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調所が一気に活気付いた。蒸気機関、英語、本、瓶詰め、航路、ハリスの要望による公使館の建設。各々がそれぞれに興味を持つ実地研修が行われる。俺とヒュースケンはあっちこっちで呼ばれる。「これを聞いてくれ。訳せ」で毎日走り回ってる。そして日本側の探究のしつこさに、明らかにアメリカ側は引き始めてる。完全に「またか」の感じ。原理を知らなくても道具として利用可能。むしろ、原理を知らずとも使えるからこその道具。そういう普通の人が原理を聞かれる。分からんと返答。そしてそこで諦めるのが多分普通の人。分からんって言われたら本で調べ始める。原理と道具を繋ぎ合わせる努力をする。こういうことか?と尋ねる。分からないと答えるしかない。そりゃそうさ。相手は軍人。道具を使うことに長けたプロであって、原理を説明どころか考えずに使う普通の人。みんな気付いてる?デーモンの仲間もまたデーモンだ、なんて言われてるよ?
1ヶ月もせずに意思疎通、3ヶ月もせずに日常会話、半年もすれば冗談も言い合うようになれるここの人たち、絶対頭おかしい。俺の持つ英語のアドバンテージ、もう0に近い。10年以上の英語歴の俺が勝てるとするなら、英語の言語体系を言語化することくらい。でもここの人らは、きっとそれすら簡単に追いつくだろう。ヒュースケンもその熱にやられたのか「ニホンゴ、ムズカシイ」って喋ってるから腹立つ。お陰で各種辞典の編纂が進むこと。流れでオランダまで「俺らも条約きちんと結ぶから、横浜に公使館置かせろ」って来てバッタバタ。勝様に相談投げれば「そっちで」の丸投げ。早いこと早いこと。あと2カ国分なら一等地に公使館建てれるよ。イギリスかな、フランスかな、スペインかな。
横浜の港も狭くなる予想がされるため、まずはオークションの前に通達。「あなたが知ってる守旧派と取引ある商人教えて」。みんな簡単に口を割る。そこだけ出入り禁止にする。港スッキリ。舶来品来る。扱えない。仕入れ出来ない。そうなると、商人としては「不採算顧客」扱いにして切るよね。「密告はいつでも受け付けるよ」ってそれぞれで監視してもらおう。良いんだ。実際に商売しようがどうしようが。うちは港に来る船の管理だけ、直接商売に関与してない。だから賄賂を発生させようがない。ただ、抑止力さえ植え付けられれば。どうせ守旧派なんか、口ではデカいこと言いながら、舶来品みたいな珍しい物に弱いんだろう。言動不一致なヤツなんか、こっちに絡んでくんな。
実は一番この状況を喜んでる人は、宗教関係を勉強してる人だったりしてる。直接宗教観だったり、聖書の認識だったりをヒアリングしてる。本を書くほどの宗教学に傾倒してる人と、実際の捉え方が違って楽しんでる。
で、気が付いたら小さい蒸気機関の開発しちゃった。もうこっから暴走モード突入待ったなしだわ。また勝様に金の無心をしよう。そうだ、どうせなら勝さんを艦長にして、アメリカに行ってもらおうかな?
ハリスさんを訪ねると、バッと立ち上がり背筋を伸ばして敬礼される。俺、あなたの上司でも何でもない。ただの居候。言っても理解してもらえないから言わないけど。まだチョンマゲないでしょ?どういう航路で来たのか確認したら、地球儀使いながらヨーロッパからインド、そして日本まで。大変だな。ワシントンから出発したからしょうがないみたい。なるほどね。太平洋航路を選択しなかった理由は、寄港地の少なさと条約の中身を詰めきれてなかったから。次の航路はそっちになる可能性もある。じゃあさ、そっちの航路で来た時に、日本も一緒にアメリカ行くのOKか確認したら、流石に軽くバカにしながら、行ける船なら別に良いけど、だって。ここの人たちの産業革命の進め方、舐めちゃいかん。産業にする気がないから技術発展にしかなってないだけで。今ここで、ここの人らが教えるモードに入ったら、間違いなく国として産業革命は起きる。今は学ぶモード、確認モード、実践モードなだけで。
そうか、教えるモードか。そろそろそっちも真剣に考えないといけないな。佐久間様の弁論塾も無くなったし。となると、まずは学校の仕組みを考えるか。江戸の本店、まだ人いるし、ここよりも暇そうだし。向こうは人育て、こっちは実践。その気になれば1年あればトリリンガル。杉先生だってジョンさんだってもう3カ国語ペラペラ。
調所の皆さん集めて、情報仕入れる時間はそろそろ終わります。次は教科書を作りましょう。以前作りましたね?その発展版です。まとめる準備始めて下さいね。皆さんやってることバラバラです。それで構いません。前は私に講義していただきましたが、今度は江戸の方々も含めて皆さんで聞き合いましょう。内容を、表現をそれぞれ確認し合いましょう。知の集約はまだまだ必要です。
えーじゃない。待ってじゃない。休み明けの学生か!




