勉強会をしよう
この日の始まりは次の言葉からだった。
「泊まりで勉強会? いわゆる合宿ってやつかぁ」
「そだよぉ、博くん。試験前にね、皆でお勉強会をするの」
少女は、内容を説明した。
「試験勉強なんか、授業聞いてさえいりゃ、普通に点取れるだろう。試験問題ってのは、そういう風に作っているもんなんだよ」
少年は、さしたる興味もなさげに応えた。それはそうだろう。彼は天才なのだから。
「いやいやいや、阿久津くん。あんたの普通は、普通じゃないから。時に天才少年、あんたには、今回の合宿の講師をお願いしたいんだが」
少年を相手にしても全く怯むことのないこの女生徒は、少女の友人の一人──由香里である。
「お前に頼まれたからって、俺がそんなことをしなくちゃならない義理なんて、ただの一つもないぞ」
少年は、少し顰めっ面をしていた。他人にモノを教えるのは、そもそもが学校の教師の役目のはずだ。今の自分のではない。
「おっとぉ、そう来たか。だからね、ここは、生美ちゃんを通して頼んでるんだけどな。さてさてぇ、この意味は分かるよねぇ」
由香里にそう言われて、仕方なく、少年はチラリと少女の方を一瞥した。
「ごめんねぇ、博くん。お仕事で忙しいのに、変なことを頼んじゃって」
済まなさそうに両手を合わせている少女の様子を見て、
「う〜ん、生美の頼みじゃぁ、断りきれないな。まぁ、いいか。そういうことなら、講師の件は引き受けよう。生美の頼みだからな」
さすがの少年も、少女の頼みとあれば、断ることが出来ない。ただし、由香里に折れているわけではないことを、最後に強調しておく。
「博くん、ホントにごめんねぇ」
自分が無理を頼んだことが彼の負担にならないか、少女は内心心配していた。
「ふぅ。ま、しゃぁないだろう。大学でも教えていたことあるしな。まっ、心配するな」
このやり取りを聞いて、由香里は<ニッ>と邪悪な笑みを浮かべていた。これで、交渉成立である。第一段階はクリアした。
「時に阿久津くん、君んちは凄い豪邸だと聞いているが、間違いはないかね」
「何だよ、いきなりそんなことを聞いてきて。……まさか、その合宿というのを、俺んちでするのかぁ?」
「正確には勉強会ね。しっかし、さすがは天才少年! 物分りが早くて助かるねぇ」
第二段階をクリアすべく、由香里は攻めに入っていた。
「でも、何で俺がそこまで面倒みなけりゃならないんだ?」
当然の疑問である。週末は、少女と二人だけで過ごせる大切な時間だ。それを、無粋な者共に台無しにされたくはなかったのだ。しかし、由香里は諦めていなかった。
「学究の徒としては、自宅で大騒ぎされるのは嫌だろうね。その気持は理解できるわさ。だがね、このお願いは『生美ちゃんを通して』頼んでいるのだよ。そこんところを理解してもらえると、非常に助かるのだが」
再び、少年は少女を一瞥した。両手を合わせて『ごめんなさい』をしている彼女がそこにいた。
「ごめんねぇ。わたしがこの前お泊りしたときの事を話したら、こうなっちゃったの」
本当に済まなさそうな少女の向こうに、ずる賢そうな笑みが見え隠れしている。
「フゥーム、しょうがないな。分かったよ。泊めてはやるけど、飯とかは自分達で調達しろよな。それと、俺のプライベートの領域には踏み込んでくるな」
そう言った後、少年は大きく嘆息した。
「判ってるって。さすが太っ腹、君は大物になれるよぉ。ハッハッハッハ」
既に大物の少年にこんな発言が出来る由香里も、ある意味大物と言えよう。そんな彼女にあからさまに嫌そうな表情を隠そうともせず、少年は質問した。
「そんで、何人くらい来るんだよ。いくら『豪邸』でも、許容量ってのがあるからな」
「え~と、ま、十人くらいかな、男女合わせてだけど」
一旦、天井を見上げて、由香里は答えた。
「そんなに来るのかよぉ。お前ら、いつから勉強好きになったんだぁ」
「決まってるじゃないの、学生の本分は勉強っすよ。ねっ、生美ちゃん」
「あ、あははは……」
訊かれた少女も苦笑いをしている。
「お前が言うと、ギャグにしかならんな」
少年は少々呆れ気味に返した。そして、また大きな溜息を吐いたあと、こう続けた。
「ま、しょうがないか。後でメンバー表を出しといてくれよ。講師を引き受けたからには、それなりに責任があるからな」
「了解了解」
「ごめんねぇー、博くん」
少女のこの言葉には弱い。『講師をやって俺のカッコいいところを見せてやろう』という気になってしまう。
(惚れた弱味かなぁ)
少年はつくづくそう思った。
その日の放課後、少年の下へメンバー表が届いた。
「ひい、ふう、みいの、……えっ、十五人も来るのかよ。増えてるじゃないか」
「まま、その辺は誤差の範囲と言うことで」
文句をつけた少年にも、由香里はあっけらかんとしていた。
「何が誤差の範囲だ。部屋割りを考えなおさなきゃならんじゃないか」
少年は無愛想にそう応えた。
(む、あいつ──間野も来るのか……)
リストを見ていて、少年は、あの転校生が来ることも知った。
(来るなら来るで結構。今度こそ、たっぷり調べ尽くしてやる)
「ごめんね、博くん。安請け合いしてたら、こんなになっちゃって」
少年が険しい顔をしているのを見てか、少女は本当に済まなさそうにしていた。
「生美の所為じゃないよ。それより、参ったなぁ。合宿のカリキュラムとか、考え直さにゃあ……」
「じゃ、わたしは、お食事の献立を考えるね」
紙切れを睨む少年に対して、一方の少女の方は、合宿を待ちわびているように見えた。
少年はカレンダーを眺めて、合宿を祝日の金曜を利用して二泊三日で行うことにした。金曜の昼過ぎに集合。その後、少年のマンションにて、日曜の昼過ぎまで勉強会を行うことにした。
内容はといえば、まずは最初に簡単な試験をして、各人のレベルを確認。次に、それぞれに合ったカリキュラムで自習をさせる。場合によっては、少年から詳しい説明もしよう。その後、再試験を行い、学力向上の様子を観る。この繰り返しの合間には、少年から今度の試験に出そうなヤマを講義する。
簡単な説明をしてスケジュール表を由香里に手渡したが、特に不満も出なかったので、これを敢行する事にした。尤も、NGを出されたとしても、変更する気は全くなかったのだが。
そして、あっという間に週末が訪れ、金曜となった。合宿の当日である。十数人の男女学生が、待合せ場所の公園に集合していた。
「お前ら、準備はしてきたか? 未だ来てないやつはいないよな」
迎えにやってきた少年が確認する。
「全員そろっているようだよ」
公園を見渡して、発起人らしき由香里から返事があった。
「ようし、それじゃあ、俺んちまで着いて来い。はぐれるなよ」
こうして合宿メンバー御一行様は、阿久津邸までぞろぞろと行進して行った。
少年は自宅のあるマンションに着くと、管理人にドアを開けるように命じた。
「かしこまりました。……今日は大勢ですね」
「ちょっとした野暮用だ。少しうるさくするが、勘弁してくれ」
「承知しました。では、エレベーターホールへの扉を開きます」
扉が開くと、少年と少女は、合宿に参加した級友達をエレベーターホールへ招き入れた。
「へぇ、すげぇなぁ」
「ホテルみたい」
友人達が賞賛するのを見て、少年も悪い気はしなかった。
「こっちだ。来いよ」
少年は、いつもとは別の貨物運搬用の第二エレベータの前に、皆を招いた。
《眼紋照合……掌紋照合……音声確認ヲシマス》
「俺だ、帰ったぞ」
《声紋確認……判定完了。オ帰リナサイマセ、ゴ主人サマ》
「貨物搬入用の大型エレベータの扉を開けろ」
《承知シマシタ》
ガコンと音がして、目の前の壁に大きな亀裂が走った。
「こっちだ。ちょっと汚いが、人数が多いんでな。勘弁してくれ」
一向は、物珍しそうにしながら、ガヤガヤと貨物用エレベータに乗り込んだ。
扉が閉まると、再び電子音がした。
《危険物ノちぇっくヲシマス……問題アリマセン。こんてな、りふとあっぷ開始シマス》
三十秒ほどすると、浮遊感と共に、再度電子音がした。
《到着シマシタ。扉ヲ開キマス》
再度、ガコンと音がして、扉が開いた。
「着いたぞ」
「すげぇな、AI式のセキュリティーだ」
「さすが、阿久津くんちは違うね」
などの称賛の言葉が、そちこちから聞こえてくる。
(驚いたか、凡人どもめ。今日からこってり絞ってやるぞ)
と、少年は悪魔のような笑みを内に秘めて、一団を引き連れて行った。
「ちょっとここで一時停止だ」
学生たちがざわめいたが、少年は気にせず、
「スキャンを開始しろ」
と一言命令した。
《了解、すきゃん開始シマス。……終了。百六十八個ノ送信機・受信機ヲ確認。内ノ十七個ハ、携帯電話・すまーとふぉんデス》
「携帯とスマホを除いて消去しろ」
《了解、消去シマス……終了シマシタ》
その瞬間、ピチピチと小さな音がして、金属の粉のような物が宙に舞った。
「何だよこれ」
「何? 気持ち悪い」
少女には見慣れた景色だったが、初めて経験した級友達は、口々に囁いていた。
「よーし、もういいぞ。コンピュータ、玄関の扉を開け」
《了解シマシタ。扉開キマス》
静かな音がして、ようやく玄関の扉が開いた。
「こっちだ。皆順番に入ってくれ。入ったら、奥の階段を上って、正面の部屋で待っててくれ」
「ここ──マンションの最上階の三フロアが、全部阿久津くんのだって」
「このマンションのオーナーらしいって」
「すげぇな、音声認識のコンピュータ管理だよ」
ざわざわと話す合宿メンバーが通されたのは、学校の教室くらいの大きさのある、セミナー室であった。
「皆、適当にその辺の席に座ってくれ。さぁて、早速今からテストをするぞ。点数によって、部屋割りが決まるからな。良い点取れれば、デラックスな個室。点数が悪ければ、雑魚寝の粗末な大部屋だ。判ったか」
「ええ~、聞いてないよぉ」
「講師を任されてるのは俺だ。ついでに場所も提供してるんだ。逆らう事は許さん」
少年は、そう言うと、問題用紙と解答用紙を各人に配っていった。
「問題は英語・数学・国語。回答はマークシート方式だ。鉛筆転がしてもいいから、とにかく答えを書け。まともな部屋で寝たかったら、本気出して良い点とれよ。時間はぁ、……今から二時間だ。さすがにそれくらいあれば、全問答えられるだろう。それじゃぁ、始め」
合宿の参加者達は、もっと楽しいものを望んでいたのだろう。だが、少年は、敢えて学習塾のような形式をとった。凡人共の期待に答えてやる義理なんぞ、一切なかった。
彼らが問題と悪戦苦闘している間、少年は時折、友人達の進み具合を確かめるように、机の間を歩いていた。
「おーし。そろそろ時間だ。解答用紙を回収するぞ」
そう言って、少年は、マークシートの解答用紙を受け取っていった。
「採点が終わるまで、少し休憩だ。部屋の一番後ろに飲み物のサーバーがあるから、勝手に使っていいぞ」
友人達は、「ああ、やっと終わった」とか、「どう? 良い点取れそう」とか、雑談をしていた。ある者は自分の持ち込んだお菓子を口にし、またある者は飲み物のサーバーからのお茶やジュースで喉を潤していた。
その間、少年は解答用紙を採点用のスキャナに喰わせていた。
しばらくして採点が終わると、少年は、各人に席に戻るように伝えた。
「採点が終わったぞ。今から名前を呼ぶから、呼ばれたらこっちに教材を取りに来い。……えーと、まずは鷺野。すごいな、300点中292点だ。個室決定」
そう言うと、少年は、前に出てきた鷺野に、IDカードと8インチくらいのタブレット端末を手渡した。
「おー、スゲエ。これ使っていいのか」
「そうだ。このタブレット端末に、各人に合ったカリキュラムの問題や例題が入っている。この端末は、持って帰っていいぞ。サービスだ」
「おー、さすが太っ腹」
実は、この端末には、少年が開発中の新型OSが搭載されていた。この機に乗じて、βテストをするのだ。慈善事業で終わるつもりはなかった。
「次、黒部。280点。お前も個室だな」
「おっしゃ、やりい」
少年は十五人の合宿メンバーに、次々にIDカードとタブレット端末を渡していった。
「楢崎、98点。残念ながら大部屋行きだな。この合宿で気張って成績アップすんだな」
「大部屋かぁ。残念」
「ま、取り敢えず、夕方まで各人に割り当てられた部屋で、一腹してろ。持ってきた荷物も置いとかにゃあならんしな。あーと、それからIDカードは失くすなよ。部屋に入れなくなるからな。そんじゃ、解散」
少年が一方的にそう宣言すると、級友達は、それぞれの部屋へと荷物を担いで行った。
その中で、一人だけ名前を呼ばれなかった少女が、少年の所にやって来た。
「わたしだけ呼ばれなかったんだけど、そんなに点数悪かったかなあ」
少年は、少女の分のタブレット端末を取り出して手渡すと、
「生美は300点中285点。何の問題もないぞ。それに、生美には自分の個室があるじゃないか」
「う~ん、それはそうなんだけど……。ちょっと特別扱いってゆうか、仲間はずれ的な何かがあって、もやもやするんだけどな」
「お前はメンバー登録してあるからな。もっとも、部屋に友達呼ぶとか、誰かと一緒の部屋にもぐりこむとかは、自由だけどな」
「そっか、その手があったか」
「それより、生美には夕食作りの陣頭指揮をとってもらいたいんだ。飯作ってる間、男子組は風呂掃除でもさせてるからさぁ」
「そだね。ここのお風呂って大きいよね。皆で入ると、きっと楽しいよね」
「そうだな。まぁ、初日だし、いきなりテストをやったから、今夜の勉強は勘弁してやるか。各人の部屋で自習と言う事にしよう。ちょっとはお楽しみ時間もないと、勉強にも力入らんからなぁ」
「うん、わかった」
「それと、今日の晩飯だが、ご飯にするのか?」
「うん。大勢だから、やっぱ定番のカレーかなって」
「そうか。業務用の五升炊きの炊飯釜を用意しといた。ここ、マンションだから、基本電気なんだ。でも、俺の試作した新型コンデンサ内蔵だから、ガス釜並みの美味い飯が炊けるぞ。今度は、米を買ってきてあるから、先にご飯だけ用意して欲しいんだけど、頼めるかな」
「うん、わかった。夕食、楽しく美味しくできるといいな」
「そうだな。生美には、その辺を仕切って欲しい」
「オッケー、任しといて」
「そうか。期待してるぞ」
「楽しい合宿にしようね」
そう言いながら、二人はセミナー室を後にした。
三十分ほど経ったころ、各部屋に放送が入った。
<さあ、休憩は終わりだ。皆で夕食の準備とかすっぞ。一旦、下のリビングに集まってくれ>
一同はそれを聞いて、のろのろと階段を降り始めた。指定されたリビングは、以前に少女が訪れた時よりも広くなっていた。連続した部屋の壁を一時的に取り除いて大部屋に改装したのである。
「皆集まったか? それじゃあ、夕食とかの準備の班分けをする。女子は夕食作りだ。男子組は、風呂掃除とテーブル運び。判ったな」
「は~い」
「じゃあ、女子達こっち来て。お料理の準備をするよ」
少女である。いつもは引っ込み思案な彼女ではあるが、少年の頼みと言う事もあって、張り切って陣頭指揮をしている。
「男どもは俺に着いて来い。まずは風呂掃除からだ」
「へーい」
気のない返事が聞こえてきた。
風呂場へ案内された男子達からは、口々に不満の言葉が吐き出されていた。
「何で、男子は風呂掃除なんだよ」
「しかも、でけぇよ。何で独り暮しで、こんな大きな風呂が要るんだよ」
「お、早速文句が出たな。よく考えてみろ。俺は、風呂に入る順番を、女子、男子の順にしてやろうと思っている。これがどんな意味か分かるか」
「分かんねぇよ。何で一番風呂じゃないんだ」
「お前ら、女子の後だぞ。つまりは、『彼女達の漬かったお湯に入れる』ということだ。うまくすると、髪の毛とかどこかの毛だかゲットできるかもなぁ」
少年はニヤニヤしながらこう応えた。
「それに、綺麗な風呂にしてやれば、女子への受けも良くなるぞ。どーだ。いい案だと思わないか?」
一瞬、いやらしい想像が、彼等の脳髄を駆け巡った。
「いや、やっぱり、こういう力仕事は、男子が率先してやるべきだよな。いやらしい意味じゃなく」
「そうだな、女子に先に風呂を使わせるのも、レディーファーストだよな。いやらしい意味じゃなく」
「そうそう、その通りだよ。いやらしい意味じゃなく」
「よし、それじゃあ、風呂掃除するぞ。いやらしい意味じゃなく」
口々にそう言うと、男子達は率先して風呂掃除を始めていた。
その頃、ダイニングでは、少女の指揮の下、カレー作りに奮闘していた。
「生美ちゃん、ナミダが、……ナミダが止まらなくって。助けてよ」
「玉葱はよく切れる包丁で、すばやく切らなきゃ。細胞を潰すと、催涙成分がたくさん出ちゃうよ。……貸して。玉葱はわたしが切るから」
「ジャガイモは、これくらいでいいかな?」
「あ、もう二~三個剥いてくれるかな? 皮を剥いたら、一口大に切って水にさらしといてね」
「鍋は二つ用意するんだったよね。甘口と辛口用」
「レタスは千切って水洗いしたら、水気をよくきっといてね。キュウリとかもきざんどこう」
「ドレッシングの方は、あたしがやるから、任せといて」
「男子達に、あたしらの飯が不味いなんて言わせないんだからね」
こちらの方も、妙に気合が入っていた。
そして夕食。テーブルは男子達で運んで並べた。
今夜のメニューは、ゴロゴロ野菜のビーフカレーと生野菜のサラダである。
「カレーは甘口と辛口と作ったから、辛いの苦手な人もだいじょぶだよ。サラダのドレッシングは、お好みで選んでね」
そして夕食が始まった。めいめい適当なところを選んで座ると、カレーとサラダに舌鼓を打っていた。
「こういうのいいよな。合宿ぽくって」
「カレー思ったより美味いな。おかわりしていいのか?」
「まだまだあるから、だいじょぶだよ」
皆、いつもより食が進んでいるようである。
食後は、皆で協力して後片付けと皿洗いをやった。皆、和やかな雰囲気であった。
「今日のところはここまでで、あとはフリータイムとする。風呂は交代で入ること。まず女子が先で、次が男子な。大風呂だから、いっぺんに入っても大丈夫だぞ」
「女の子の方が先でいいの?」
「ああ、レディーファーストだ」
「隠しカメラとか、仕掛けてないでしょうね」
「あったら、入る時のスキャンで壊されてるよ」
「そう……。じゃあ、お先に失礼しようかな」
「皆、行こいこ。ここのお風呂、凄く大きくて綺麗なんだよ」
「あ、そうか。生美ちゃんは、前に来たことがあるんだよね」
「なんか、楽しみだね」
女子達は、男子達の思惑も知らずに、先に風呂に入った。
その間、彼等は鼻の下を伸ばして、想像を膨らませていたのである。
しばらくすれば、男子のお風呂タイムになるだろう。合宿の一日目は、特に何の波乱もなく、終えようとしていた。あの転校生──間野も、妙な行動はとってはいない。
そして、今日も平和のまま一日が終わろうとしていた。人類はその絶滅へのタイムリミットを、更に一日延ばす事が出来たのだった。




