襲撃
トラックを走らせてついたのは、いつも通りのホットドック屋ではなく。
「ここが本社の住所なんだがな」
目の前には何もない空き地が広がっている。
存在しない運送屋の社員の死体。
緊急の依頼に羽振りの良い報酬。
そして、俺の行動はなぜか監視されている。
「舐められたもんだな」
ここは、路地裏の狭いマンションの一室。風呂なし、トイレなし、キッチンなしの激安アパート、俺の住処だ。
壁を見つめる。
「俺を使い捨ての駒にするとは、高くつくぞ」
ライトを消すと部屋は闇に包まれる。
「兄貴!今日の終わりに一緒にクラブ行きましょうよ!!」
「仕事中だ集中しろ」
「そんな気をはらなくても、掃除屋の始末ですよ。人も殺せねぇ臆病者に何ができるんすか」
「そんなこと言っていると、いつか痛い目を見るぞ」
「ここっすね、路地裏の狭いマンション。風呂もトイレもねえ、住むとこじゃねえっすよこんなとこ」
「いくぞ」
錆びついた鉄の階段をのぼる。
「…四階、ここか」
「そうっす…」
スッと拳銃を構える。
「スリーカウントで合わせろ」
「3..2..1..go」
―バキッ!!
圧縮弾がドアノブごとロックを吹き飛ばす。
ドアを蹴破り突入する。
「誰もいねぇぞ」
「四階って書いてあったすよ」
「確認しろ、本当に四階か外に出たのを見ていないのか否か」
「わかりました」
もぬけの殻のとなった一室を見回す。
「確認したけどあってるっすよ」
「おい…」
「どこ行きやがったんだ」
「おい!!」
「なんすか!?」
「なんだこれ」
月明りに照らされた壁に目を奪われる。
「なんすか、これ」
「どんな変態だよ」
壁に張り出されたリベルの地図には勢力図と権力者の人物相関図、主要会社情報から犯罪組織のリストが書き溜められている。
「これの付箋、全部書き込まれてるっすよ」
「まじかよ」
壁を埋め尽くすように張られた付箋の一つ一つには。
・第七地区 火木 夜間工事
・ユニオン運送 新人三人(男2女1)
・ホテルラクーン 裏口ダミーカメラ
・リベル南署 交代22:00
「しょうもない内容だが、量が量なだけに…」
「兄貴、これ」
そう言って手渡された付箋には十年前の日付が書かれている。
「何年溜め込んでいたんだ、こいつ…」
「どうします兄貴」
「…一応、写真撮っとけ」
「わかりました」
なぜ、俺たちにここまで全部見せたんだ?
分かっていたなら、付箋を剥がすことくらいできたはずだ。見たところ、何かを処理した形跡は全く見られない。
なぜだ・・・
―ピッピ
「!?」
「逃げろ!!」
思わず耳を塞いでしまう爆音が一帯を埋め尽くす。
「あれ、やりすぎてないか?」
周囲を巻き込みながら爆散した元住処を見ながら、呑気にホットドックを食べる。
「確かに、塵一つ残らないようにって言ったけど」
―プルルル
「もしもし、うん、良い感じだよ。ん?大丈夫だよ全部覚えてるから。じゃあまた、いつものとこで」
ホットドックをコーヒーで流し込み、行動を開始する。
翌朝、集合場所に設定した例の空き地へ赴いていた。
「はぁ~、眠い」
しばらく待っていると、昨日の夜に住処と一緒に爆散した愛車の色違いが音を立てながら近づいてくる。
「遅すぎるだろ、あのトラック」
おんぼろのトラックがジェイの横で停車する。
「うぃ~おつかれ」
「遅すぎない?お前寝てただろ」
「そらぁ、あんな夜遅くまで作業してたら寝るに決まってんだろ」
ボロボロの作業着にくるくるの天然パーマを携えたこの男は、ジェイの古くからの友人であり、元魔石加工の研究者ジノビリである。
「そんなことより、昨日は助かった」
「まあ、困ったときはお互い様だ」
そう言ってがっちり握手を交わす。
「昨日の大爆発はどうやったんだ?」
「簡単な話だ、魔石をいじって暴走させたらああなる」
「魔石であんなになるのか、マンションが半分くらい吹き飛んでたぞ」
「そらぁ、エネルギーの塊だからな。外的からの刺激には強いが内側を刺激してやるとドミノが倒れていくように崩壊する。そうすると昨日みたいになる」
「なんか簡単そうに言ってるけど、実際はとんでもない技術だろ」
「まあ、爆発させること自体は難しくないけど、意図的に時間を指定して爆発させるのは簡単ではないね」
「なるほどね。まあ、俺には縁のない話だ」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それより、お前が直接俺を呼び出すなんて、何か話があるんだろ」
「そうだな、ここで話すのもなんだしトラック乗せてくれよ」
「もとよりそのつもりだよ」
おんぼろのトラックが走り出す。
「それで?」
「おととい緊急依頼が入った、緊急とはいえあまりにも羽振りが良かったんだが、死体の数が多いんだろうくらいに考えて受けたんだが、それが全ての引き金だった」
「ほぅ」
「現場に着いたら死体は一つだった、しかもこっち側の人間でもなかった。見つかれば警察も動かざるを得なくなるし、手練れの俺に連絡が来るのも報酬が高いのも納得だったんだが、部屋を探索すると妙なものを見つけた『ノースレイグ魔石輸送会社』と書かれた名刺だ」
「なんだ?聞いたことねぇな」
「その通り、さっきの空き地はノースレイグ社の本社の住所だ」
「マジかよ!?」
「俺が始末の対象になったのも、変に嗅ぎまわったからだろう」
「それで俺に連絡してきたのか」
「念には念をってことだな」
「それで、なんで俺が呼び出されたんだ?」
「本題はここからだ、わざわざ俺を殺す意味があるか?」
「ウザかったんだろ」
「まあ、それはそうだろうけど。掃除屋を意図的に殺すことの意味を分かっているのかって話だ」
「他の掃除屋はつるまなくなるだろうな、一部のトンチキ以外は」
「そう、掃除屋に手を掛けるというイメージが付けば、掃除屋が近寄らないのは当たり前、誰だって自分の命が大切だ」
「ってことは」
「そう、俺に依頼してくるんだから、これくらいのことは分かっているという前提のもと。このリスクを取っても有り余るリターンがあるということになる」
「やる気か?」
「あぁ、チャンスが転がって来たのかもしれない」
「それで?状況はわかったが、これからどうするんだ?」
「なんにしても情報が足りないし、住処も吹き飛んだからな、取りあえずは自由に動くつもりだが、拠点は設けておきたい」
「候補はあるのか?」
「目星は付けてある。それと、お前にはやってもらいたいことがある」
「なんだ?」
「使える奴を何人か見繕ってくれ」
「何に使うんだ?」
「まだ確定はしてないが、二人で対処できるレベルのヤマじゃない気がする」
「なるほどね」
「三日後に成果報告会をしよう、それまでに拠点の位置は共有しておく」
「了解」
「では、健闘を祈る」
「うい」
フガフガと音を立てているトラックを見送り、行動を開始する。
道草を食っている余裕はない。
何かが動き出す前に、こちら準備を進めておかなければならない。
「まずは、拠点をどうにかするか」




