第489話 虫獲りって言ってたよ
うちの村の子供たちはとても元気だ。
村で生まれた子たちはまだ大きくても二~三歳くらいなので、大半は移住してきた子たちだけれど、村の環境がよかったのか、親御さんの多くが「この村に来てから毎日とても楽しそうにしているんです」と言ってくれている。
「そんちょーっ! こんど虫獲りに行くんだーっ!」
「おっきなカブトムシを見つけてやるよ!」
「私はクワガタムシを捕まえる!」
「へえ、楽しそうだね」
ある日、五歳くらいの子供たちのグループが、目をキラキラさせながら教えてくれた。
……あれ?
でも、村の中なのに〝虫取りに行く〟ってどういうことだろう?
一応村には虫が取れそうな場所がいくつかあった。
畑や公園、果樹園といった施設だ。
〈畑:良質な土の耕作地。作物の成長速度および品質アップ〉
〈公園:村人たちの憩いや遊びのための区域。村人たちの健康維持、愛村心アップ〉
〈果樹園:果樹を栽培するための農園。果樹や果実の成長速度および品質アップ〉
特に畑の一部は、ツリードラゴンたちの森になっていて、そこには色んな虫が集まってきているはずだ。
ただ、カブトムシやクワガタムシとなると、さすがに村で取るのは難しい気がする。
ツリードラゴンからは、カブトムシが好む樹液なんて出ないしね。
「えっと、どこに行くつもりの?」
僕が聞くと、
「「「「まきょーの森!」」」
とんでもない回答が返ってきた。
「魔境の森!? いやいやいや、危険だよ!? 魔物もいるんだから!」
「だいじょーぶ! セレンおねーちゃんたちが一緒だから!」
「あ、そうなんだ」
どうやらセレンたち狩猟チームが同行してくれるらしい。
狩猟チームは魔境の森でオークなどの魔物を狩る専門のチームなので、彼らがいるなら安全に虫取りができるだろう。
後で詳しく確認してみると、学校の教師がセレンにお願いし、それで実現することになったようだった。
子供たちは普段ずっと安全な村の中で生活しているため、たまにはそうした危険な場所を体験するのも、必要な経験だろうと考えたらしい。
そして虫取り当日。
「行ってくるわね」
「うん、子供たちが一緒なんだから、いつも以上に気を付けてね?」
狩猟チームは、第一部隊から第三部隊まであるけれど、今回はセレン率いる第一部隊だけの参加で、全部で十人強だ。
『剣士』のペルンさんや『巨人の腕力』のゴアテさんといった、初期からの村人もこの部隊のメンバーである。
「「「いっぱい獲るぞーっ!」」」
対してやる気満々の子供たちは、総勢五十人。
「って、多くない!? 子供の方が多いじゃん!」
「学校ってそういうものでしょ? そんなに心配しなくても大丈夫よ。……じゃあ、みんな今から森に行くわよ! 必ず事前に決めた班で固まって行動するように! いいわね!」
「「「はーいっ!」」」
僕の不安を一蹴し、セレンは子供たちを引き連れて村を出発してしまった。
昼過ぎに出発した虫取り隊は、夕方頃に村に戻ってきた。
どうやら僕の心配は杞憂だったみたいで、ちゃんと全員そろっている。
って、なんかおかしくない!?
「そんちょーっ! いっぱい獲れたよ!」
「カブトムシがたくさん!」
「とっても大きいよ!」
「クワガタも!」
嬉しそうに報告してくれるのはいいけれど、どう見てもその子供たちを凌駕するサイズの昆虫ばかりだった。
「大き過ぎるでしょおおおおおおおおおおおおっ!?」
ただのカブトムシやクワガタじゃない。
魔物だ。
「ビートルスレイヤーに、アーマードスタッグじゃん! 虫取りって言ってたよね!?」
「ううん? 虫獲りって言ってたよ?」
ビートルスレイヤーは巨大なカブトムシの魔物だ。
全長は二メートルほどで、強力な角を武器に突進してくる狂暴な魔物である。
一方、アーマードスタッグは巨大なクワガタムシの魔物。
こちらも全長二メートルほどで、防御力が高い上に、一度その大顎で獲物を捕らえると、二度と離さない凶悪さを持つ。
「ぼくたちが捕まえたんだ!」
「え、ぼくたちが? まさか」
「うん、めちゃくちゃに痛めつけてやったら、こいつら従順になるんだ! ほら、こんなふうに! はい、お手」
「……」
ビートルスレイヤーが前足を伸ばし、子供の手の上にぽんと乗せた。
「子供たちだけで倒したの!? しかも犬みたいに従順になってるし!?」
僕が驚愕していると、セレンが言う。
「私たちはちょっとサポートしただけよ」
「この村の子供たち、強くなり過ぎじゃない!?」
「みんな普段から激しく身体を動かして遊んでいるから、鍛えられてるのよ」
「魔物まで倒せるのは鍛えられてるってレベルじゃないから!」
当然まだ誰もギフトを授かってはいない。
以前からツリードラゴンの森で自由に遊び回って、子供離れした身体能力を身に着けているとは思っていたけど……。
「いや、それもあるけど、もしかして学校の体育館を、訓練場をカスタマイズして作ったから……?」
〈訓練場:武技や魔法などの訓練のための施設。成長速度アップ、怪我防止機能〉
……それだ。
訓練場を利用している普通の村人たちと同じように、この体育館で運動をすることで、子供たちがめちゃくちゃ強くなってしまったのだ。
「何にしてもこの子たちの将来が楽しみね」
「むしろ怖いくらいだよ!」
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