第4話♪匂いは正義♪
「……はぁ。昨日のドラゴン戦の疲れも残ってるのに、パサパサの干し肉で腹を満たすのって地味に精神に来るわね……」
「わかるわ……。冒険中の飯なんて味のない干し肉か硬いパンばかりだしさ。胃は重くなるし、体型も気になるしで、マジでストレス溜まるんだよなぁ……」
木漏れ日が差し込む東の森への道中、桜子さんとアーシェスさんが重い足取りで肩を落としていた。
過酷な連戦と長距離移動、そして味気ない移動食による『慢性的な胃腸の疲れと食のストレス』。それが長年第一線で戦ってきた彼女たちの切実な悩みだ。
「みなさん、大丈夫ですか? 僕、お腹に優しい温かい野草茶を水筒に入れてきたので、飲みながら行きましょう!」
「サン……! 優しい……! っていうか、その大きなリュック重くない? 私が持とうか?」
「へいきです! 全然重くないですよ!むだにレベル87で高いので♪」
僕が笑顔でリュックを軽々と背負い直した、その時だった。
「「「グォォォォォォンッ!!」」」
突如、森の奥から地鳴りのような咆哮が響き渡った。
木々をなぎ倒して現れたのは、丸太のように太い牙を持った巨大な『暴れ猪』の群れだ!
「ひやあぁぁぁっ!?」
さすがにビビった僕は、とっさに桜子さんたちの後ろへ隠れる。
「サンよく戦闘みてなさい!全員、一瞬で片付けるわ!」
「おうよ! 極上のお肉ちゃん、ゲットだぜぇ!」
桜子さんの刀が一閃し、アーシェスさんの矢が空を穿つ。エリリカさんの魔法とディードさんの支援が完璧に噛み合い――ほんの数秒で、暴れ猪たちは一頭残らず倒された。
「すごーい……! 本物の戦闘だぁ……!」
「ふふ、これくらい朝飯前よ! さあサン、極上の肉が手に入ったわ!」
◇
安全な開けた河原に移動し、さっそく準備に取りかかる。
サン特製、野外BBQの開幕だ!
「手帳に書いてあった『特製生姜醤油タレ』です! 醤油とみりん、お酒に、すりおろした生姜と蜂蜜、隠し味にりんごの絞り汁を混ぜておきました!」
切り分けた大ぶりの極上肉を特製タレにたっぷりと潜らせ、熾火になった炭火の網の上へ並べる。
――ジュゥゥゥゥウ……! パチパチッ!
「「「「う、うわあぁぁぁぁ……!!」」」」
甘辛いタレが炭火に落ちて、たまらない香ばしい煙が立ち上る。
肉汁が表面にじわじわとあふれ出し、焦げ目のついたタレの匂いが鼻腔を激しく刺激した。
「やばい……匂いだけでやられる……!匂いの暴力だな♪」
「タレの焦げた匂いと生姜の香りが……理性を狂わせるわね……!」
肉が良い色に焼き上がった。
「はいどうぞ! サン特製『野外BBQ・極上タレ焼き肉』です!」
アーシェスさんが待ちきれない様子で、フーフーと息を吹きかけ、大きな肉塊を口一杯に頬張った。
「あむっ……――ッ!?? ッッんんんんんん美味ぇぇぇぇえええええっ!!?」
「アーシェス!?」
「なんだこれぇぇぇ!? 噛んだ瞬間に香ばしいタレの旨味と甘い脂がジュワ〜って弾ける! 生姜とりんご!?のおかげで全然脂が重くない! 胃にズシッと来ないでナンボでも食えるぞこれ!!」
体型維持と食欲の葛藤に悩んでいたアーシェスさんが、涙目になりながら次々と肉を口へ放り込んでいく。
桜子さんもハフハフと熱々の肉を口にし、うっとりと目を細めた。
「あたたかい……。戦闘後こんなに美味しいお肉を食べれるなんて……クエスト中なのを全部吹き飛んでいくわ……」
「……絶品。サンの肉、すぐ……おかわり……くれ」
ディードさんも両手に肉を持ってモグモグと幸せそうに頬張っている。
みんなの心が、僕の無自覚な疲労浄化オーラと極上肉によって、みるみるうちに解きほぐされていくのが分かった。
「ふふ、外で食べるご飯って美味しいですよね! 温かいお茶もどうぞ!」
「「「あぁぁ〜〜〜……生き返るぅぅ……」」」
青空の下、お腹いっぱいお肉を食べたお姉さんたちは、僕の周りでゴロゴロと幸せそうに横になるのだった。




