3-06
久しぶりの下田。ここも訪れる度に風景が変わっている。進行形。理由は簡単、反射炉だ。ここまで長かった。これで資源の再利用が可能になる。まだ側が出来ただけで、内部の反射熱を1箇所に集めて溶かす構造はこれからだけど。左官職人さんたちへも無理を言ったし。でもおかげで、熱に強いコンクリートもどきで完成に至った。いろんな焼き灰に飽き足らず、火山灰も配合したらしい。
大体さ、DIYでのコンクリートなんて買ってきた粉入れて、適量の水入れて練る。そしたら完成じゃん。原材料が何だとか配合とか知らんて。
あとは、通信をどうにかしたい。タイムラグが1日生じる。さっさと各国から来た電信システム、卸してくれないかな。眺めてるだけじゃ何の役にも立たないんだから。こういう時、凄いもどかしい。もし手元に来ても、調所の天才たちが興味持たなかったら、自力でどうにか出来るだけの知識はない。まあいずれにしろ、肝心の発電どころか電気もない。アメリカ行った人たちが思案してるみたいだけど、そんなすぐには無理だろうな。
そうだ、アメリカといえば公使派遣の件はどうなったんだろ。咸臨丸はもう無理だけど。反射炉完成したら、一番最初に溶かすけど。あっ、そうか。海軍だ。これは勝様に投げよう。こういう時に通信機器あったら、やっぱり便利だ。将軍様との会議中に、急にケータイ鳴って慌てる勝様を想像すると、ちょっと面白い。各国の海軍事情も聞いてみよう。それから話をしても遅くはあるまい。
「勝様、学校作ったらどうですか?」
「学校?またか?ここがあるではないか。天才しか受け付ける気がない、知を独占したがる学校が」
「そんな嫌味しか言わないなら、帰ります。さようなら」
「待て、それくらいの嫌味言わせろ。ワシだって『優秀なヤツを推薦したのになぜだ?』と聞かれまくってるんだぞ!『天才じゃないから』なんて言えるわけないだろう!!」
「確かにそうですね。それはご愁傷様です。ですが、それを引き受けてこそのお役目なのでは?ま、そんなことより学校です」
「だからすでにあるではないか。別に作るのか?」
「別に作ります。目的が違います。海軍のための学校です」
「海軍?」
「はい。そもそもですよ、開国の際あれだけ揉めに揉めた原因の一つは、口先だけ『夷狄を討ち払え』とか、出来もしないこと言うだけの人がいたからではありませんか。国防です。たまたま今回は、相手が国交を結びに来たから国と国の友人になっただけです。ですが、中にはペリーのバカみたいに、威嚇するだけしまくるヤツが来るかもしれません。日本を侵略する目的で近づいて来る国があるかもしれません。国としての防衛手段を持つための、海軍です。個々の侍ではございません。武田騎馬隊のような、まとまった軍です。海の向こうから来た敵から、国を守るための軍隊です」
「その海軍のための学校というわけか?」
「そうです。例えば、横須賀あたりに海軍基地を置き、友好国だけは自由に行き来出来る。それ以外の国には、物理的な武で対抗できれば江戸の安全を守れると思いませんか?」
「なるほど。だが、人を集めるのがまた大変だな」
「そこです。軍隊に天才は無駄です。邪魔です。軍隊に必要なことは規律、優秀な人ほど長けています。作戦立案等には当然天才がいれば強いです。ですが、実際に命令に基づき動くことは、天才よりも優秀な人の方が向いています。ですので、前回、今回と残念ながら落とした人に声を掛ければ良いのでは?」
「なるほどな。他にも聞かせろ」
「はい。あとは横浜から近ければ近いほど、洋書調所並びに各国公使館から人を派遣しやすくなります。国際法、航海術、砲術など。公使館にいる外国人も元は海軍の人たち。そこでの訓練内容等も聞き、我が国流の軍学校を作れば良いのです。そして、それすらない状況でアメリカまで渡った咸臨丸と、その艦長の名はいつまでも残るでしょう」
「実に素晴らしい。国を守るための軍だな。それは絶対に必要だ。誰が何と言おうと必要不可欠だ。横須賀に置こう」
「あとは、優秀な次男三男を集めれば江戸に増えている浪人たちの行き場所を作れるかと」
「それまた素晴らしい。日本を守るためなんだな」
「はい。『国際法上問題ない範囲で』日本を守るためです」
勝手に外国船に喧嘩売って、やり返されてもこちらは動かない。動けない。そこは担保できた。あまりに過激なことを言う、やる連中は助けない。国際法という建前が印籠となり枷となる。優秀な人ほど動けない。
天才たちも付きっきりは嫌がるだろうけど、たまの講義くらいなら付き合ってくれるだろう。保身を考えるバカが上にいなければ、軍隊は機能する。目的は国防。こっちから行くのは伝えてない。甘いだろうけど、まずは専守防衛。そのための海軍。
あとは勝様が、自分の力で称えられる価値を海軍に見せれば良いよ。誰もなしてない渡米を果たした事実だけは本当なんだから。その高邁な自己顕示欲のために頑張れ!
自己顕示欲といえば、最近見ないあの人、今どこで何してるんだろ?どうしても暇な時にでも聞いてみるか。




