現代最強(仮)
『廻天』
第三話 レン
黒い力が迫る。
シュウは指先に触れた、白い何かを見る。
見える。
だが。
分からない。
糸のようで。
糸ではない。
掴める。
だが。
どう扱えばいいのか分からない。
『シュウ!』
カイの声。
「分かってる!」
黒。
目前。
シュウは白い筋を引いた。
瞬間。
黒い力の流れが僅かに歪む。
だが。
足りない。
「……まずい」
『え?』
「無理だ」
『さっきからそれ多くない!?』
「仕方ないだろ!」
黒が二人を飲み込む。
その。
直前。
ズバン!!
一閃。
黒い力が真ん中から割れた。
「……?」
シュウの頬を風が抜ける。
黒い力は左右へ分かれ、背後の道路を抉った。
シュウは前を見る。
一人の男が立っている。
黒髪。
腰には刀。
年齢はカイと同じくらい。
そして。
妙に不機嫌そうな顔。
男は刀を振る。
刃にまとわりついていた黒いものが飛び散った。
「往来で」
男が言う。
「何やってんだ、お前ら」
シュウ。
「……」
内側。
カイ。
『誰?』
「知らん」
『シュウの知り合いじゃないの?』
「俺はこの時代に知り合いなどいない」
『じゃあ誰だよ』
「本人に聞け」
『今シュウが表じゃん』
「……」
シュウは男を見る。
「誰だ」
男の眉が動く。
「それはこっちの台詞だ」
⸻
黒い力を操っていた男の表情が変わる。
一歩。
後ろへ。
「……レン」
シュウ。
「知り合いか」
レン。
「違う」
「向こうはお前を知っているぞ」
「よくある」
「そうなのか」
「お前」
レンはシュウを見る。
「誰だ」
「シュウ」
「そうじゃない」
「では何だ」
レンは眉間を押さえた。
「面倒くせぇ……」
カイ。
『なんか怒ってない?』
「知らん」
⸻
敵の腕へ再び黒い力が集まる。
レン。
視線だけを向ける。
「おい」
敵。
止まる。
「逃げるなら今だぞ」
男が笑う。
「随分と余裕だな」
「忠告してるだけだ」
「一人で何ができる」
レン。
「一人?」
シュウを見る。
「こいつは数に入れなくていい」
「おい」
『めっちゃ舐められてるじゃん』
「聞こえている」
⸻
男が腕を振る。
黒い力が一斉に放たれた。
正面。
左右。
上。
シュウ。
「……」
カイ。
『これヤバくない?』
「ああ」
レンが一歩前へ出る。
刀を抜く。
《穿牙》。
一閃。
何も起きない。
シュウ。
「……?」
次の瞬間。
空間を細い斬撃が走った。
一本。
二本。
五本。
十本。
黒い力が触れる前に、すべて切断される。
ドドドドドッ!!
黒い塊が地面へ落ちる。
カイ。
『……』
シュウ。
「……」
『シュウ』
「言うな」
『あいつの方が強くない?』
「今はな」
『今は』
「そう言った」
『負け惜しみ?』
「事実だ」
⸻
レンが地面を蹴る。
一瞬で敵の懐へ入った。
「!」
刀。
敵は黒を腕へ纏わせて受ける。
ギィン!!
火花。
レン。
「硬いな」
男。
「その程度か!」
黒が爆発する。
レンの身体が吹き飛んだ。
空中で身体を捻る。
着地。
靴が地面を滑る。
「……痛ぇ」
カイ。
『普通に痛がるんだ』
シュウ。
「人間だからな」
レン。
「聞こえてるぞ」
「何も言っていない」
「顔に出てんだよ」
⸻
敵。
両腕。
広げる。
黒い力がさらに増える。
レンは刀を握り直す。
その横へ。
シュウが並んだ。
「何してる」
「手伝う」
「いらん」
「そうか」
シュウ。
下がる。
「本当に下がるな!」
「どっちだ」
カイ。
『こいつ面白いな』
「お前と気が合いそうだ」
『嫌だよ』
⸻
敵が踏み込む。
レンが迎える。
シュウは見る。
今度は敵ではない。
レン。
足。
腰。
肩。
肘。
刀。
すべてが一つの流れとして繋がっている。
シュウ。
「……」
綺麗だ。
無駄がない。
だが。
一ヶ所。
ほんの僅か。
引っかかる。
右肩。
刀を振る瞬間だけ、力が一瞬滞る。
「レン」
「何だ!」
「右肩」
「は?」
「力を入れるのが早い」
「今言うことか!?」
敵の拳。
レンの刀。
激突。
ギィィン!!
レンが押される。
シュウ。
「三呼吸遅らせろ」
「意味分かんねぇ!」
「いいからやれ」
「何で俺がお前の――」
黒。
迫る。
レン。
舌打ち。
右肩。
力を抜く。
一。
二。
三。
踏む。
肩。
入れる。
刀。
振る。
ズン。
黒が斬れる。
その奥。
敵の胸に初めて傷が走った。
「……!」
レン。
自分の刀を見る。
「……」
シュウ。
「ほら」
レン。
「お前、今の何だ」
「肩」
「それは聞いた」
「硬かった」
「……」
カイ。
『シュウ』
「何だ」
『エステみたいになってる』
「俺は編み物職人だ」
『余計意味分かんないよ』
⸻
男。
胸を押さえる。
表情から余裕が消える。
「……なるほど」
黒い力が身体を覆う。
密度。
速度。
今までとは違う。
レン。
「来るぞ」
シュウ。
「ああ」
『俺は分かってない』
「お前は黙ってろ」
『俺の身体なんだけど!?』
男。
消える。
レン。
「っ!」
速い。
刀が間に合わない。
シュウ。
見る。
また。
白い筋。
敵の肩から。
胸。
腰。
脚。
一本。
繋がっている。
「……そこ」
シュウ。
手を伸ばす。
白い筋に触れる。
引く。
ほんの僅か。
男の踏み込みが崩れた。
「……!?」
一瞬。
だが。
レンには十分だった。
刀。
振り抜く。
《穿牙》。
ズバン!!
男の身体が吹き飛ぶ。
地面。
一度。
二度。
転がる。
黒い力が霧散した。
そして。
動かなくなった。
⸻
静寂。
レン。
刀を下ろす。
「……死んだか?」
シュウ。
「知らん」
「見てこい」
「嫌だ」
「何でだよ」
「怖い」
「お前さっきまで戦ってただろ!」
『俺も怖い』
「お前ら面倒くせぇな!」
レンが男へ近づく。
首。
触れる。
「……生きてる」
シュウ。
「よかったな」
「何がだ」
レンは男の腕を背中へ回す。
拘束。
男が僅かに呻く。
「……ぐ」
レン。
目を細める。
「起きろ」
返事なし。
レン。
頬。
叩く。
「おい」
男。
ゆっくり目を開ける。
「……」
レン。
刀の切っ先を首元へ置く。
「聞きたいことがある」
男。
笑う。
「……レン」
「俺の名前はどうでもいい」
レン。
シュウを見る。
正確には。
その身体を見る。
「こいつを『試験体』と呼んだな」
シュウの表情が変わる。
内側。
カイも黙る。
レン。
「どういう意味だ」
男。
答えない。
「誰に命令された」
沈黙。
「カイを狙う理由は」
男。
初めて。
カイの身体を見る。
そして。
小さく笑った。
「何も知らないんだな」
シュウ。
「……何をだ」
「お前も」
男の目が。
シュウを見る。
「そこにいるカイも」
カイ。
『……』
シュウ。
「俺が中にいることまで知っているのか」
男。
「当然だ」
レン。
「誰が作った」
男。
笑う。
「お前たちが」
言葉。
止まる。
「……?」
男の首筋。
黒い模様。
浮かぶ。
レン。
目を見開く。
「離れろ!」
シュウ。
「何だ?」
「いいから離れろ!!」
レンがシュウを突き飛ばす。
次の瞬間。
男の身体が。
黒く。
崩れ始めた。
カイ。
『え!?』
シュウ。
「死ぬのか!?」
レン。
「違う!」
男の指。
腕。
胸。
黒い粒子へ変わる。
レンが腕を掴もうとする。
手。
すり抜ける。
「転送だ!」
男。
半分。
消える。
それでも。
笑っている。
シュウ。
「待て!」
男。
最後に。
言う。
「また会おう」
視線。
カイへ。
「完成品。」
消えた。
⸻
風。
吹く。
誰もいない。
道路。
残っているのは。
戦闘の跡だけ。
シュウ。
「……完成品?」
内側。
カイ。
答えない。
レン。
男がいた場所。
しゃがむ。
黒い粒子。
触れる。
すぐに。
消える。
「痕跡まで消しやがった」
シュウ。
「何者だ」
レン。
「分からん」
「役に立たないな」
「お前に言われたくねぇ!」
⸻
シュウ。
身体。
揺れる。
「……?」
視界。
暗くなる。
カイ。
『シュウ?』
「どうやら」
膝。
落ちる。
レン。
「おい」
シュウ。
息を吐く。
「時間切れらしい」
『え』
「戻るぞ」
『どうやって?』
「知らん」
『また!?』
意識。
沈む。
⸻
カイ。
目。
開く。
「……」
目の前。
レン。
「……」
カイ。
周りを見る。
壊れた道路。
壁。
黒い跡。
「……終わった?」
レン。
「一応な」
カイ。
立とうとする。
「痛っ!」
腹。
肩。
背中。
全部。
痛い。
「何これ」
レン。
「戦ったからだろ」
「シュウが?」
「身体はお前だ」
「……最悪」
レン。
「お前、本当に何も知らないのか」
カイ。
「何を」
「試験体」
「知らない」
「完成品」
「知らない」
「襲ってきた奴」
「知らない」
「シュウ」
「最近知った」
レン。
「……」
カイ。
「何」
レン。
深い。
ため息。
「お前、よく今まで普通に生きてこれたな」
「普通に働いてるけど」
「仕事何してる」
「エステティシャン」
「……」
レン。
数秒。
黙る。
「エステ?」
「うん」
「シュウは?」
「編み物職人らしい」
「……」
レン。
空を見る。
「意味分かんねぇ」
「俺も」
⸻
その頃。
どこか。
暗い部屋。
黒い粒子。
集まる。
男の身体。
再構築。
膝。
床につく。
「……回収失敗」
正面。
一人の女。
座っている。
「そう」
「レンが介入した」
「見てた」
男。
顔を上げる。
「次は殺す」
女。
即答。
「ダメ」
「何故だ」
「命令だから」
「試験体一体だぞ」
女。
男を見る。
表情。
消える。
「試験体じゃない」
男。
「……?」
女。
立つ。
「もう完成してる」
歩く。
男の横を通る。
「それに」
止まる。
ほんの少し。
笑う。
「カイは殺しちゃダメ」
「何故だ」
女。
答えない。
ただ。
モニター。
見る。
そこには。
レンに肩を貸されながら歩く。
カイ。
映っている。
「もう少しだけ」
女。
呟く。
「普通に生きてもらうから」
⸻
カイは知らない。
自分が何なのか。
シュウも知らない。
何故、自分がカイの中にいるのか。
レンだけが。
一つ。
確信していた。
今夜の襲撃は。
始まりに過ぎない。
そしてカイは。
そんなことより。
明日の予約を思い出していた。
「……レン」
「何だ」
「明日仕事なんだけど」
「休め」
「無理」
「何でだよ!」
「予約入ってる」
レン。
「お前今日殺されかけたんだぞ!?」
カイ。
「でもキャンセルしたら売上なくなるじゃん」
「……」
シュウ。
内側。
『現代とは恐ろしいな。』
カイ。
「ほんとそれ」
レン。
「だから誰と喋ってんだよ!!」
――第三話・了




