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箕作様と一緒に、内田様邸兼関流算法塾兼洋書調所江戸本部に訪問。久しぶりの我が家な感じ。内田様は我々の顔を見て「ゲッ」て顔。そんな顔を内弟子にしないで下さいよ。
聞けばかつての弟子を中心に、色んな所からひっきりなしに、様々な問い合わせがあったし、今もあるらしい。連理玉を主人が欲しがってるってくだらないものから、いろんな藩からの調所への推薦、船が欲しいとの問い合わせ、果てはハリスが持って来た文を読め、交渉しろ、極めつけには、勝様が幕府内の愚痴を言いに来る。一体全体、横浜で何がどうなってるのかさっぱり分からんのに全てが俺の元に来る、と怒り始めちゃった。そんな話をしてる所にノコノコとやって来たのは勝様。「内田殿、聞いてくれ。藤二?箕作殿?何故ここに?」
現状把握と問題点の洗い出し、改善策を考えながらこちらの要望を通せる方法を探さないと、内田様が潰れる。
以下、俺からの提案
① 副所長の任を解いて、一人の調所の研究者とすることで調所の負担を軽くする
② 売って欲しい的な問い合わせは拒絶
③ 弟子という人間関係を使うなどと卑怯なことは②と同等と見做す
④ ②と③は、次に同じことをして来たら調所として取引を拒否すると同時に、出入りの商人にも通達する
そこまでキツくして良いのか?と聞かれたが、策は色々と講じるので大丈夫と答える。残る課題は学校運営と生徒集め、副所長。
「副所長は小野殿で良いんじゃないか?」と内田様。「副所長としての一番の仕事は藤二のお目付け。ワシは現在離れて暮らしておるし、小野殿の元に居候している。小野殿が適任だろう」。
そうなの?初めて知ったんだけど。
「誰かが見てても訳の分からん方向に突っ走って行くではないか。何なら飛んで行ってもおかしくない。監視の目が無ければどうなる?制御不能の暴走だぞ?」
なぜか知らんが怒られてる。
「勝様からもきちんと聞いておるぞ。だいぶ辛辣な暴言を吐いてると」
それは事実。何も言えん。
「ところで藤二、お前から見て、ワシは、関流は、守旧派か?」
なるほど、そういう切り口で来るか。
「いえ、断じて違います。確かに伝統を守っている方々に、そういう気質があることは否めません。ですが、内田様、関流という流派の単位で見れば、そんなことはございません」
「どう違う?」
「『挑戦』への気概の有無ではないか、と考えます。例えば内田様が、その気概が無ければ、そもそも私を内弟子にせず、異端として処理していたかもしれません。もしくは関流を押し付けられていたかもしれません。ですが、内田様はされませんでした。自由にさせていただきました。そこには、『新たな発見の可能性』を見て頂けたのかと考えます。それは、私の可能性だけではなく、内田様の、もしくは関流の発展に対して、全ての可能性です。そして、数独というこれまでにないものを組み込まれました。これもまた『挑戦』ではないでしょうか」
「その『挑戦』をもっと詳しく」
「はい。私の中の『挑戦』は、成功することだけを指すのではなく、失敗も含めています。むしろ、失敗せねば成功しないとすら考えています。内田様はそれに共感していただけますよね?」
「そうだな」
「守旧派は違います。失敗の可能性があるなら絶対に動かない。成功しか許さない。その結果、『挑戦』しない。その先どうなるか。思考停止と踏襲です。誰かがやったことをそのままやる。それで失敗すれば、自分の責任ではない。最後に行き着く先は、ただの責任逃れからの衰退です。その方々からすれば、どうすれば良いかを考えることこそ、無駄なのでしょう」
「ふむ」
「関流宗家預かりとして、ご自身が学んだことのみしか認めない、認められない、その姿勢であったならば、それは守旧でしょう。免許皆伝された中には、もしかしたらそういう考え方の人がいるかもしれません。しかし、私の目から見た内田様、関流はそうではありませんでした。ですから断じて違う、そう申し上げました」
「で、何らかの考えがあって江戸に来たのであろう。何を企んでる?探り合いは時間の無駄。申せ」
バレてるね。
「以前、教科書を作ったのを覚えていらっしゃいますか?あれを、そろそろ活用しようかと思います。また、横浜にて第二弾の教科書を作成しようと考えています。そして、人が集まる江戸に、調所の学び舎を作りたいと思ってたんです。が」
「が?」
「内田様に教師をしていただこうと考えていたんです。それをどうしようかと」
「良いか?」
「箕作様どうしました?」
「杉にやらせたらどうだろうか」
確かに杉先生が取り掛かろうとしてる統計学は、教育に対して役に立つ部分が多い。データという概念がないからこそ、閉鎖空間の学校なら、自分好みのデータを作りやすい。そこから統計学とは、ということに行きやすいかもしれない。だからこそ、その案は考えていた。でも、本人の望まないことをさせるのは気が進まない。だから言わないでおいた。
「元々、内田殿が大変なら杉に手伝わせようと考えていたんだ。人に教えるという経験は、自分の成長に繋がる。周りが熱中する中、アイツはそれが見つからないことを焦ってるように見える。だから、杉にやらせたいと考えた」
「では、そうしましょう」
「そんなあっさり決めて良いのか?」
「私も杉先生にお願い出来れば、とは考えていました。箕作様からも同じ考えが聞けたのですから、問題ないでしょう」
本人不在の中、配置転換が決まった。




