始動
「まずは、拠点をどうにかするか」
集団で行動するうえで、目印になるような場所を共有しておくことは重要である。
関係性がない場合はなおさら、共通認識の目印は重要になる。
「とはいえ、足の確保が先決か」
訪れたのはジェイが運営している農場。
「遠すぎだろマジで」
郊外に位置するこの農場は、そもそも車で来る想定で作られているため、徒歩で三時間ほど坂道を登らなければならない。
額の汗をぬぐいながら、取りあえず豚たちに餌を与える。
「フゴッフゴッ」
「お前らは元気だね、いつも」
農場に来たのはもちろん豚に餌をあげるためだけではない。
ここには他の農場と同じように、農機具をしまって置ける掘っ立て小屋が立っている。
通常、こんな農場にある足になりそうなものと言えばトラクターくらいのものだが。
「こんな雨漏れのひどい場所で、シートをかぶせただけのずさんな管理で動くかね」
銀色のシートを被せられたモンスターエンジン。
シートから現れたのは、父の形見でもあるマッスルカー。
ワインレッドの車体に繊細なボディライン、そんな繊細さをぶち壊すむき出しのモンスターエンジンが前方に鎮座しており、助手席にはもう一つエンジンが搭載されている。
今では運転者の魔力を動力としても走行する車が普通だが、この車は魔石を動力エネルギーとして自走する、いわゆる旧型と言われる代物である。
形見としてもらい受けたものの、魔石を調達するのがあまりにも面倒だったジェイが無理やりもう一つのエンジンを載せて魔力での走行も可能になるように改造してある。
「相変わらず厳ついな」
ジノビリからかっぱらってきた魔石をエンジンにぶち込んで、往年のエンジンへ息吹を吹き込む。
―ブルンッ!!
「とんでもない馬力だな、豚共が興奮して騒いでるぞ」
掃除業を始めて長いこと世話になったこの農場も今後あまり訪れることは無いだろう。
「もしもし、うん。農場を売却したくて、一カ月後くらいかな。あと、デカめの建物があったら一つ見繕ってくれると助かる。ありがとう、リスト送っておいて」
当面の達成目標にはめどがついたところで、本題のノースレイグについて、本腰を入れて調査を進めることが出来る。
「二日間でぼんやりでもいいから全体像を掴めないと、しっぽまいて逃げる選択肢を作らざるを得ないからな。暫く寝れないかなぁ」
~二日後~
つい最近に爆破されたマンションから相当遠くない雑居ビルの地下。
本来、管理者用の仕事場プラス生活空間として設けられた空間。来客の可能性を考えて広めに設けられていた駐車スペースをぶち抜きでつなげることで、ビル一階分の大きさのスペースが確保されている。
「床もタイルも剥がされて、コンクリ打ちっ放しな点を除けばこれ以上ないってレベルの場所だな」
「そうでしょ、町の中心が近いからアクセスもいいし、拠点にするにはいいと思うわよ」
「そうだな、いくら?」
「そうねぇ、1億と言いたいところだけど、ジェイちゃんにはお世話になってるから7千でいいわよ」
「7か、入り口が一つしかなくて、入り込まれた瞬間に逃げられないけど7か。町の中心ってことは警察の本所も近いけど7か。アクセスがいいってことは相手方もアクセスがいいってことだけど7か」
「ほんと性格悪いわね、ジェイちゃんくらいよ私に対して値引き交渉してくるような人間は」
「俺はただ、適正価格で取引したいだけだよ」
「そうね、ジェイちゃんに免じで5でいいわよ」
「頭金は2で、後払いで3でもいい?」
「はぁ~、ふつうは一括しか受け付けてないのよ。まったく手間のかかる子ね」
「いつもありがとねボタちゃん」
「貸し一つで付けとくわ」
「良心的だね」
「ほんと感謝してほしいわ。じゃ、私は次の仕事に行ってくるから」
「ねじ込んでもらってありがと」
「色付けて返してくれると嬉しくてチューしにくるから、よろしくね~」
「ああ、善処するよ」
いたく騒がしいムキムキのおかまが、キラキラのオープンカーで投げキッスをしながら出ていく。
「まったく騒がしい奴だ」
椅子すらない広々とした空間を見ながら間取りを考えているとケータイが鳴った。
「こっちは用意できたけど、そっちはどう?」
「丁度、拠点の目途が付いた、住所を送るからそこで落ち合おう」
「了解」
数十分後ジノビリから再度電話が掛かってくる。
「まさか、ビル借りたんじゃねえだろうな」
「まあまあ落ち着け、今どこにいる」
「屋上の駐車場だ」
「わかった」
地下のエレベーターはすでに停止しており、一階まで階段を使って登ってからしかビル内にはアクセスすることが出来ない。
「おまたせ」
「どういうことだ、メールで送るなんてリテラシーの無い奴とは思ってなかったぞ」
「雑居ビルの住所を送って誰が拠点だと思うんだよ」
「それもそうだな」
「俺たちの拠点は下だ」
ビルの裏に回り、ビニールのシートで仕切られてた入り口を車に乗ったまま通過する。
「ここが今日から俺たちの家だ」
「すげ~広すぎ~」
「だいぶ奮発したからな。それで、お前の方は順調か?」
「おう、二人ほど見繕ってきた、お前の性格だと大人数は嫌だろうからな、少数精鋭って感じだ」
「なるほど」
「一人は現場に出てもらう担当だから、お前主体で判断してもらう。もう一人は、裏方向きだから、俺が見させてもらう」
「わかった、このビルの三階にカフェがある、そこでいいか?」
「オーケー。それで、お前の方は順調か?」
「こんなデカいとこを買ったんだ、そういう事だろ」




