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電波的な俺氏

ブクマありがとうございますm(_ _)m

「あんな低級の魔獣すら屠れないなんて、魔法教師が聞いてあきれますね」

「はあ……」


 銀髪の少女は、そう吐き捨てた。俺はなにがなにやら分からず、生返事をするほかなかった。

 少女の足元には、先ほどまで俺を嬲り殺さんと吠えていたオーク(らしきもの)が、喉から口から血を流して息絶えていた。

 わりとグロテスク(R-15っぽい感じ)なその様相に吐き気を催したが、ここで吐いたら、さらに目の前の少女にわらわれそうな気がしたので、グッと我慢。

 喉奥までせりあがった異物を飲み込んでから、俺は少女に問う。


「すまん、その……ぜんぜんよく分からないんだが」

「なにがですか?」


 少女は苛立たしそうに問い返す。


「まさか記憶喪失になったとでも言わないですよね?」

「いや、マジでそれっぽい」

「……」


 ――そう、答えたときの少女の表情。

 ああ、人間ってこんな目ができるんだなあ、って思った。

 ちょっとM気質がある俺でも心が砕けちゃいそうな、そんな目だった。

 もうね、ヤバい、泣いて逃げようかと思ったもん。

 でもそれでは事態が好転しないので、涙をこらえてつづけた。


「そもそも、……ここ、どこなんだ? 東京? 千葉? 埼玉? ……っつーか関東だよね?」


 勢いに任せて他県まで原付を乗り回す可能性を考慮しての問いだが、……まさか国外ということはないだろう。

 たぶんチケットを購入してるあたりで我にかえる。バカらしくて。

 しかし少女の侮蔑の目は衰えない。


「……あの、人をおちょくるのいい加減にしてくれませんか」


 ……あ、なんか嫌な思い出がフラッシュバックした。

 そう、あれは大学生のとき、コンビニでバイトしていたときに高校生にミスを指摘されて言い訳してたときの感覚……!

 俺は瞬間、頭を抱えそうなほどの嫌悪感に苛まれていたが、いちいちショックを受けてたら話が進まないので、ここからドライに行こうと思います。


「ここがフォードの国って……それくらいは分かりますよね?」

「ふぉーっどって?」

「……はあ……」


 これ見よがしにため息をつかれた。

 やめろよもう、俺のチキンハートを抉るなよう。


「ここはフォードの国のアルマダという村……。その近辺の森です。位置的には北にあたりますね」

「へえー……」

「本当に知らないって顔ですね……」


 だって仕方ないじゃん。

 知らないんだもん。


「まったく、遊んでる場合じゃないんですよ」


 銀髪の少女は髪をかき上げる。

 よくよく見て気づいたが、彼女の身長は俺よりだいぶ低かった。

 それでも女性の中では平均的な部類に入るんだろうけど。

 髪はツーサイドアップにまとめられており、白の、軍服を模したようなドレスをまとっていた。ブレザーっていうんだっけ、あれ。

 膝の中央よりも短い竹の黒のスカートを翻し、少女は俺の先を歩く。


「早く来てください、子供たちが待っています。おいていきますよ」

「子供たち?」

「そうです、あなたには23人のご子息がいて皆が一様にあなたの帰りを待っているんです」

「マジで⁉」


 少女の言葉に、俺は驚愕した。

 ……俺、いつの間に子供作ってたんだ。

 え、ちょっと待って。

 ……ってことはなに?

 俺って……もしかして……。


「……なんて、嘘なんですけ――」

「魔法使いじゃなくなったのか‼」


 ヤベエ、知らなかった!

 まさか……まさか……!


 いつの間にか脱☆童貞してたなんて!


「……え、魔法使いじゃなくなったんですか? それはマズくないで――」

「え、え、じゃあなに、俺っていま婚約者いんの⁉」

「え、あの、その……」

「あ、ってことはなに、もしかして君が俺の奥さん⁉」

「はあ⁉ 脳みそんでんじゃないですか⁉」


 少女は鞘におさめた長剣の柄を握った。

 だが俺の興奮はおさまらない。


「え……マジかよ、やっべえ、俺ってばこんな美人な奥さんを……!」

「ちょ……なに勘違いしてやがるんですか。

 それに……、び、美人なんて……うれしくなくはないですけど……!」

「いやー、でも、ちょっと俺にはないわー。なんか暴力的っつーかトゲトゲしいし?」

「死にたいんですか? 死にたいんですね? 死なせてあげます!」

「だいいち君と俺じゃ年齢が釣り合わないし!」


 そう! 俺は34歳! 対して彼女は見た目ティーンエイジャー!

 こんなのが結婚したら即警察沙汰だろう! 訴訟不可避ってやつだ!

 だが少女はあいまいに口を曲げた。


「……年齢という面においては同等かと思われますが」

「は? え? こんなオッサンに?」

「あなたはうちの生徒ですか」

「え、それともなに、君ももしかして30台? 若作りしてる系?」

「私は身も心もピチピチの21歳です! あなたこそ、その見た目で30台は詐欺です! 特になんのメリットも無さそうですけど一応訂正します!

 あなたは私の一つ上、22歳の青年です!」

「はああああああああああ⁉ 嘘だあ‼」

「ふつう逆ですよね? なんで34歳にこだわろうとするんですか?」

「こだわるも何も俺ってばれっきとした34歳だもん! まあ実際に22歳だっていうんなら嬉しいけどね⁉ でも年齢詐称はマズいっしょー! ほら免許証にだってここに……。

 ……あれ?」


 俺はポケットをまさぐったが、そこで違和感に気づく。

 ……あれ、免許証持ってない。

 いつも携帯してるはずなのに。

 それに携帯といえば。愛用のスマホもない。それどころか、ふだんポケットに入れているものが軒並み紛失していた。

 ――代わりに。


 俺の腰には、一本の刀剣があった。


 日本刀だろうか、えらく長く、そして細身の刀がある。

 いよいよもってわけがわからない。

 みなさーん、ここに銃刀法違反野郎がいますよー。

 まあ目の前の女の子もロングソード(ゲームの中盤で手に入りそうな見た目)を背負ってるんだけどさ。

 少女は目を▽ ▽←こんな感じにして、それでも俺を見捨てず、携帯していたコンパクトな鏡を俺に向けた。


「これでも、あなたは34歳であると詐称するおつもりですか?」


 詐称もなにも……と言いかけた俺の口が、――あんぐりと開く。

 鏡の中の自分の姿を見て――俺は、絶句してしまった。


「……なにこれ……」


 そこに映っていたのは紛れもなく。


「……これ、俺じゃないよ」


 22歳の青年が、呆けた表情で俺を見ていた。


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