第490話 もうちょっといい名前はなかったんですケド
この村にはダンジョンが存在している。
妖精のアリーがダンジョンマスターを務め、ドワーフたちが暮らしているダンジョンだ。
「今は何階層まであるんだっけ?」
「つい最近、八十階層まで拡張したんですケド!」
かつて見つけたときはたった二階層しか存在しない弱小ダンジョンだったけれど、現在はなんと八十階層にまで拡大していた。
移動するだけでも非常に時間がかかるため、十階層ごとにワープポイントが設置され、地上と簡単に行き来ができるようになっている。
ダンジョン自体がレベルアップしていくにつれ、そうした特殊な機能を設置できるようになるらしい。
「すごいね。そのうち百階層まで行きそう」
「時間の問題なんですケド!」
五階層ごとに雰囲気がガラリと変わることから、冒険者たちの間で『転変迷宮』と呼ばれ始め、その名前が定着し、今では公式にも使われるようになっている。
「もうちょっといい名前はなかったんですケド?」
ダンジョンマスターのアリー自身はあまり気にいってないみたいだけど、本人が出してきた案が『アリーの不思議なダンジョン』だったので、却下させてもらったのだ。
「じゃあ『かわいいアリーちゃんの楽しいダンジョン』はどうなんですケド!?」
「それもダメだね」
フロアごとに多様な素材やアイテムを入手できることから、今や世界中の冒険者たちがこのダンジョンに挑むために村を訪れているのだけれど、ダンジョンと目と鼻の先に冒険者ギルドや専用の宿泊施設もあるなど、その利便性でも冒険者たちに喜ばれていた。
つい最近、冒険者ギルドを管理している【安全防衛部】が発表したところによると、登録者数がなんと五千人を超えたそうだ。
うちの村の冒険者ギルドは、実績に応じて独自に冒険者パーティをランク付けしている。
駆け出しのEランクから始まり、D、C、B、Aとランクが上がっていく形だ。
最上位のAランクに位置づけられているパーティは、少し前まではアレクさんたちのパーティ『紅蓮』ただ一つだったけど、今では二十を超えるパーティがAランク認定されている。
「基本的に三十階層を突破できたら、Aランクっていう判定基準だからね。八十階層まであって、もう何パーティも余裕で三十階層を超えられるようになっちゃった今じゃ、さすがに低すぎるよね」
冒険者たちの実力のインフレが進んだ現在、いつまでもAランクが最高というわけにはいかない。
というわけで、冒険者ギルドと協議して、新しくAランクの上のランクを設けることになった。
「良いアイデアね! それじゃあ、Aランクの上にSランクを作りましょう!」
冒険者ギルドのトップであるギルドマスタ―を務めているのは、アマンダさんという女性なのだけれど、二つ返事だった。
かつてクランゼール帝国で活躍した元冒険者で、すでに年齢は五十歳を過ぎている。
だけど、今でも現役の冒険者たちに負けないくらい活力に溢れた人だ。
「認定基準は『転変迷宮』の五十階層突破! 今のところそれを満たしているのは……三パーティだけね!」
セレン率いる狩猟チームの面々も五十階層を突破しているけど、冒険者ではないため除外。
三つのパーティのうち一つは、もちろんアレクさんのパーティ『紅蓮』だ。
早くからこの村の冒険者として活躍していた彼らは、一時は狩猟チームに攻略記録を抜かれたけれど、再び抜き返して現在は六十階層にまで到達している。
「……俺たちがSランクに? そいつは光栄だな。とはいえ、俺ももう40だ。いつまで現役を続けられることか」
「最低でも50歳までは頑張ってもらわないと」
「ちょっ、そこまではさすがに持たねぇよ!」
二つ目はそんなアレクさんたちのパーティに並び、六十階層到達を記録した新進気鋭の冒険者パーティ『ヴァルキリーナイツ』。
メンバー五人全員が十代後半から二十代前半というかなり若いパーティで、しかも女性ばかり。
「わたくしたちがSランクですか。望外の栄誉ですね。これからも精進いたします」
容姿に優れたメンバーたちということもあって、アイドル的な人気も博している彼女たちのリーダー、ヒルドさんは『槍聖技』という、父上やラウルの持つ『剣聖技』に匹敵する強力なギフトを持っている。
そんな二つのパーティをも上回り、六十五階層突破という記録を持つのが、最後のSランク昇格パーティの『サンダーブラッド』だ。
彼らは年齢も男女も割とバラバラな七人組。
当然この全員がギフト持ちの実力者ばかりで、前衛後衛サポートのバランスも優れているという。
「え? Sランク? マジか。いや、確かに、この間の探索で、『転変迷宮』の最高到達記録を更新したって話は聞いていたが……」
そのリーダーであるルッツさんは、意外なことに戦闘には向かないギフト持ちだ。
『ワンルーム』というもので、これはいつどんな場所であっても、25平米程度の広さの亜空間に出入りができるらしい。
一時避難先としても、物資の保管先にも、安全な休憩先にも使えることから、ダンジョン探索に非常に役立つという。
さらにその亜空間内にはお風呂やトイレ、キッチンまであるのだとか。
唯一の欠点が、七人で同時に使うには狭くて不便な点らしいけれど……。
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