。きっと他の方も同じ感想を持つと思いますよ。だって今手元に『データ』と呼べるものがないんですから。何となくは分かる。でも具体的に分からない。なら具体的にしてみれば良い。それだけですよ」
もう一つ言ってないことがある。俺が説明するのが面倒だと思って放置してたとこに自ら突っ込んでいくなんて、「あなたも十分変態だ」と思ったということは黙っておこう。平成令和みたいに、データは探せば見つかる環境ではない。データという言葉すらない状況で統計を身に付けようだなんて、正気の沙汰ではない。そして、いくら教科書があるとは言え、1人で最低中学レベルを教えるんだ。俺には無理。やりたくない。
横浜の第二弾の教科書が出揃った頃、イギリスとフランス、ロシアが次々と来日。亡命先が増えました。全ての国を丸投げして来た。俺もそれらの言語に興味がある人に丸投げ。フランス語、ロシア語は前世でも習ってません。門外漢。天才たちに任せた。そして、江戸の学校が開校した。




