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守旧派は金で殺す、攘夷派は理で殺す。――幕末に転生した効率厨サラリーマン、内戦はコスパが悪いので和算と裏金で歴史を書き換える  作者: 関沢賢吉


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 安政5年新春早々、江戸の調所に珍しく人が集まった。調所の学び舎の第一期生の試験。体系立てて学ぶ機会を得られていない中、試験内容をどうすれば良いかを非常に悩んだ。


 文科省の教育課程なんかあるわけない。どこの誰かも知らない。そんな人を篩に掛ける方法。一番簡単な方法は作文だ。制限時間を設け、「志望理由、興味ある分野、その分野のどんな所に魅力を感じているのか」と「異端扱いされたことの有無」を書かせた。また推薦者がいる場合、こちらの用意した書類に署名をさせた。


 「こちらの◯◯という者を推薦する △△」という、一見何の変哲もないフォーム。しかし隅には注意書きをきちんと明記。それを受験票代わりにする。


一、結果に対して推薦人、推薦者の地位は考慮しない

二、試験場にて調所の指示に従わなかったり、暴言を吐くなどの行為をした者は即刻追い出し、文句は受け付けない

三、二と判断された者、並びにその者の推薦者との関わりを、調所は今後一切の関わりを持たない


 ここまできちんと確認する推薦者なら、妙なヤツを推薦して来ない。地位でどうにでもなると思い込むようなバカは、今後一切関わらずに済む。勝様が初回で、キチンと書面を盾に戦えば、その後は誰もがラクになる。内田様をストレスの捌け口にした罪を、それくらいで勘弁してあげよう。頑張れ。


 噂があっという間に広まったのか、100人弱、人が集まった。2/3はさっさと消えたけど。


「誰だと思ってる?」知らん

「推薦者は」知らん

「こんな失礼な扱い」知らん

「我が藩に」知らん、こっちは幕府、謀反?


 一番に排除すべきはバカ。満場一致。次に弾くは、主体性の乏しい優秀な人。申し訳ないが今の調所に、「使えるかもしれない」人材のために割くリソースはない。一番欲しいのは、主体性のある変態。30人くらいになったので、残りの選別に関しては俺と杉先生の2人で出来そうだけど、勝様も呼んできた方が面白そうだ。


 「勝様、これが禁則事項を確認もせず騒いだバカの推薦状です。打ち合わせ通り、通達をお願いします」


 「こんなにおるのか。しかも名前を確認すると…」


 「どうせ守旧派の人間ばかりでは?」


 「なぜ分かる」


 「学びたいと思う者は、わざわざ権威を振りかざしません。学ぼうと思う者は傲慢になりません。そう考えれば確認せずとも見えてくるかと」


 これも傾向からの推測でしかないんだけど、まだ分かりづらいよね。統計を掴みきれないのに、データという概念が存在してないことが一番の要因のはずだ。俺もそれを上手いこと説明出来る自信がないからこそ、説明をずっと避けて来た。だがしかし、すでにここには一定のデータがある。データという言葉の扱いに悩んでるなら、もう訳すことを諦めて、そういうもんだって認識してもらおう。


 「杉先生、私の中では合格、不合格、要相談の3つに、すでに分類が済みました。2日後にまた来ますので、それまでに決めておいて下さい。杉先生の弟子となる人間ですからね。そしていずれ横浜の天才たちに並ぶかもしれない方たち。是非吟味して下さい。あと、こちらは勝様に渡した途中退席を言い渡した者たちの名簿と、その答案です。合格者を決めて時間が余りましたら、そちらもご覧ください。結構面白いですよ。

 さっ、勝様行きますよ。その名簿、勝様のために作ったんですからね。内田様に愚痴る前にもう一仕事あります」






 「勝様、その名簿ですが、断罪するだけに使用するのでは、実に勿体ない代物であることを認識されていますでしょうか?」


 「うむ、主だった守旧派の名があるが、それ以外に何か意味があるのか?」


 「その中でも二種類に分類されると思います。一つは明らかな身内を推薦、他方は全くの無関係な者を推薦している。その二つの違いからどんな想像をされますか?」


 「想像と言われてもな、どうもこうも」


 「勝様は自身よりも身分の高い方からの推薦を受けてどこかに行った時に、ご自身の感情のみで動けますか?」


 「なるほど。確かにそう考えれば、推薦者の顔を立てるために普通なら多少の我慢をしても然るべきだな」


 「ということは?」


 「本人の気分で動くことを容認されている?」


 「そう考えるのが妥当かと。少なくともその推薦者と我々は、分かり合えるところにはいないと考えるのが自然ではないでしょうか」


 「では、身内贔屓の連中は?家として信用できない家と見るか?」


 「その見方も一面では正しいでしょう。その一方で、特に信念というようなものを持たない、利さえちらつかせばどうにでもなる、とも考えられます。それこそ勝様が感情だけで選べるならば、対立派閥に自らの意思で近付きますか?」


 「ということは、敵対というよりも」


 「何も考えていない。理ではなく利益です。利益をちらつかせればどうとでも動く、そう考えてよろしいかと」


 「では、その手の人間こそ信用せずに利用する、という接し方が正しいということだな」


 「推薦者には、使える一番高い地位を書きたくなるのが人情ですからね」


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