第492話 相手をしている暇などない
その青きドラゴンは、長きにわたって赤きドラゴンのことをライバル視していた。
どちらも長き年月を生きた古竜。
生息地が違うため、普段はまったく交わることがないが、それでも長く生きていれば邂逅を果たすこともある。
赤きドラゴンが暇潰しに世界各地を飛行していた際、たまたま青きドラゴンの縄張りに侵入してきたのがきっかけだった。
青きドラゴンは激怒し、赤きドラゴンをすぐさま追い払おうとした。
そこらの魔物であれば、古竜である青きドラゴンの姿を見るや否や、尻尾を撒いて一目散に逃げ出すのだが、その赤きドラゴンはあろうことか立ち向かってきた。
互いに古竜。
一歩も譲らぬ激しい戦いが勃発し、辺り一帯が焼き尽くされ、凍り付いた。
壮絶な戦闘の後、先に屈したのは青きドラゴンの方だった。
赤きドラゴンが勝ち名乗りのような咆哮を轟かせるのを、地面に伏して見ていた青きドラゴンは、あまりの屈辱に打ち震えながら復讐を誓ったのだった。
その後、負傷から回復した青きドラゴンは、赤きドラゴンの住処を探し回った。
ついに大山脈でその姿を見つけた青きドラゴンは、猛烈なブレスを浴びせながら赤きドラゴンに襲いかかる。
しかしその二度目の交戦で、またしても青きドラゴンは敗北を喫してしまう。
以来、青きドラゴンは、赤きドラゴンに戦いを挑んでは破れ続けてきた。
これまでに七度もやり合っているが、一度も勝てていないのだ。
にもかかわらず、青きドラゴンは再び赤きドラゴンのいる大山脈にやってきた。
百年ぶり八度目の挑戦である。
だがそこに赤きドラゴンの姿はなかった。
ドラゴンの優れた嗅覚で、青きドラゴンは赤きドラゴンの行方を追った。
やがて見つけたのは、ほんの百年前にはなかったはずの人間の都市だった。
そこで青きドラゴンは信じられない光景を目撃することになる。
終生のライバルと目する相手が、人間の村に飼い慣らされていたのである。
人化して無防備な姿を晒しながら、美味しそうに人間の食べ物を頬張る様は、まさに飼い犬そのものだ。
さらに念話で問い詰めると、
『見ての通り、わらわは料理を食べるのに忙しいのじゃ! お主の相手をしている暇などない!』
と一蹴されたのである。
許さない。
青きドラゴンの怒りは、人間の都市へと向いた。
人間の都市としては巨大なものだが、古竜にとっては蟻の巣と大差ない。
そのすべてを凍り付かせてやろうと、青きドラゴンは都市の上空を旋回しながら、ブレスを吐き出そうと大きく口を開けたのだった。
その口を塞ぐように、突如として建造物が出現した。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
◇ ◇ ◇
青いドラゴンがブレスを放ってこようとしたので、僕はその開いた口を塞ぐように城壁を出現させた。
〈城壁:城や都市を護るための強固な防御壁。防衛側の士気向上・攻撃側の士気低下。形状の選択が可能〉
ブレスが外に漏れないよう、口を完全に封じるように施設カスタマイズで形状も変化させる。
その結果、ブレスが体内に逆流したのか、青いドラゴンの全身から白い冷気が噴き出した。
青いドラゴンは城壁を噛み潰そうとしたけれど、施設グレードアップによって極限まで硬くしてあるため、いかに強力なドラゴンの咬合力といえ、砕くことはできない。
ならばと何とか城壁を吐き出そうとしたものの、僕は城壁をさらに大きくさせることで、顎から外れなくしてやった。
「~~~~ッ!? ~~~~ッ!? ~~~~ッ!?」
青いドラゴンが明らかに焦りを見せる中、僕は一緒にいたセレン、ドーラ、さらに異変を察して駆けつけたセリウスくん、フィリアさんと、公園に乗って三次元配置移動のスキルで空へと飛びあがった。
「あらぁん、ドーラちゃんかと思ったら、違う色のドラゴンねぇ♡」
「この村を……守る……」
「……といっても、すでに村長にブレスを封じられているようだし、そこまで緊迫した状況ではなさそうだ」
そこへ影武者たちがゴリちゃんやノエルくん、バルラットさんといった村の精鋭たちを連れてきてくれた。
「~~~~~~ッ!!」
青いドラゴンは口を塞がれながらも、怒りに突き動かされた様子でこちらへと躍りかかってくる。
ノエルくんが大盾を構えて迎え撃つ。
「シールドバッシュ!」
盾で受け止めるどころか、むしろ自分からドラゴンの頭部に盾をぶつけにいった。
ドオオオオオオオオンッ!!
轟音と共にノエルくんの大柄な身体が吹き飛ばされたけれど、同時にドラゴンの巨躯が止まる。
しかも頭部への攻撃が効いたのか、一瞬白目を剥いた。
「ッ!?」
すぐに意識を取り戻したドラゴンだけれど、そこへ複数の影が躍りかかってくる。
「残念ながら氷は効かなさそうね!」
「はあああっ!」
「どっせえええええいっ!」
セレン、セリウスくん、そしてゴリちゃんが一斉に攻撃を浴びせた。
さらに一瞬遅れて、フィリアさんの放った矢が硬い鱗に次々と突き刺さる。
「~~~~~~~~~~ッ!?」
青いドラゴンは声にならない絶叫を轟かせた。
「かなり弱ってきたね」
「村を襲おうとしたのが運の尽きね」
「……このドラゴン……食べれる……かな?」
ノエルくんは相変わらずドラゴンを食べようとしている。
青いからか、あまり美味しそうには見えないけどなぁ。
とそこへ、ドーラが慌てて割り込んできた。
「おい、お主っ! 悪いことは言わぬから、今すぐ降伏するのじゃ!」
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