自由じゃなく気ままでもないスローライフ(2日目)
ブクマありがとうございます!
朝起きたら、枕元に妹がいた。
……それだけ聞けば、なんて羨ましいヤツ、と思うかもしれない。
が、俺はこの状況を素直に喜べない。
なぜかって? 理由は三つ。
まず一つ。彼女は本当の妹ではない。それどころか、義理の妹ですらない。
いや、なんか彼女がいうには「戸籍上は実妹」らしいが、実際のところ、血縁関係はない。
ない……と思う。分かんないけど。
なんでも「細かいことを伝えると、それだけで平均的な小説家になろうの小説の1話分使う」くらい込み入った事情らしいので、今回はとりあえず置いておく。
次、二つ目。
この妹、寝相が非常に悪い。
ベッドが一つしかなくて、仕方なく、二人で一つのベッドを使用しているのだが、まあ……なんというか、非常に狭い。
おまけに、妹はひっきりなしに寝返りを打ち、俺の鳩尾とか顔面とかを強襲してくる。
正直、部屋の外へ放り投げたいが、そうすると、二つ隣の同僚、シャーロットが俺の部屋にカチコミに来る。
妹、マーガレットは、俺が転生する前からシャーロットと交友関係を結んでいたようで、シャーロットはマーガレットのことを気に入っていた。
シャーロットさん、あなた騙されてますよ。
次、三つめ。
この妹、ド淫乱である。
……いや、そこ、羨ましいとか言わないで。
俺は真剣なんだから! 真剣に悩んでるんだから!
いや、この子、ホントマジでどうしようもない変態なの!
見た目は中学2年生くらいだが、実の齢は3桁を超えているらしい。
その性欲は歳を経るごとに増強していって、最近では男の匂いを嗅ぐだけで軽くイけるとか言ってた。
いや、まあ……その、ね? 俺だって期待しないわけではないよ? エッティなイベントとかね?
でもさ、ほら……アレじゃん、私たち兄弟じゃん……?
兄弟でそういうのとか……ダメだと思う……(エ○ゲの妹風)。
いやいや、据え膳ではなくて。
真面目に、ね、考えて? 後々引き起こされるであろう悪夢を。
ただでさえ、昨日赴任……というか、転生してきたばかりで、右も左も分からないのに、一時の欲望に負けて要らん問題を起こしたくない。
というわけで、運よく妹より先に起きた俺は、早々と身支度をし、さっさと学校へと向かうことにした。
☆
「……ああ、ウィル、おはようございます」
「おお、おはよう」
寝間着姿の俺は、同じく寝間着姿のシャーロットと、宿舎2階の廊下で鉢合わせをした。
私服が学生服みたいなキッチリした服であるぶん、こうやってゆったりとした寝間着を着ていると、胸が人並み以上に大きいことがよくわかった。
校長は昨日「シャーロットの3サイズは上からはちじゅ……モゴゴ」とかほざいてたが、あのクソ――幼女の言う通り、80センチ以上はあるように見えた。
「新しいベッドはいかがでしたか?」
「よく眠れなかったな……」
まあベッドのせいじゃないんだけどね。
妹のせいなんだけどね。
「そうですか? 教育機関から送ってもらったベッドなので、そこまで質が悪いことはないと思いますが……。ここに来る前はどんなベッドで寝ていたのですか?」
「地べたに直接布団を敷いてだな……」
「……???」
シャーロットは首を傾げ、不思議そうに俺の話を聞いていた。
やっぱり、元いた世界と異世界では、勝手が違うらしい。
そんな会話をしつつ、シャーロットと、外の洗面所へと向かった。
外の風は冷たく、肌寒い。
ちゃっちゃと洗って帰ろう。
「温水とか……出ないよね?」
「オンスイ……? あなたの国では温かい水が出るのですか?」
「出るよ? 最新式の魔法で」
「なんだか、あなたの国は、なにからなにまで便利で充実しているみたいですね……」
「まあ、このせか――国が不便に感じる程度にはなあ」
「だからあなたみたいな堕落した人間が生まれるんですね(笑)」
「ハッハッハ(白目)」
まあ、シャーロットの言う通り、今の俺は何から何まで不満を漏らす軟弱者にしか見えないんだろう。
しかし、元の世界の俺が死んでしまった(らしい)以上、この世界で生きていくしかない。
慣れていかなきゃな、この環境に。
……異世界って、そんなに素晴らしい場所じゃないですね。
☆
と、いうわけで、異世界転生2日目にして、ようやくまともな授業の開始日!
昨日は疲れていて、とても現状を喜べる状況じゃなかったが、今日は違う。
昨日の俺とは違って、今日は疲れてないし、今いる世界がなんたるかも分かったからな!
事態は引き返せない! 時計の針は元に戻せない!
ならば、現状をより良くしていくことに、価値を見出さなければ!
そうだろ、ルー○ウス! カ○マ!
というわけで、なんだかんだ憧れの異世界に来ていた俺は、若干、浮かれ気味のテンションで学校へとたどり着いた。
意気揚々としている俺を見ていたシャーロットは、微笑みながら俺に尋ねる。
「で、今日はどのような授業をするんですか?」
「え?」
……。
「……え、俺が授業すんの?」
「え、あの、別に私がしても構いませんが……せっかく赴任して最初の授業ですし、ウィルがやった方がよろしいかと……」
「……ここって、どんな授業してんの?」
「そうですね、主に行っているのは、3Rと呼ばれる『読み』『書き』『計算』ですね」
「ああ、それならできそう」
「そして、それらができた児童から、徐々に『地学』『政治学』を学び……」
「ふむふむ」
「あとは『魔法学』とか『魔法植物学』とか……」
「……ん、まほ……?」
「ええ、志ある児童には、魔法の扱い方や、世界の植物などの有効利用法などを教えたりするのですが……」
「……ごめん、俺、あんまり役に立てないかも」
「え? え⁉」
シャーロットが慌てふためく。
そりゃそうだろう。大学を卒業してきた教師がいきなり戦力外通告を自己申請してきたのだから。
やっべ、異世界に来たことに浮かれすぎてその辺りのこと考えてなかった。
「……あなた、大学でなにを学んでいたのですか……?」
「え、そ、その……生命科学とか……」
「生命科学ですか……? なら、この手の課題は得意でしょう?」
「スマン、正直寝てた。卒論もコピペで卒業した」
「呆れた……」
軽蔑の眼差しを送るシャーロット。
さすがに今回ばかりは俺も弁護のしようがなかった。
ドキドキ(喜)の学園生活が、ドキドキ(恐)の学園生活へと変わった瞬間だった。
そして、大した対策を思いつくこともなく、学校へとたどり着いてしまった。
まだ登校時間ではないので、児童の喧騒は聞こえてこない。
「ああ……おはよう……」
学校の玄関前では、青い顔をした校長が、弱弱しい笑みを送ってきた。
「……二日酔い、ですか、校長?」
「そうだよシャロたーん……、ちょっと飲みすぎ……おえっぷ」
「吐くのは構いませんが、児童が学校に登校するまでに掃除してくださいね」
「ちょ、ほん、ま……」
助けを求めるような視線を送る校長を尻目に、俺とシャーロットは学校の中へと入っていった。
インガオホーである。
☆
職員室(といっても、コンビニの事務所みたいな安っぽい作りだが)に、適当に荷物を置き、廊下を渡って教室へと入る。
扉を開けると、そこは雪国だった。
……。
……いや、待て、おかしくね?
なんで? 異世界だとこんなこともあるの?
と思ったが、隣のシャーロットも顔を青くしているのが見えたので、どうやら違うようだ。
「……すっかり忘れてました……」
「なにが?」
恐る恐る、シャーロットに尋ねる。
彼女は、気まずそうな顔をこちらに向けた。
「……昨日の生クリームですね……これ……」
「……」
……ああ、そういえばそんなこともあったね。
嫌な事件だったね。まだ首謀者が見つかってないんだろ?
まあ児童全体が共犯なのでそんなこと些末な問題だが。
先ほどまで冷静に俺を見下していたシャーロットは、露骨に慌て始めた。
「……ど、どうしましょう、ウィル……。これでは授業が再開できません……!」
「んー……!」
俺は考える。
目の前には、いちめんのなまくりーむ。
これらをどうにかしないと、授業が再開できない。
だが、ちょっと待ってほしい。
本当にそうだろうか?
「シャロ、これ……むしろチャンスじゃないか?」
「チャンス……? これをどう有効利用しようというのですか?」
「考えてもみてみろ」
俺はシャーロットに対し、指を一本立てて説明する。
「シャロ、まず確認しておきたいんだが、この学校の児童は掃除をしないんだよな?」
「ええ、そうですね……。私が再三注意しても、なおさら……」
「だから、この生クリームまみれの教室を、逆手にとるんだ……」
「……と、いうと……?」
困惑するシャーロットに、俺は説明する。
シャーロットは最初、「それはどうかと……」としり込みしていたが、最終的に、俺の作戦に乗ってくれることになった。
かくして、赴任2日目、波乱万丈な作戦が幕を開ける。




