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ごえい

『廻天』


第五話 一週間


レンの護衛が始まって。


三日目。


午前十一時。


カイは。


普通に働いていた。


「じゃあ、肩から見ていきますね」


「お願いします」


客。


うつ伏せ。


カイ。


背中へ手を置く。


「……。」


最近。


少し。


変だった。


前から。


触れば分かった。


硬い場所。


張っている場所。


熱。


呼吸。


それくらい。


でも。


昨日くらいから。


違う。


「……。」


カイ。


目を閉じる。


肩。


首。


背中。


腰。


身体の中を。


何かが流れている。


血。


ではない。


もっと。


曖昧なもの。


「……ここ?」


指。


少し。


動かす。


『違う。』


シュウ。


(どこ。)


『もう少し下だ。』


(ここ?)


『そこだ。』


押す。


客。


「あぁ……!」


身体。


力。


抜ける。


カイ。


「……。」


今。


何か。


動いた。


筋肉が緩んだ。


だけじゃない。


奥。


何かが。


流れた。


「……。」


カイ。


もう一度。


触れる。


『カイ。』


(何。)


『今の。』


シュウも。


気づいた。


(うん。)


『お前がやったのか。』


(知らない。)


『もう一度やれ。』


(仕事中。)


『だからだ。』


カイ。


「……。」


客。


「どうしました?」


「あ、すみません」


カイ。


笑う。


「ちょっと集中してました」


⸻


店外。


レン。


壁。


寄りかかっている。


スマホ。


見る。


十一時十二分。


「……。」


暇。


とにかく。


暇。


護衛。


三日目。


異常なし。


一日目。


異常なし。


二日目。


異常なし。


三日目。


今のところ。


異常なし。


レン。


ため息。


「俺、何やってんだろ。」


通行人。


見る。


レン。


私服。


壁。


立っている。


一時間。


完全に。


不審者。


⸻


十二時。


ドア。


開く。


客。


出る。


「ありがとうございました!」


「またお願いします」


カイ。


見送る。


レン。


入る。


「異常は。」


「ない。」


「体調。」


「普通。」


「シュウ。」


「いる。」


『いる。』


「いるって。」


レン。


「直接聞こえねぇの面倒だな。」


カイ。


「俺もレンの頭の中聞こえないよ。」


「それが普通なんだよ。」


⸻


カイ。


レンを見る。


「肩どう?」


「……。」


「どう?」


「普通。」


「軽い?」


「普通。」


「またやる?」


「いらん。」


カイ。


予約表。


見る。


「今日十二時半から空いてるよ。」


「いらん。」


「三十分。」


「いらん。」


「無料。」


レン。


「……。」


『落ちたな。』


シュウ。


「落ちたね。」


レン。


「何がだ。」


⸻


十二時三十二分。


レン。


うつ伏せ。


「三十分だけだからな。」


「はいはい。」


「あと今日は痛くするな。」


「善処します。」


「怖ぇよ。」


カイ。


背中。


触る。


「……。」


レン。


筋肉。


硬い。


普通の客とは違う。


鍛えている。


傷も多い。


そして。


「……。」


カイ。


手。


止まる。


レン。


「何だ。」


「レン。」


「何。」


「ここ。」


肩甲骨。


内側。


「変。」


「傷だろ。」


「違う。」


カイ。


目。


閉じる。


見える。


いや。


まだ。


見えてはいない。


でも。


分かる。


レンの身体の中。


何か。


流れている。


その流れが。


右肩。


一ヶ所。


細くなっている。


「……。」


『カイ。』


シュウ。


声。


真剣。


『触れたままにしろ。』


(なんで。)


『いいから。』


カイ。


手。


置く。


シュウ。


内側から。


集中。


『流れを感じろ。』


(何の。)


『知らん。』


(知らんのかい。)


『だが、ある。』


カイ。


呼吸。


合わせる。


レンの呼吸。


吸う。


吐く。


吸う。


吐く。


「……。」


何か。


ある。


右肩へ向かって。


流れている。


途中。


絡まっている。


カイ。


無意識。


指。


動かす。


少し。


押す。


そして。


流す。


「……!」


レン。


目。


開く。


カイ。


手。


離す。


「今。」


レン。


起きる。


「何した。」


「……分かんない。」


「嘘つけ。」


「本当に。」


レン。


右腕。


見る。


握る。


開く。


肩。


回す。


「……。」


違う。


軽くなった。


そんな程度じゃない。


レン。


立つ。


「カイ。」


「何。」


「ちょっと離れろ。」


「なんで。」


「いいから。」


レン。


右手。


構える。


刀。


ない。


だから。


指。


二本。


振る。


ヒュン。


空気。


裂ける。


カイ。


髪。


揺れる。


「……。」


レン。


固まる。


「今の。」


「何。」


レン。


自分の右手を見る。


「いつもより出力が高い。」


カイ。


「……。」


シュウ。


内側。


『なるほど。』


カイ。


(何が。)


『お前。』


一拍。


『ほぐしているだけではないかもしれん。』


⸻


翌日。


四日目。


午前九時。


店の前。


レン。


いない。


代わりに。


女。


立っている。


カイ。


「……。」


女。


「……。」


カイ。


店。


見る。


女。


見る。


もう一度。


店。


見る。


「予約ですか?」


女。


「違います。」


「じゃあ十時からなら。」


「違います。」


「営業?」


「違います。」


「宗教?」


「違います。」


女。


眉。


僅かに動く。


「レンの交代です。」


カイ。


「……。」


女。


「澪です。」


「……。」


カイ。


「レン、女の子になった?」


「違います。」


⸻


店内。


カイ。


お茶。


出す。


澪。


座る。


「ありがとうございます。」


カイ。


向かい。


座る。


「レンは?」


「別件です。」


「死んだ?」


「生きてます。」


「よかった。」


澪。


カイを見る。


じっと。


見る。


「……。」


カイ。


「何。」


「あなたがカイ。」


「はい。」


「内部に旧世人格。」


「シュウ。」


『誰だ。』


「澪って人。」


『美人か。』


カイ。


澪を見る。


「まあ。」


澪。


「何がですか。」


「シュウが美人かって。」


澪。


「……。」


数秒。


沈黙。


「旧世人格、消していいですか?」


カイ。


「怖。」


『怖い女だな。』


「怖い女だって。」


澪。


「聞こえないのをいいことに好き勝手言いますね。」


『聞こえないからな。』


カイ。


「聞こえないからって。」


澪。


「通訳しなくていいです。」


⸻


澪。


護衛。


非常に。


優秀。


静か。


周囲。


よく見ている。


余計なこと。


言わない。


カイ。


施術。


澪。


外。


待つ。


完璧。


一時間後。


カイ。


ドア。


開ける。


「澪。」


「はい。」


「暇?」


「任務中です。」


「肩凝ってない?」


「凝ってません。」


「無料。」


「結構です。」


「十分。」


「結構です。」


「レンはやったよ。」


澪。


止まる。


「……レンが?」


「うん。」


「自分から?」


「無料って言ったら。」


澪。


「……。」


カイ。


「やる?」


澪。


「二十分。」


「増えた。」


⸻


施術。


澪。


うつ伏せ。


カイ。


背中。


触る。


「……。」


レンとは。


違う。


細い。


柔らかい。


だが。


奥。


異常に。


張っている。


「澪。」


「はい。」


「寝てる?」


「寝ています。」


「何時間。」


「四時間程度。」


「寝てないじゃん。」


「十分です。」


「十分じゃない。」


『左の首。』


シュウ。


(分かってる。)


『腰もだ。』


(分かってる。)


『あと――』


(うるさい。)


シュウ。


黙る。


一拍。


『成長したな。』


(エステ歴長いから。)


⸻


カイ。


首。


触れる。


また。


感じる。


流れ。


レンより。


細い。


でも。


複雑。


カイ。


「……。」


指。


動かす。


絡まり。


一つ。


ほどく。


澪。


「……!」


目。


開く。


「今。」


「何。」


澪。


起きる。


手。


見る。


「……。」


指先。


微かな。


銀色。


光。


カイ。


「光ってる。」


澪。


「いつもより強い。」


シュウ。


『やはりな。』


カイ。


(俺?)


『おそらく。』


(エステで?)


『エステで。』


カイ。


「……。」


澪。


「どうしました。」


カイ。


真剣。


「値上げしようかな。」


「そこですか?」


⸻


五日目。


レン。


六日目。


澪。


七日目。


レン。


何も。


起こらない。


敵。


来ない。


尾行。


なし。


不審な異能反応。


なし。


そして。


七日目。


夜。


店。


閉店。


レン。


壁。


寄りかかる。


「一週間。」


カイ。


鍵。


閉める。


「うん。」


「何もなかった。」


「平和だったね。」


「上も警戒レベルを下げる。」


「上?」


「こっちの話。」


レン。


歩き出す。


カイ。


隣。


「じゃあ明日も来る?」


「来ねぇよ。」


カイ。


止まる。


「え。」


「護衛終了。」


「……。」


カイ。


少し。


考える。


「やっとかー。」


レン。


止まる。


「お前。」


「何。」


「もうちょっと寂しがれよ。」


「毎日いたじゃん。」


「だからだろ!」


「エステ来れば。」


「行かねぇ。」


「来週予約入ってるよ。」


「消せ!」


⸻


駅前。


レン。


反対方向。


「じゃあな。」


カイ。


「うん。」


レン。


数歩。


歩く。


止まる。


振り返る。


「カイ。」


「何。」


「何かあったら。」


カイ。


「連絡する。」


「すぐだぞ。」


「はいはい。」


「シュウにも言っとけ。」


『余計なお世話だ。』


カイ。


「余計なお世話だって。」


レン。


「やっぱお前ら嫌いだわ。」


カイ。


笑う。


「またね。」


レン。


「……ああ。」


別れる。


⸻


一人。


久しぶり。


カイ。


歩く。


「静かになったね。」


『俺はいるぞ。』


「知ってる。」


『寂しいか。』


「別に。」


『そうか。』


「シュウは?」


『別に。』


「レンのこと好きじゃん。」


『違う。』


「澪は?」


沈黙。


「美人って言ってたよね。」


『黙れ。』


カイ。


笑う。


角。


曲がる。


その時。


足。


止まる。


「……。」


誰か。


いる。


街灯。


下。


一人。


男。


立っている。


カイ。


「……。」


シュウ。


声。


変わる。


『カイ。』


「うん。」


分かる。


一週間。


何もなかった。


だから。


護衛は。


終わった。


男。


顔。


上げる。


「やっと。」


笑う。


「一人になった。」


カイ。


後ろ。


下がる。


「……タイミング良すぎない?」


『監視されていたな。』


「レンに連絡。」


スマホ。


出す。


男。


消える。


シュウ。


『来るぞ!』


カイ。


今度は。


見えた。


ほんの少し。


男の肩。


腰。


脚。


流れ。


カイ。


身体。


ずらす。


拳。


頬。


掠める。


男。


「……?」


カイ自身も。


驚く。


「……今。」


シュウ。


『カイ。』


男。


二撃目。


カイ。


手。


出す。


触れる。


腕。


流れ。


感じる。


絡まり。


一つ。


そこへ。


指。


入れる。


男の拳が。


僅かに。


逸れた。


カイ。


「……。」


シュウ。


内側。


笑う。


『エステ。』


カイ。


構える。


「たぶん。」


一週間。


カイは。


戦闘訓練など。


一度もしていない。


ただ。


いつも通り。


客の身体を。


触っていただけ。


それでも。


確実に。


何かが。


変わっていた。


カイ。


男を見る。


そして。


一言。


「肩、凝ってますね。」


男。


「……は?」


シュウ。


『そこから入るのか。』


――第五話・了

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