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人情

『廻天』


第四話 予約


午前七時。


目覚まし。


鳴る。


カイ。


止める。


寝る。


七時十分。


鳴る。


止める。


寝る。


七時二十分。


鳴る。


止める。


寝る。


『カイ。』


「……。」


『朝だ。』


「知ってる。」


『なら起きろ。』


「起きてる。」


『目を開けろ。』


「心は起きてる。」


『身体を貸せ。』


カイ。


目。


開く。


「何する気。」


『起きる。』


「俺の身体で?」


『そうだ。』


「嫌だよ。」


『なら自分で起きろ。』


「あと五分。」


『昨日殺されかけた人間とは思えんな。』


「昨日殺されかけたから眠いの。」


『なるほど。』


「納得すんな。」


カイ。


また。


目を閉じる。


ピンポーン。


「……。」


『誰か来たぞ。』


「無視。」


ピンポーン。


「……。」


ピンポーン。


ピンポーン。


ピンポーン。


カイ。


布団。


頭まで被る。


「うるさい……。」


『随分せっかちな客だな。』


ピンポーン。


ドンドンドン。


「カイ!!」


カイ。


目。


開く。


「……。」


シュウ。


『レンだな。』


「帰ってもらおう。」


⸻


玄関。


カイ。


寝癖。


パジャマ。


ドア。


少しだけ開ける。


「何。」


レン。


立っている。


私服。


片手。


コンビニ袋。


「生きてるか。」


「寝てる。」


「喋ってんだろ。」


「おやすみ。」


閉める。


レン。


足。


挟む。


「痛ぇ!」


「何してんの。」


「閉めるな!」


「朝早い。」


「七時半だぞ!」


「朝早い。」


「仕事あるんだろ!」


「十時から。」


「昨日殺されかけた奴が普通に出勤すんな!」


カイ。


「生活費。」


レン。


「……。」


「家賃。」


「……。」


「税金。」


「もういい。」


⸻


レン。


部屋。


入る。


カイ。


「勝手に入らないで。」


「お前が入れたんだろ。」


「足挟んだじゃん。」


「誰の様子見に来たと思ってんだ!」


カイ。


レンの袋を見る。


「何それ。」


「朝飯。」


「俺の?」


「俺の。」


「帰って。」


「何でだよ!」


⸻


レン。


テーブル。


コンビニ袋。


置く。


中。


おにぎり。


味噌汁。


水。


ゼリー飲料。


湿布。


鎮痛剤。


カイ。


「……。」


レン。


「何だ。」


「めちゃくちゃ様子見に来てるじゃん。」


「違う。」


「湿布まである。」


「余った。」


「新品じゃん。」


「昨日買った。」


「俺のために?」


「違う!」


カイ。


「ツンデレ?」


「殺すぞ。」


『良い奴だな。』


シュウ。


カイ。


「シュウも良い奴って。」


レン。


「本人に言わせろ。」


「今出せない。」


「使えねぇな。」


『こいつ嫌いだ。』


「嫌いになったって。」


「知るか。」


⸻


カイ。


おにぎり。


手。


伸ばす。


レン。


叩く。


「俺のだ。」


「一個くらい。」


「自分で買え。」


「怪我人だよ。」


「さっきまで仕事行くって言ってただろ。」


「怪我人だけど働く。」


「一番面倒なタイプじゃねぇか。」


カイ。


もう一度。


手。


伸ばす。


レン。


避ける。


カイ。


もう一度。


レン。


避ける。


「ケチ。」


「お前ん家に飯ないのか。」


カイ。


冷蔵庫。


開ける。


水。


調味料。


プリン。


以上。


レン。


「……。」


カイ。


「ある。」


「プリンしかねぇじゃねぇか。」


「水もある。」


「食生活終わってんな。」


『俺も前からそう思っていた。』


「シュウまで。」


レン。


ため息。


おにぎり。


一個。


投げる。


カイ。


受け取る。


「ありがとう。」


「鮭だからな。」


「うん。」


「俺が食いたかったやつだからな。」


「じゃあ返す?」


レン。


「……食え。」


カイ。


笑う。


⸻


八時十五分。


レン。


「で。」


カイ。


おにぎり。


食べながら。


「何。」


「昨日のこと。」


「日常回だから今日はなし。」


「何言ってんだお前。」


「気分。」


「こっちは仕事なんだよ。」


カイ。


止まる。


「仕事?」


「そうだ。」


「レンって何してる人?」


「……。」


初めて。


レン。


黙る。


カイ。


見る。


「無職?」


「違う。」


「刀持った無職?」


「違う!!」


「じゃあ何。」


レン。


腕。


組む。


「異能犯罪の対処。」


「警察?」


「違う。」


「自衛隊?」


「違う。」


「公務員?」


「……近い。」


カイ。


目。


細める。


「ちゃんと給料出る?」


「出る。」


「ボーナス?」


「ある。」


「福利厚生?」


「ある。」


「有給?」


「ある。」


カイ。


「紹介して。」


「エステ辞める気かよ。」


「条件による。」


「昨日殺されかけて今日転職活動すんな。」


⸻


カイ。


ふと。


レンの手。


見る。


「傷多いね。」


レン。


自分の手を見る。


古い傷。


新しい傷。


刀だこ。


「仕事だからな。」


「いつからやってるの。」


「十六。」


「若。」


「お前と大して変わらん。」


「何で始めたの?」


レン。


一瞬。


止まる。


「……。」


カイ。


「言いたくないならいいよ。」


レン。


「別に。」


水。


飲む。


「家がそういう家だっただけだ。」


「家業?」


「そんなもん。」


「じゃあ子どもの頃から刀?」


「まあな。」


カイ。


「大変だね。」


レン。


「……。」


カイ。


普通に。


おにぎり。


食べる。


それ以上。


聞かない。


レン。


少しだけ。


カイを見る。


「お前。」


「何。」


「聞かないのか。」


「何を。」


「家のこと。」


「言いたくなさそうだったから。」


「……。」


「聞いてほしい?」


「別に。」


「じゃあ聞かない。」


「……。」


シュウ。


『面倒な男だな。』


カイ。


「シュウが面倒な男って。」


レン。


「お前経由で悪口言われるの腹立つな。」


⸻


九時。


カイ。


着替え。


レン。


「本当に行くのか。」


「行くよ。」


「身体痛いだろ。」


「痛い。」


「休め。」


「無理。」


「何で。」


カイ。


振り返る。


「今日、指名三件。」


レン。


「……。」


「俺じゃないと嫌って言ってくれる人だから。」


レン。


「……。」


カイ。


鞄。


持つ。


「待ってくれてるから行く。」


レン。


黙る。


シュウ。


内側。


『なるほど。』


カイ。


(何。)


『お前がこの仕事を続ける理由が少し分かった。』


(お金。)


『台無しだ。』


⸻


駅。


向かう。


何故か。


レンもいる。


カイ。


「何でついてくるの。」


「護衛。」


「仕事は?」


「これが仕事。」


「俺の護衛?」


「一時的にな。」


カイ。


「給料出る?」


「そこ気にすんな。」


「俺にも出ない?」


「出ねぇよ。」


「危険手当。」


「何で護衛対象に払うんだ。」


⸻


電車。


混んでいる。


カイ。


吊り革。


レン。


横。


刀。


袋。


入っている。


カイ。


「それ毎日持ってるの?」


「必要だからな。」


「職質されたらどうするの。」


「許可ある。」


「へぇ。」


カイ。


袋。


触ろうとする。


レン。


手。


叩く。


「触るな。」


「ちょっとだけ。」


「駄目。」


「ケチ。」


「刀を貸し借りする文化はねぇ。」


『見せてもらえ。』


シュウ。


カイ。


「シュウが見たいって。」


レン。


「嫌だ。」


『ケチだな。』


「ケチだって。」


「直接言え!!」


隣。


サラリーマン。


レンを見る。


レン。


黙る。


カイ。


笑い。


堪える。


「……。」


レン。


小声。


「お前。」


「何。」


「公共の場でシュウと会話すんな。」


「何で。」


「俺が変な奴に見える。」


「実際刀持ってるし。」


「袋入れてるだろ!!」


⸻


午前九時四十七分。


エステサロン。


到着。


カイ。


鍵。


開ける。


レン。


「じゃあ俺は周辺見てる。」


「待って。」


「何だ。」


カイ。


レン。


見る。


右肩。


「昨日。」


「……。」


「右肩、痛そうだった。」


レン。


「別に。」


「硬いよ。」


「何で分かる。」


「エステティシャンだから。」


「……。」


カイ。


店内。


指差す。


「十五分ある。」


「嫌だ。」


「無料。」


「嫌だ。」


「昨日助けてもらったお礼。」


「いらん。」


「じゃあ鮭おにぎりのお礼。」


レン。


「……。」


カイ。


ニヤ。


「痛いんでしょ。」


「痛くねぇ。」


⸻


五分後。


レン。


うつ伏せ。


施術ベッド。


「……。」


カイ。


「痛い?」


「別に。」


肩。


押す。


「……っ。」


「痛い?」


「別に。」


もう少し。


「ぐっ。」


「痛い?」


「別に。」


カイ。


「じゃあ強くするね。」


「待て。」


『三寸下だ。』


シュウ。


カイ。


(ここ?)


『もう少し内側。』


カイ。


押す。


レン。


「いっっっっってぇぇぇ!!」


カイ。


手。


離す。


「ごめん!」


「テメェ!!」


「シュウ!」


『そこだ。』


「お前わざとだろ!」


『効いている証拠だ。』


レン。


起きる。


「何て言ってる!」


カイ。


「効いてる証拠。」


「出せ!!」


「無理だって!」


「今すぐシュウ出せ!!」


『断る。』


「断るって。」


「あいつ絶対殴る!!」


⸻


十分後。


レン。


肩。


回す。


「……。」


カイ。


「どう?」


「……。」


「レン。」


「……。」


「軽くなった?」


レン。


小声。


「……かなり。」


カイ。


満面。


笑顔。


「次回予約どうします?」


「調子乗んな。」


「来週?」


「来ねぇ。」


「左肩もやばいよ。」


「……。」


「来週?」


レン。


目。


逸らす。


「時間があれば。」


カイ。


「予約入れとくね。」


「勝手に入れんな!」


⸻


ピンポーン。


最初の客。


カイ。


「はーい。」


レン。


出口。


向かう。


カイ。


「レン。」


「何だ。」


「ありがと。」


レン。


止まる。


「何が。」


「昨日も。」


「……。」


「今日も。」


レン。


振り返らない。


「仕事だ。」


「おにぎりも。」


「余っただけだ。」


「鮭食べたかったんでしょ。」


「うるせぇ。」


ドア。


開ける。


レン。


外へ。


肩。


一度。


回す。


「……。」


痛くない。


久しぶりに。


本当に。


痛くない。


レン。


自分の肩を見る。


そして。


小さく。


「……すげぇな。」


ドアの向こう。


カイ。


「聞こえてるよー。」


レン。


「仕事しろ!!」


カイの笑い声。


聞こえる。


レン。


歩き出す。


昨日まで。


ただの護衛対象だった。


正体不明。


危険。


面倒。


頭の中には。


さらに面倒な男。


なのに。


レンは。


少しだけ。


思った。


こいつといるのは。


案外。


悪くないのかもしれない。


その直後。


スマホ。


鳴る。


画面。


見る。


【カイ:来週火曜日 10:00〜 60分コースで予約入れました】


レン。


止まる。


「勝手に予約入れんなっつっただろ!!」


店内。


カイ。


スマホ。


見る。


シュウ。


『来ると思うか?』


カイ。


「来るよ。」


『何故分かる。』


「エステティシャンだから。」


『関係あるのか?』


「ない。」


――第四話・了

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