第498話 それは好きにしてください
「……そうですか。残念ですが、魔王が討伐されたことを認めるしかありませんね」
ヒルダさんがその事実を受け入れてくれるまで、数日かかってしまった。
「ですが、魔王を生み出していた邪神はまだこの世界に存在しているはず。これからは邪神討伐のために生きていくことにします」
「うん、それは好きにしてください」
彼女に魔王討伐は生きがいだったようだし、それを失って意気消沈するよりも、新しい生きがいがあった方がいいだろう。
邪神なんてどこにいるのかも、どうやって倒すのかも分からないけど。
「なんとなくこの村にいれば、いずれ邪神と邂逅できるときがくるような気がしています」
「縁起でもないこと言わないでよ!?」
「ですので、私もこの村に滞在させていただければ」
こうしてミランダさんの仲間がまた一人増えてしまった。
ただ、ヒルダさんは天然の変人ではあるけれど、ミランダさんたちと違ってあまりお酒は飲まないタイプっぽいのでよかった。
昼間からお酒を飲んでいる仲間たちを叱責していたくらいだしね。
「いえ、お酒は普通に好きですよ」
「好きなの!?」
「はい。ただ、夜しか飲みませんし、嗜む程度です」
「あ、それなら全然いいです」
昼間からお酒を酌み交わしている三人組とは天地の差だ。
「くくくっ、嗜む程度、ねぇ?」
ヒルダさんの言葉に、ミランダさんがなぜか意味深な笑みを浮かべて、
「まぁ、何にしても、せっかくこうしてかつての仲間たちが再び集まったんだ! 今夜は特別に祝杯と行こうぜ!」
「それなら飲むのは夜だけにしたらどうですか?」
「あ? 夜しか飲まねぇのはヒルダだけで十分だろ」
そうしてその日の夜、各地に封印されていた四人が、ミランダさんの居候部屋に集合した。
ヒルダさん以外は昼間からしこたま飲んでいるので、すでに顔が真っ赤だ。
「それでは、わたくしたちの再開を祝しまして……かんぱい!」
「「「かんぱーい!」」」
乾杯の合図とともに、酒瓶や樽をぶつけ合う四人。
グラスではまったく飲んだ気にならないからと、いつも酒瓶からそのまま飲んでいるのだ。
「いやヒルダさんも酒瓶なの!?」
嗜む程度って言ってたから、てっきりグラスかと思ってたのに……。
「お酒は酒瓶で飲むものでは?」
「あ、そういう認識でしたか」
確かにこのグループの中にいると、それが当たり前と思ってしまっても仕方ないだろう。
「ぐびぐびぐびぐびっ……」
「しかも凄い飲みっぷり!」
「た、確かにとても美味しいお酒ですね!」
「はっ、だから言っただろ? 毎日浴びるように飲んでも全然飽きねぇくらい美味いってよぉ」
「そこまで飲む気はありません」
ヒルダさんはきっぱり断り、再び酒瓶を煽る。
飲み方は豪快だけど、お酒に飲まれるようなこともなく、ちゃんと節度のある大人の態度を貫いている。
また前言撤回が必要かもしれない。
というのも、ヒルダさん、最初こそ慎ましやかに――ラッパ飲みだけど――飲んでいたものの、お酒が進むにつれてどんどんテンションが上がっていったのだ。
「いえええええええええええええええいっ! 悠久の時を越えてっ……私、ヒルダはっ……復活しましたあああああああああああっ!」
さっきまでと全然キャラが違う!
「ねぇねぇ、村長さんも飲みましょうよぉっ! えええええっ? この村ではお酒は十六歳からぁ? 大丈夫ですよぉっ、バレませんってぇ!」
ダル絡みまでしてくるんだけど!
「村長さんはどこからどう見ても十六歳より年上に見えますよぉっ……って、さすがにそれは無理があるうううううっ! むしろ十歳くらいにしか見えないですうううううっ! あはははははははははっ!」
殴っていいかな?
いいよね?
挙句の果てには、エミリナさんと「やきゅうけん」とやらを始めてしまった。
「「や~きゅ~う~、するな~ら~、こういう具合にしやしゃんせ~♪ アウト、セーフ、よよいのよい!」」
これはジャンケンをして負けた方が一枚ずつ服を脱いでいくという、どうしようもない大人たちの宴会芸だ。
「わたくしのまた勝ちですのぉ!」
「くぅっ、また負けましたぁ!」
そしてジャンケンに弱いのか、ヒルダさんは連戦連敗。
あっという間に下着姿になってしまう。
「さあ、本当の勝負はここからですよぉ!」
「いや終わりですよ! もう下着しか身に着けてないです!」
「負けなければいいんですよぉっ、負けなければぁっ!」
ダメだこの酔っ払い、もう完全に自制心が働いていない。
「ぎゃはははははっ! 見ての通り、こいつはオレたちの中で一番酒癖が悪ぃんだよ!」
「笑ってないで止めてください!」
「「よよいのよい!」」
「わたくしの勝ちですわぁ!」
「ぎゃあ! 負けましたぁっ!」
しかもあっさり負けてる!
「それぇっ!」
「何の躊躇もなく脱ぐなあああああああああっ!」
上半身裸になったヒルダさんは、片腕で胸を隠しつつ、
「まだまだ負けてませんよぉっ!」
「負けてますから! あと次も絶対に負けますよ!」
「「や~きゅ~う~、するな~ら~、こういう具合にしやしゃんせ~♪」」
「だからもうやるなってばあああああああああっ!」
「「アウト、セーフ、よよいのよい!」」
「勝ちですわぁ!」
「負けましたぁっ!」
案の定、またしても敗北を喫したヒルダさんは、ついに最後の一枚に手をかけ、生まれたままの姿になってしまったのだった。
「大解放おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「やめろ早く服を着ろおおおおおおおおおっ!!」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





