第494話 思考が完全に非常識のそれ
青いドラゴン幼女のことを、僕たちはスーノと呼ぶことにした。
氷系統の古竜で、城壁で防いじゃったけれど、そのブレスも極寒の猛吹雪を吐き出すというものらしい。
「もぐもぐもぐっ……どれもこれも、美味し過ぎるのだあああっ!」
りんご飴以外の村の食べ物を食べさせてあげると、スーノはすごく喜んでくれた。
「中でもこれは絶品なのだ! この独特な辛みも病みつきになりそうなのだ! 一体何という食べ物なのだっ!?」
「それはカレーライスだよ」
「カレーライスっ!」
中でもカレーライスが気に入ったらしい。
しかもかなり辛めのやつが好みのようで、汗を流しながらも嬉しそうに口の中へと掻き込んでいく。
「(くくく、こやつも人間たちの食べ物の虜になったようじゃな。これで万一のときは、こやつを差し出してわらわは逃げるとしよう)」
ドーラが邪悪な笑みを浮かべているけど、何か良からぬことでも企んでいるのだろうか。
こうしてスーノもまた村の料理にハマってしまったようで、頻繁に村を訪れるようになった。
「言われた通り、新鮮な魚介をたっぷり獲ってきたのだ!」
ドーラはいつも大山脈に棲息しているワイバーンを捕獲してきてくれるけれど、北方の海の近くに住んでいるというスーノには新鮮な魚介類をお願いしていたのだ。
さすがにタダ飯は許さないからね、タダ飯は。
「すごい、大漁だね! って、ほとんど魔物じゃない!?」
スーノが獲ってきてくれた魚がやけに大きいと思ったら、魔物のようだった。
魚だけでなく、巨大なカニの魔物やウニの魔物まで含まれている。
「む、何だ? こいつらではダメなのだ? 吾輩がよく海で捕まえて食べているやつらなのだが……」
「いや、でも、食べられるかもしれない。ちょっと村の料理人たちに聞いてみよう」
『料理』ギフトを持つ村一番の料理人、コークさんに確認してみた。
「恐らくどれも食べることができると思う! 冷たい海で獲れる魚は脂が乗りやすく、美味しいので期待できるぞ!」
コークさんの言う通り、スーノが持ってきてくれる魚はどれもこれも美味しくて、村で話題になった。
村のお寿司屋さんが奪い合うように求め、一気に価格が高騰してしまったほど。
もちろんカニやウニの魔物も絶品で、これを目当てに美食家が村に殺到した。
「ふふん、どうやら吾輩の食材の方が、お前のワイバーンなんかより上だったようなのだ! なんたってカレーにもよく合うのだ!」
それに気をよくしたのか、スーノがドーラを煽った。
ドーラもまた言い返す。
「何じゃと!? わらわのワイバーンだって、カレーによく合うのじゃ! それどころか、ハンバーグにしても美味いのじゃ!」
「吾輩の魚介だってハンバーグにできるのだ!」
自分の持ってきた食材を巡って、スーノとドーラが一触即発の雰囲気に。
ドラゴン同士の戦いが勃発してしまう前に、僕は言う。
「別に喧嘩してもいいけど、人間の姿のままにしてね? ドラゴンに戻っちゃうと、間違えて討伐されちゃうかもしれないよ」
「「ガクガクブルブル……わ、分かったのじゃ(だ)」」
結果、本当に幼女の姿のまま取っ組み合いを始めてしまった。
まぁこれなら周囲に被害もないし、放っておくとしよう。
「ぜぇぜぇ……わ、わらわの勝ちじゃ!」
「また負けたのだあああああっ!」
あ、ドーラが勝ってる。
「これでわらわの8勝0敗じゃな!」
「い、今のはノーカンなのだっ!」
「……という感じで、ドラゴンたちですら村のために貢献してくれてるんですよね。これを聞いて、タダ飯タダ酒タダ宿のミランダさんは、どのようにお考えですか?」
「だったらオレのパンツでもプレゼントしてやろうか? 一人で楽しむもよし! 村の男たちで楽しむもよし! あるいは競売にかけてやれば、あっという間に大金ゲットだぜ! ぎゃはははははっ!」
「むしろ処分料をいただきたいです」
誰がこの酔っ払いの汚いパンツなんて欲しがるものか。
「それならわたくしのおパンツを!」
「要りません」
「む? 何だ? 私のが欲しいのか」
「要りませんよ」
ミランダさんたち飲んだくれ三人組は相変わらずだった。
今日も今日とて昼間からタダ酒を浴びるように飲んで、べろべろに酔っ払っている。
まぁライカさんはたまに村の訓練場に顔を出して、胸を貸してくれているみたいなので、よしとしよう。
エミリナさんも一応、働く意志だけはあるので、ミランダさんと比べたらまだマシだ。
「それと気になってるんですけど、最後の一人はどこに封印されてるんですか?」
「何だ? もしかして、あいつの封印も解いてくれんのか?」
「逆です。絶対に封印を解きたくないので聞いてます」
どうせまた似たようなのが一人増えるだけなので、あらかじめ封印場所を聞いておいて、何があってもそこに近づかないようにしたいのだ。
「はっ、無駄だぜ、無駄。魔王復活と同時に封印が解けるようにしてあるからな。放っておいても遅かれ早かれ勝手に動き出しちまうぜ」
「え、マジですか……うーん、でも、目覚めてもこの村にさえ来なければ……」
「それでも構わねぇが、あいつはオレたちの中で最も常識しらずのトラブルメーカーだからな、放っておいたら何しでかすか分からねぇぜ?」
なにその嫌すぎる情報……。
「できれば回収しておいた方が良いと思うがなァ」
「ミランダさんに常識がないって言われるとか、どんだけなんですか」
「は? オレは常識人だろ?」
「タダ飯タダ酒タダ宿を当然のように考えている大人のどこが常識人ですか?」
「おいおい、オレはそういうことをやってはいけないと理解した上で、あえてやっているだけだぜ?」
「その思考が完全に非常識のそれです」
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