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命屋  作者: ringo
2/3

*daily life―日常―


――――

――――




「山下ー、今日残業替わってやー」


「……なんすか、また彼女?」



そこは、決して大きくはない、どこにでもあるような中小企業。


業績は、明日の心配をしなければならないほどではないが、数年後の見通しは立たない程度。



『白井商業』



俺はそこの入社二年目の従業員、山下隆也。


こんな小会社だから、なんとか首を繋ごうと、勤務時間外労働は日常茶飯事。


給料も、底辺ではないが、良くもないだろう。



「そ。うっかりしてたんだよね」


「じゃあしょうがないっすね」



仕事内容は営業事務。


主に食品を取り扱っている。



「え、いい「頑張ってください。俺今日用事あるんで」


「…え〜、いいじゃん、先輩のお願いなんだし」


「確か前回もそんなこと言って俺に押し付けましたよね。今回はまじ無理です」



で今は、一日の仕事を片付け、やっと終わったとちょうど席を立ったところ。



「……使えねー奴ー。まぁいいや…

あっおぃ、鹿嶋ー今日このあと用事あるー?」



(……懲りないやつ)



このひとは俺の三つ上の先輩。

悪い人じゃないけど何かと空気が読めない。


入社当時からなぜか気に入られて何かとかまってくるが、雑用なんかを押しつけてくる、正直面倒なひと。


今日なんかも、俺が残業わざわざ前日から断ってるの、知ってるはずなんだけど。


なんて思いながらも荷物をまとめ、周りに聞こえる程度の声で「お先でーす」と会釈する。



「おー」


「お疲れー」



怠そうな返事がまた、流すように返ってくる。



「そういえば山下ちゃん、明日から休みだよね。

何ー?恋人でもできた?」


「だったらいいんすけどねー、またいつもの手伝いですよ。今いろいろ大変なんで」



明日から俺は数日の間、母親の介護のため実家に戻る


ということになっている。


まだ社内にいた数人の仕事仲間に見送られて、六階建ての雑居ビルの五階からエレベーターで一階に降りた。



ロビーから外に出ると、むわっとした気持ちの悪い風が首筋を抜ける。


今年は猛暑らしく、まだ七月だというのにすでに日中の気温は30度を越えていた。



「ふぅ」



小さく息を吐いてから、家とは反対方向の街中に向かって歩きだす。



会社を出てから十五分ほど歩くと、こじんまりした駅に着く。


待合室にはプラスチックのベンチが置いてあり、壁ぎわには自販機が、ゴーと低い音を立てながら二台ほど並んでいた。


自販機横の券売機で切符を買い、そのままいつものおじいさん駅員に切符を切ってもらう。



ホームで十分ほど待つと、アナウンスと共に、各駅停車の電車が入ってきた。


数人のサラリーマンらしき男とともに車内に乗り込む。


時間が時間なだけに、車内はなかなか混んでいた。


学生、サラリーマン、OL、塾にでも行くのだろうか、四角いかばんを持った小学生。


それらのなかで俺は、暑苦しさに僅かに表情を曇らせながら扉の近くに居場所を確保する。



車内が混んでいたため、自然と目は夕暮れの窓の外を眺めていた。

始めのうちは小さめのアパートなどが立ち並ぶ通りが続き、暫くすると寂れた集合工場を抜けた。


このあたりは昔からほとんど変わらない。


工場の煙突の幾つかからはまだ灰色の煙があがっていて、体に悪いだろうな、などと考えながらも見ていて不思議と落ち着く。



暫くしてトンネルに入りこれも抜けると、電車は山代駅に止まった。


そこはここらでは割りと大きな駅で、ひとも一気に降りていく。


俺もその流れに身を任せて、泳ぐようにホームを出た。



始めはひとでごった返していた改札も、暫くたてばだいぶ落ち着きを見せる。


ひとが疎らになってきたあたりで、俺は地下のコインロッカーに向かった。


階段を下ると僅かに地上より薄暗くなっていく。自分の足音が、遠くから聞こえる電車の男に混じってカツカツと響いた。


開けた場所に出ると、比較的新しい、ドアの表面の部分が青く塗られているロッカーが、縦に三個、横に十二個。


これが向かい合わせに三列並んでいる。


俺は二列目の一番下の段、奥から二番目のロッカーに鍵を挿し、手慣れた手つきで中に入っていたボストンバックを取り出した。


そしてバックを横に置き、網棚の下の奥の面に軽く爪を立てる。


するとロッカーの内側と同色の薄い封筒が剥がれ落ちた。



はぁ……



ため息を吐くと、中身を確認することもなく鞄にその封筒を入れて肩に掛け、足早にその場を立ち去った。




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